表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/83

お別れの夜10

 まっ先に、元作さんが顔色を変えて立ち上がった。

「ドングリ号や! ドングリ号の汽笛や」

「今ごろ、なんで鳴ったんやろ?」

 新吉さんも立ち上がる。

「よそもんが駅に入りこんで、ドングリ号に悪さしたんやなかろうか?」

「ちげえねえぞ。そうでねえと、こげな夜中に鳴るわけがねえ」

「鉄道マニアんヤツかもしれんな。たまに駅ん中をウロウロしよるけん」

「かってに機関室ん中に入るなんち」

 栗原村には多くの鉄道ファンが訪れる。そんななかにはマナーの悪い者がいて、かってに駅構内や線路敷に入り込んだりしていた。

 トイレからおスミさんが、あわてたようすで飛び出してきた。

「元作、どうしたんや? 今、ドングリ号の汽笛ん音がしたやないか」

「わからん。けどな、汽笛が鳴ったんはたしかや。心配やけん、駅まで行っちみるわ」

「なら、オレも行くわ」

 そう言い残し……。

 元作さんと新吉さんは、すぐさま公民館を飛び出していった。

 外に出て駅を見やる者。

 窓から駅の方向を見やる者。

 外に出た者に駅のようすを聞く者。

 どうしたものかと顔を見合わせている者。

 それぞれの者がいちように心配し、公民館はにわかにあわただしくなった。

 この騒ぎに目をさましたゴンちゃんが、ただならぬ気配を感じ取り、お夏さんの腕をつかんで聞いた。

「ドングリ号になんかあったんか?」

「ああ、汽笛が鳴ったんや。元作と新吉んヤツは、すぐに飛んでいったんやがな」

「なんやと?」

 ゴンちゃんは窓辺にかけ寄った。

 そこには吉蔵さんが身を乗り出すようにしていた。

「吉蔵さん、なんか見えるか?」

「ダメや、木があってよう見えん」

 駅までは三百メートルほどの距離。その間にセイリュウ神社の森があったのだ。

「ワシも駅に行っちみるけん」

 ゴンちゃんがお夏さんに声をかける。

「そうか。で、なんかわかったら、電話ですぐに連絡するんやぞ」

「ああ」

 ゴンちゃんがうなずいて、片方の靴に足をつっ込んだときである。

「たっ、たいへんじゃー」

 散歩に出ていた喜八さんが、大声をあげながら玄関に転がり込んできた。

 息も絶え絶えである。


―栗原村住人たちの紹介―


元作さん……十七歳のとき、栗原村に来て鉄道会社に就職。以来一筋、蒸気機関車ドングリ号に乗る。

お夏さん……亡き夫が村の駐在所の駐在員であったことから、住人たちに頼りにされている。

新吉さん……村では一番若く六十歳。元作さんとともに日ごろから村の世話をする。

綾乃さん……東京生まれの東京育ち。夫が栗原村出身であり、夫の死後も村で暮らしを続ける。

徳治さん……頭はボケているが、体はいたって元気である。トキと夫婦。

トキさん……徳治の妻。認知症の徳治の世話に追われている。

吉蔵さん……病気で倒れた妻、タマの介護を自宅でしている。おスミさんは実の姉にあたる。

タマさん……吉蔵さんの妻。脳梗塞で倒れて以来、体半分の自由を失う。

菊さん……夫を鉱山の落盤事故で失って以来、女手ひとつで三人の子供を育てあげる。

スナばあ……九十七歳で村一番の高齢者。独り暮らしだが、いたって健康。

おスミさん……夫の戦死で嫁ぎ先から村にもどる。以来、再婚もせず村で暮らす。吉蔵さんの姉。

鶴じい……九十歳なかば。踊ることが趣味。息子が一人いたが戦死する。

ゴンちゃん………栗原村の最後の駐在員。栗原村が気に入り、そのままいついている。

弥助さん……鉱山が開業してからは農業をやめ、閉山するまで鉱山で働く。独り暮らし。

喜八さん……高齢のため足腰がめっぽう弱い。妻はミツさん。

ミツさん……喜八さんの妻。夫の体の具合をいつも心配している。

冬次郎さん……妻と死別し、子供が帰省しなくなってからアルコール依存症となる。

庄太郎さん……鉱山のダイナマイトの爆破事故で右手の手首から先を失う。

おツネさん……離婚して村にもどって以来、ずっと独り暮しをしている。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ