ドングリ号1
元作さんと新吉さん、それにミツさんの三人は清流駅の近くまで来ていた。
ブゥオー。
星明かりだけの薄暗い駅の方向から、ドングリ号の汽笛の音が聞こえてくる。
「クソー、いってえだれが?」
元作さんは腹だたしげに舌打ちしてから、駅に向かっていっそう足を速めた。
「なあ、元作さん。ドングリ号にゃ、いつも鍵はかけちねえんか?」
うしろを歩く新吉さんが声をかける。
「いや、毎日かならずかけち帰る。それに鍵は、オレがいつもこうしち持っちょるけんな」
元作さんは立ち止まり、ポケットから黒光りのする鍵を取り出して見せた。
「そんじゃあ、鍵をこわしち入り込んだんやな」
「そうとしか考えられん。最後の最後になっち、どうしちこげえなこつに」
このかた……。
ドングリ号は一度たりとも事故を起こしたことがない。それがいたらぬ者のしわざで暴走でもさせられたら、これまでの功績が水の泡になってしまう。
ここで――。
清流駅とドングリ号のことについて詳しくふれておくことにする。
まず、清流駅。
名前の清流については、村の神社――セイリュウ神社から拝借したものだ。ただし神社の名前、セイリュウの語源は定かではない。
セイリュウに漢字をあてれば、栗原村では古くから清流と記されてきた。さらにその由来は、神社敷地内にある直径二十メートルほどの池にある。
この池の水源は湧き水で、あふれ出る水は清流として近くの小川に注ぎ込んでいる。こうしたことから清流池と呼ばれ、神社も同じく清流と記されてきた。
だが、由来にはほかの説もある。
青龍という語源である。
これは遠い昔、天空から青龍が舞い降り、池に棲みついたという伝説をもとにする由来。どの地方にもありそうなマユツバものだ。ただ本殿の天井には、龍の絵が描かれていることも事実である。
ではどうして、清流駅がセイリュウ神社の名を拝借したのか?
それは駅が、神社の敷地の一画にあることからきている。すなわち場所から名前をとったのである。
ついでに、もうひとつ。
鉄道の駅が、なぜ神聖な神社の敷地の一画に建設されたのか?
これについては、建設当時の鉱山会社の事情によるものである。




