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今日は、妹の再勉強初日。基本からもう一度ミシェルに学んでもらい、伯爵令嬢として、どこにだしても恥ずかしくない知識を学んでもらう。初日の授業は、父と私も見学をすることになった。


「嫌よ。お勉強なんてしないわ。このままで充分でしょう?お父様」


「ミシェル、駄目だよ。アネットとも約束しただろう、もう一度勉強し直すって」


「でも賢くなったら、お父様はミシェルのこと嫌いになるでしょう?お勉強したらお父様は、笑いかけてくれなくなるもの!」


「そんなことないぞ」


「だってお姉様がお勉強し始めたら、お父様はお姉様に笑わなくなったわ」


うんミシェル、そうよね。あの頃幼かった妹だが、幼かったからこそ、急に変わった父の態度が衝撃的だったのだろう。


「……嫌、そんな…はずは…。アネット…」


「お父様、残念ながら私もそう思ってました。ミシェルがお勉強をしなくなったのは、お父様の私に対する態度の所為ですわ」


父が顔色を悪くしながら、私と妹を交互に見ている。このまま先生の前で会話を続けるのは、家の為にはならないので、父と先生には部屋から出ていってもらうことにする。


「お父様、今日はミシェルと話がしたいので、先生には改めて来ていただきましょう。先生、本日はミシェルが勉強出来る状態ではないので、申し訳ありませんが再度、来ていただく日を連絡いたします」


「かしこまりました。では、ご連絡お待ちしております」


「よろしくお願いします。お父様は先生のお見送りをお願いします」


父と先生が部屋から出ていったのを確認して、お茶の準備をしてもらう。


「ミシェル、お話をしましょうか」


「…お姉様…」


「あのね、私がお勉強し始めた理由を話すわね。聞いてくれる?」


ミシェルは勉強を拒否したので叱られるのかと、シュンとしながら頷く。


「私達のお母様が亡くなったのは、私が7歳、ミシェルが4歳の時だったでしょう?もしあの時、私がお勉強をしなければ、お父様は再婚してしまったかもしれないの」


「え?再婚?」


「そうよ、あなたもラヴァル家で、女主人としてのお仕事を習ったでしょう?屋敷には、そういうお仕事を、出来る人が必要なの。でも、私はお母様以外の人をお母様と呼びたく無かった」


ミシェルは考えても見なかったと言う顔をしているが、ちゃんと話を聞いてくれている。


「そして、新しいお母様が来てしまうと、お父様は新しい家族に取られてお母様の事を、私達を忘れてしまうかも知れないと思ったの。私は亡くなったお母様を、ミシェルを、そして私自身を守りたいから。お父様とミシェルとの3人の生活を守りたかったから、お勉強を頑張ったのよ」


「3人での生活を守るため?」


「私に対するお父様の態度が、急に変わったでしょう?あんな風に、新しいお母様に子供が出来たら、ミシェルにも笑いかけなくなるかも…そうはなって欲しくない、と思って一生懸命、女主人としてのお仕事を覚えたの」


そうなのだ、私への態度の豹変がミシェルに対しても行われたら…家族が壊れてしまうのが怖かった。壊れないように必死で頑張ったのだ。


「もちろん1人では無理よ。屋敷にいる皆が協力してくれたし、お父様も沢山の事を教えてくれたわ。そして、ミシェルあなたの笑顔に救われた時も沢山あったの」


「私の笑顔?」


「お父様が私に笑いかけなくなっても、ミシェルはいつも私にニコニコ笑いかけてくれて、お話しに来てくれたでしょう?その笑顔を見るたびに頑張ろうと、ずっとミシェルが、笑顔でいれるようにと思えたから、今まで頑張れたのよ」


ミシェルが、ポロポロと泣き出す。その涙を拭いてあげながら、にっこり笑うとミシェルが抱きついてきた。


「お姉様、ごめんなさい。私、お姉様のこと全然わかって無かった。ずっと守られてたなんて…本当にごめんなさい」


「良いのよミシェル、私はあなたに泣きながら謝られるより、笑顔でありがとうって言ってほしいわ」


「お姉様…はい、ありがとうございます」


まだ涙が残る顔で、下手くそな笑顔でありがとうを言ってくれる。本当に、素直で可愛い妹なのだ。


「ミシェル、お勉強するのは悪いことかしら?」


「…そんなこと、ありません。お勉強を頑張ったお姉様は、素敵です。」


「ありがとう、ミシェル。明日からお勉強頑張れる?」


「はい、ちゃんとお勉強します」


「私はお父様の態度が変わった事を、諦めてしまったけど…。あなたの可愛い笑顔で笑いかけられたら、お父様もきっと笑いかけてくれるわ。だからあなたは賢くなっても大丈夫よ」


ミシェルの背中を撫で、伝える。そう、幼い頃から無条件で愛されていたミシェルの笑顔は、可愛くて素敵な笑顔なのだ。勉強が出来るようになっても、笑顔を無くさずこのまま頑張って欲しい。


「先生に連絡して、来てもらえるようにお願いするわ。ミシェルからも、お手紙書いておくのよ」


「はい、お姉様。今日はごめんなさい、明日から頑張ります」


暫く抱き合っていたが、ミシェルの涙も落ち着いて来たので、目を冷やす様に伝えて部屋を出る。そしてその足で父の執務室へ向かう。ノックをするとすぐに返事が、返ってきた。


「アネット!ミシェルは?」


「もう大丈夫です、明日からきちんとお勉強すると言ってくれました」


「そうか、アネットありがとう。そして…」


「お父様、少し私の話を聞いてくれますか?」


父の言葉を遮って話す。ここで話をしないと、もう話せる機会は無いと思ったのだ。


「あぁ、もちろん」


執務室のソファーに座り、話を始める。


「お父様、先程ミシェルが言っていたことですが…」


「アネット、あれは…その…」


「大丈夫です、お父様。確かに子供の頃はショックでしたが、笑いかけてはくださら無かったけど、わからないことは丁寧に教えてくださったし、皆に協力するようにもしてくださった。そして何不自由なく生活させていただきましたわ」


「嫌、そんなことは当たり前の事だ。ただ笑いかけないなど…」


「お父様に私とミシェルを、差別している意識が無かったのは、もうわかりました。それにこの間私が倒れたときに、お父様が看病してくださった。あのことで、愛されていないのではない、愛し方が違ったのがわかったので、もう大丈夫なんです」


「アネット…」


「だから、今まで通りのお父様で居てください。変に態度を変えられる方が、嫌ですわ」


「すまない…」


お父様は遠慮がちに私を抱きしめて、謝って下さいました。その温もりで、今まで引っかかっていた物が、溶けてなくなっていくようでした。少しして、お父様から離れて、いつもの調子で話を続けます。


「先生への連絡、お願いしますね。ミシェルにもお詫びのお手紙を書くように伝えています。そして、ラヴァル家との話し合いの日にちは決まりましたか?」


「今週末に、こちらまで来ていただけると返事をいただいたよ」


「わかりました、ではお迎えの準備をいたしますね」


「うむ、よろしく頼む」


そうしていつものように、仕事の話を少しして父の部屋を出ます。

私が倒れてしまってから、少しギクシャクしていた家族の雰囲気も今日から元通りになりそうです。

ありがとうございます。


誤字脱字報告ありがとうございます。

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