1
ここに、自らの人生を記すことを決めた。
自分はこれから、最大の犯罪者に裁きを下す。その決意の揺らがぬように、自分の成した輝かしい功績をここに綴るのだ。誇り高き歩みを見返し、その正義に背く考えの及ばぬように。
思い返せば、きっかけは小さなことだったように思う。なんということのない、幼少の時分にありがちな妄信だっただろう。
自分は警察官に憧れた。職業として就きたいという意味ではなく、たまたま出会ったひとりの警察官の姿に憧れたのだ。
それは、まだ歳も十の頃だった。
小学生だった自分がその警察官に出会ったのは、たったの一度きりだ。職業見学会という行事で、市内の警察署を訪れたその時だけ。それでも、自分には鮮烈な出会いで、紛れもなく最大の転機であった。
児童のうちになど、知らぬ大人は甘い顔をするものだから、クラスメイトの三分の一程度の生徒はあくどい行為も平気で行っていた。自分もそのうちのひとりだった。
あくどいといっても、決して法に触れるようなものではない。中にはいずれそういった行為に手を染めるものもあったが、しかしその頃にはまだ至るものはいなかった。あくまで子供のいたずらの範疇、度が過ぎると咎められる瀬戸際のものまでの話だ。
それらは当然、学校の敷地を出ても行われる。列を乱し、教員の指導を受けようとしない。自分をはじめ、何人かの生徒がそのような悪を繰り返していた。それが、警察署へ向かう道中のことだ。
そして署へ到着すると、自分は我先にと署内へ駆け込んだ。それに大きな意味などなかった。そうすることが何かの証明になると、衝動にも似た承認欲求だけでやったのだ。
それを咎めたのが、他でもないその警察官だった。
名前など知らぬ。名札をしていたようにも思うが、そんなものは覚えるもなにも目に付かなかった。ただ、厳格な表情を――今にして思えば、そういう言葉を当てはめられる顔つきをしていた。幼い自分には、それは恐ろしい鬼のようにすら映った。
その警察官は甘い顔をしなかった。家から出て、学校へ行く間。学校から家へ帰る間。すれ違う大人は全員甘い顔をしていた。厳しい言葉など、誰の口からも聞かなかった。ときおり顔をしかめるものはあっても、誰も自分を咎めるものはなかった。
自分はそこで、初めて知らぬ大人に咎められたのだ。もっと幼い頃には、もしかしたら一度くらいはあったのかもしれない。けれど、ものを覚える歳よりも後には、これが最初の出来事であった。
自分と同じように悪を行っていた生徒は皆、ばつの悪そうな顔でうつむいているばかりだった。けれど、自分は違った。自分はそこから既に他者と違った。
自分はその厳格さに――恐ろしさに憧れた。当時には何が良いものかと分からなかったが、動物的な感覚がそれを肯定したのだ。
自分はこのような人間になりたい。このように、正義を振るう人間になりたい、と。
それが自分の輝かしい人生のスタート地点で間違いない。