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「え?交換デート?」
「そう!お姉様、素敵なアイデアだと思いません?」
いいえ、全く思いません。
この数ヶ月の間に、いつの間にか恒例になってしまった、私の婚約者、妹、妹の婚約者4人でのお茶会で、妹が突然わけのわからないことを言ってきた。
妹の発言に驚いているのは私と、妹の婚約者だけ。妹と婚約者のダニエル様は、見つめ合って笑い合っている。
あぁそういうことか、最近妹とダニエル様の雰囲気が変わったなと思っていたら…これは2人でコッソリ話をして、この計画を立てたってことね。
「1日、お互いの婚約者を取り替えてデートするの!お互い違う相手とデートしたら、次のデートで新鮮な気持ちになると思うし、相手の良いところを発見出来たりするでしょう?」
「そうだね、それは楽しそうだね」
ダニエル様と妹は楽しそうに話を進めていく、なんの茶番を見せられているのでしょう。
妹の婚約者のジェレミー様は、私を見て仕方ないと肩をすくめる。10年近く婚約者として妹に付き合っているので、こうなったらどうしようも無いことがわかっているのでしょう。
「うん、まあミシェルは言い出したら聞かないからね。アネット嬢僕とデートしてくださいますか?」
「ダニエル様も賛成なのね。では、ジェレミー様よろしくお願いします」
こうして妹のワガママから交換デートをすることになった。
どうして妹がこんなに我儘に育ってしまったのかというと、我が家ジファール家に子供は私と妹の姉妹2人だけ、母は私が7歳妹が3歳の時に流行り病で亡くなった。母の喪が明けて、色んなところからくる縁談に母が大好きだった父は、後妻は娶らずに私が婿をとって、跡取りを迎えると宣言した。
そしてそれから私の跡取り補佐教育が始まったのだ、婿を取るがその婿や婿の実家にジファール家を良いようにされないために、先ずは私が家のことを取り仕切れるようにならないと、との方針で始まった。
とてもありがたい教育だったと思っている。だが私が商会の勉強を熟し屋敷の管理などをし始めると、初めは嬉しそうに褒めていてくれていた父が、少しずつ変わってしまったのだ。
病弱で儚げな母が大好きだった父は、しっかり物で勉強が出来る娘を受け入れられなくなってしまったのだ。そう、馬鹿らしいことに簡単に言ってしまうと、父のタイプではない可愛げが無くなった娘は、庇護する対象では無くなってしまったのだ。
そうして父が庇護し可愛がる娘は妹ミシェルだけ、虐待や放置などはされなかったが、とにかく構い方に格差がありすぎた。
初めは父が、妹だけに笑いかけ可愛いと褒めまくる姿に戸惑ったが、暫くしてなんとなく理由がわかった私は、勉強をするのは家を守るためだ態度の違いは気にしないでおこうと、父の愛情を求めるのはサクッと諦めた。母が居ないこの家を私が代わりに、女主人として取り仕切らないと家は回らなくなる、父の態度で男の人に夢も持てなくなってしまっていたので、将来結婚して旦那様に頼り切りになるのも嫌だと、せっせと勉強した。
父の変わっていく様子に、妹も初めはキョトンと不思議そうにしていたが、妹は当時4歳構われれば嬉しい、そしてそこからずっと自分だけが可愛いと言われて育てば、それが当たり前になってしまう。
物語のように妹は、私に生意気になったりはしなかった、ただジファール家の可愛い妹として過ごしているだけなのだ。我儘だが父に甘えれば欲しいものは大体手に入るので、私の物を欲しがることもあまりなく、たまに私の部屋で欲しい物を見つけると『とりかえっこして』と言ってくるぐらいだった。
私にとっても可愛い妹なので大抵のものは『いいわよ』と、了承してきた。妹が持ってくるのがサイズが小さくなって着れなくなったドレスや、宝石がかけたアクセサリーでも、妹が欲しいと言ってくるものと交換してきたのだ。
だが婚約者は困るのよね、1日だけなら良いけれどこのまま『とりかえっこして』と、いつもの様に言ってきてもこればっかりは無理なのだ。
妹の婚約が決まったのはまだ、妹が6歳の頃だった。父が家と同じように、裕福な伯爵家に話を持っていき決まった婚約だった。ジファール家は爵位は伯爵位を賜っており、この国で3本の指に入る大きな商会を営んでいて、ジェレミー様のラヴァル家は領地にある港から入ってくる輸入品の売買が出来るので、両家にとってとても良い条件の婚約なのだ。
まあラヴァル家に婚約の話を持っていくことに決まったのは、父が絞った候補者の絵姿を妹に見せて、『これ』と妹が顔で選んだありえない方法で選んだのだが。
妹の婚約者は早々に決まったが、私の婚約者は中々決まらなかった。まずは親族の中で年齢が合う候補を審査したが、父の納得のいく人は居なかったらしい、そこから政略的に良さそうな人を父が選び1年前にやっと決まったのが、侯爵位のダンピール家の三男ダニエル様だった。
ダンピール家の領地はジファール家と、ジェレミー様のラヴァル家の間に位置しており、輸入品の流通価格を安くするための政略結婚だ。ダンピール家は農作物が主な収入で、悪天候などがあると収入が安定していないので、一定の金額が入ってくる通行料目当での婚約成立となった。
私と妹の婚約者は、私は婿入りしてくれる人、妹はお嫁にもらってくれる人。元々条件が違うのだからいつもの様に『とりかえっこ』出来ないものなのだ。仲のいい2人を見て、妹の悪い癖が出ませんようにと祈ることしか出来ないのだけれど。
結局それからお茶会は、交換デートの行き先を決める話をすることになった。座る位置を妹と代わり、私はジェレミー様と話し合う。
「アネット嬢、どこか行きたいところはありますか?」
「はい、あるのですが…。ジェレミー様が苦手な場所だったらハッキリ断ってくださいね。実は植物園に行きたいと思ってます」
「植物園?」
「あの、お嫌でしたら違う場所で…」
聞き返されたので苦手かなと違う場所を、提案しようとしたらジェレミー様が嬉しそうに笑った。
「良いね、僕も行きたかったんだ。ミシェルは虫が居そうで嫌だと、今まで行けなかったんだよね」
「そう!そうなんです!ミシェルもダニエル様も誘ったのですが、いい返事が貰えなくて…。前から行きたかったのですが、なかなか一人では行けなくて」
「良しじゃあ植物園に行こう!楽しみだなー」
「はい、私も楽しみになってきました」
なんだか妹の我儘から始まった『とりかえっこ』だが植物園に行けるなら、良い提案だったのかもと思えてきた。
私とジェレミー様が話してる間、妹とダニエル様はきゃっきゃうふふと誰の婚約者なんだろうと言う距離で、楽しそうにしている。私は良いがジェレミー様は大丈夫なのだろうかと見ると、どうでもいい顔をしてらした。きっと長く婚約してるから大丈夫なのだろう。
そしてこの日のお茶会は、ずっとこの並びのまま終わった。
その日の夕飯で妹は、お茶会で決まったことを父に報告した。
「お父様。今度ダニエル様と、お出かけすることになったんです!」
「そうか、アネットとダニエル君にどこへ連れって貰うんだい?」
「お父様違うわ、私とダニエル様2人でお出かけするのよ」
「え?どういうことだ?」
妹の話を聞いて、訳が分からないと言うように父が私を見る。
私を見られても妹の我儘から始まったこの話を、なぜか得意気に父に報告している妹の気持ちが分からないので、こちらを見られても困るなと、とりあえず頷く。
「デートの相手を1日だけ、とりかえっこすることになったのよ」
妹は相変わらず楽しそうに話している、父はチラチラこちらを気にしながら困惑している。その間も妹はよくわからない理由を、父に話している。
「じゃあアネットは、ジェレミー君とどこかへ出かけるのかい?」
「ええ、そういうことになりました」
「そうか、まぁたまには良いかもしれないな。4人が仲が良いみたいで、この先安心だな」
父はまだ、なんだかよくわからない顔をしながら笑ってる。
多分妹の考えを理解するのを諦めたのだろう、まとめるにしても無理やりすぎるが気持ちは分かる。それからも妹は父に楽しそうに話をしていたが、妹の相手は父に任せてしまおうとサッサと部屋に戻って休むことにした。
ありがとうございます。
誤字脱字報告ありがとうございます。