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翌日、王妃の執務室に父である公爵を迎えたソフィアは、事情を話した。

予想通り、父は怒り狂った。



「やはり此処は魔窟であったか!あの男にソフィアを託したわたしが馬鹿だったのだ!あの世でセフィリアに顔向け出来んわ!」



怒り狂ったかと思えば今度は泣く始末。

なんとも忙しい。

しかし、気持ちは分からないでもない。

ソフィアも、もし息子達がこんな事になったら・・・と思うと父の気持ちも分かる。



「お父様、これはわたくしの努力が足りなかった結果です。けれどこれで良かったのです。あの方はいつまでも少年の頃と変わらないままだった。時が経てばどうにかなると踏んでいたわたくしの思い違いでした。あの頃から成長しないのであれば変わる事など不可能に近いのに・・・」

「ソフィア・・・」



そう、期待したのがいけなかった。

最初から期待していなければ、幼い頃に抱いた恋心もすぐに捨てられたのに。


お妃教育が始まった頃、公爵家から毎日通うのは酷だと前国王に言い含められた結果、父と離れ離れにされたソフィアが頼ったのは婚約者だった。

あれはもはや、刷り込みだったのかもしれない。

ただ、この王城に頼れる者が、あの頃のソフィアにはオレリアンの他にいなかったのだ。



「それよりもお父様。わたくしのこれからの事です。わたくしは二人の王子を連れ、ザハル帝国に渡ろうと思います」

「ざ、ザハルだと!?」



父が驚くのも無理はない。

リシャール王国が海に囲まれた国である事から、他国に行くには船で渡るしかないのだが、ザハル帝国は海を越え、更に砂漠も越えた先にある白青の美しい国だ。



「リシャール国王妃を廃すれば、わたくしは公爵令嬢に戻れない事もありません。その場合、お父様にご迷惑をかける事になりますが。ですが、それ以上に、もうこの国にはわたくしの得たいものはないのです」



十六年連れ添ってきた夫は、ぽっと出の令嬢に現を抜かし、そんな国王を諌める事の出来る臣下も限られた者のみのこの国は、長くは続かないだろう。

言ってしまえば、ソフィアはこの国の未来に、見切りをつけたのだ。



「外交の際、知った事ですが、ザハル帝国は食糧も豊富で、国民性も良く、豊かな国です。国を捨てた元王妃とその子供達が生活するには良い環境でしょう。移動は確かに大変かもしれませんが・・・その先にあるのは自由です。わたくしは王妃ソフィアではなく、只のソフィアとして、生きてみたくなったのですよ、お父様」

「ソフィア・・・」



父は、ソフィアの心境を聞くなり、静かに涙した。



「おまえにとって王妃の座は・・・国母の座はそこまでつらいものだったか」

「・・・つらくないと言えば嘘になりますが。それでも子供達が生まれてきてくれた事には感謝しております。あの子達はわたくしの天使です」

「ああ・・・そうだな・・・」



父も、ソフィアの事を天使だと思っている。

亡き妻が命を賭けてこの世に生み出してくれた天使。

ずっと、自分が守ってやるのだと、思っていた。

それを五年で手放さなければならなくなるとは思ってもみなかった。

だからあの時、前国王に楯ついたのだ。



「・・・わたしもここらで腹を括ろう。ソフィア、おまえだけこの国を捨てる事はない。わたしも共に行こう」

「えっ、お父様!?」



唐突な父の決意に、ソフィアは思わず声をあげる。



「うむ、考えてみればそれがいい!娘と孫、一緒に暮らす老後。素晴らしいな!」

「お、お父様?お父様はこの国の軍部大臣なのですよ?」

「そんなもの、隠居ジジイの暇潰しに過ぎん!年寄りはさっさと引退して若い者に後を譲るべきだ。そうは思わんか?」

「い、いえ、でも・・・」

「では早速そのように手配しよう!後はお父様に任せなさい。必要なものは全て揃え、万全の状態でザハルへ行こうじゃないか!」



娘と孫との夢の老後生活を思い浮かべ、最初とは打って変わってご機嫌になった父は、足取り軽く部屋を出ていった。

それをポカンと見送ったソフィアは、しばらくして力が抜けたように笑う。



「お父様ったら・・・でもありがとう」



父と一緒だなんて、心強い。

幼い頃から貴族令嬢として、未来の王妃として生きてきたソフィアは、市井で生きていけるか不安だった。

父も根本から貴族ではあるが、それでも二人でならどうにかなる。

子供の頃から頼もしい父が自慢だった。



「わたくしも、忙しくなるわね・・・」



まずは教会に離縁申請を求めなければ。

話はそれからだ。

オレリアンとレリーナの事は後でどうにでもすればいいが、ソフィアと子供達の問題を解決しない事にはこの国を出る事すら難しいと思われる。

それに――。



(それに、ノエの事も・・・)



ノエは本当にソフィアを受け入れるつもりでいるのだろうか。

だとしたら、とんだ豪胆な人だ。

見た目だけならそのような人に見えないのだけれど。


ノエのあの笑みを思い出し、ソフィアは少しだけ熱を持った頬に手を当てた。

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