ドングリ号7
「なっ、オレん言うたとおりやろ。やっぱ、オレらを駅に呼んだんや」
元作さんはこぼれんばかりの笑顔だ。
「吉蔵さん、元作さんの言うとおりやで。たまたまにしちゃあ、どうでんねえできすぎやもん」
「ああ、まちがいねえみたいやな」
新吉さんと吉蔵さんは顔を見合わせ、ともに満面の笑みを浮かべた。
「そんじゃあ、もういっぺん。今度はワシがためしちみるわ」
ゴンちゃんはドングリ号の黒い車体を二度、三度と手の平でなで、それからなんともややこしい要求をしたのだった。
「なあ、ドングリ号や。ほんとにワシら村のもんをここに呼んだんか? もしそんなら汽笛を三回、それに煙を二回出すんや」
この要求がむずかしすぎたのか?
それとも、それまでがただの偶然だったのか?
先ほどのように、ドングリ号からすんなりと返事が返ってこない。
一秒、二秒、三秒……。
五人はかたずをのんで待っていた。
四秒、五秒……。
ブゥオ、ブゥオ、ブゥオー
汽笛が三回鳴る。
続いて、煙突から煙のかたまりが二つ噴き上った。
「わあー」
「おー」
五人はそろって歓声をあげていた。
「なあ、駐在さん。元作さんにもできんようなこつをやらせるなんち、ドングリ号がこまるやないか」
新吉さんが冗談まじりに笑う。
「なあーに。元作より頭のいいんは、ようわかっちょったけんな」
ゴンちゃんは笑って答えた。
「おー、客車んドアが!」
ミツさんが振り返って叫んだ。
後方の客車の乗降ドアが、ガラガラと音をたてながら開いている。
「新吉! 急いで公民館に電話するんや。みんな心配しちょるけんな。そんでお夏さんに、これから駅に来るよう言うんや。みんなの来るんを、ドングリ号が待っちょるってな」
吉蔵さんが連絡をするよう言う。
「ついでに酒を持っちくるように言うわ」
新吉さんはそう言うが早いか、すぐに改札口のそばにある電話ボックスへと走った。
シュッ、シュッ、シュッ……。
ドングリ号がピストンの脇から、白い蒸気を小刻みに吐き始めた。生命のあるものが、まるで呼吸をしているかのごとく……。
―栗原村住人たちの紹介―
元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。
お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。
新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。
吉蔵さん……病気で倒れた妻、タマの介護を自宅でしている。おスミさんは実の姉にあたる。
ゴンちゃん………栗原村の最後の駐在員。栗原村が気に入り、そのままいついている。
ミツさん……喜八さんの妻。夫の体の具合をいつも心配している。




