お別れの夜11
全員が玄関に集まっていた。
早く事情を知りたそうに、みなが喜八さんの口元を見ている。
その喜八さん、コップの水を何口か飲むと、乱れていた呼吸もしだいに落ちついてきた。
「なあ、なにがあったんや?」
吉蔵さんが待ちきれずにたずねる。
「駅ん方に煙を見たんじゃ。だれかが、ドングリ号ん釜に火を入れたにちがいねえ」
「元作ん言うたとおり、よそもんが駅ん中に……。そんで、元作たちに会わんかったか?」
「ああ、そこで元作と新吉におうたで」
「ところで、ミツさんはどうしたんや? 喜八さんといっしょやったやないか」
「ウチんヤツは二人についていったんじゃ。足腰がじょうぶやけんな」
「そん煙、まちがいのうドングリ号のもんやったか?」
吉蔵さんが確かめるように聞く。
「まちがいねえ。いつも見ちょるけんな。それにワシら、駅ん近くまで行ってたからの」
そこで喜八さんは、さらに水をひと口飲んでから話を続けた。
「汽笛がしたんで、すぐに駅ん方を見るとな。そしたらドングリ号ん煙も見えたんや」
「のう、駐在さん。こりゃあ、まちがいねえぞ。だれかがドングリ号に悪さしたんや」
吉蔵さんがゴンちゃんの顔を見やる。
「どこのどいつか知らんが、とんでもねえことをしやがっちから」
ゴンちゃんはいまだにオマワリ気分が抜けないようで、鼻の穴を大きくふくらませていきまいた。
「吉蔵さん、いっしょに行くか?」
「もちろんや!」
吉蔵さんは答えるやいなや靴をはいた。
「気をつけるんやぞ!」
お夏さんが二人の背中に声をかける。
「心配ねえ、まかせちょけ」
「かならずゾクを捕まえちゃるけん」
ゴンちゃんと吉蔵さん、二人は肩をいからせ公民館を出ていった。




