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――議会前日。
ソフィアの執務室に、ノエが訪ねてきた。
彼と顔を合わせるのは、オレリアンから離縁を言い渡されたあの日以来である。
「リシャールの神聖なる星、王妃陛下にご挨拶申し上げます」
「・・・挨拶は結構よ」
恭しく頭を下げたノエに、執務机の前に置かれたソファーを勧める。
そのまま自分も向かいのソファーに座り、同室していた侍女達に部屋を出るよう命じた。
パタン、と小さく音を立てて扉が閉まったのを確認し、目の前に座る男を見る。
数日前に見た彼と変わらない筈が、どうしてか、違って見えた。
侍女を部屋から出した為、ノエと自分の分の紅茶を手ずから用意する。
「明日はいよいよ議会ですね」
「・・・ええ」
「これで晴れてあなたは自由の身となるわけですか」
「・・・そうね」
音を立てないように紅茶を目の前に置くと、礼を言って紅茶を手にするノエ。
それを見ながらソフィアも紅茶を手にした。
「あなたに返事をする前に、聞いておきたい事があります」
「何なりと」
一口紅茶を飲んで、ソーサーごとテーブルに置く。
「・・・あなたはわたくしと一緒になる事を希望したけれど、王家を出るわたくしは公爵令嬢でもなくなるわ。それでもいいと?」
「・・・そのような事、最初から分かっていますよ。分かっていて、あなたに結婚を申し入れたのです」
自信を持って答えるノエに、ソフィアの方がたじろいだ。
ノエは話を続ける。
「一つ、わたしの話を聞いていただけますか?」
「・・・ええ」
そう言って、ノエは目を閉じ、思い返すように話し始めた。
「これは、わたしの小さな、そして大切な思い出話です・・・」
* * *