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ソフィアは目の前に座る男の顔をまじまじと見つめた。
自分が出会う前より前から夫に付き従ってきたこの男を、十六年間見てきた。
それでも、今、目の前にいる男は知らない男だった。
(一体何がどうなっているのやら・・・)
頭を抱えたい気分だが、そうしないのは王妃としてのプライドもある。
取り敢えず、この場はやり過ごすしかない。
「・・・少し、考えてもいいかしら。わたくしの未来はあなたが考えているよりも複雑な立場になる事は必至です。宰相であるあなたをこの国から出して良い事はありません」
「わたしの事はお気になさらず。あなたの心のままに答えを出していただきたい」
「わたしの、心のまま・・・」
ソフィアの心はどこにあるのだろうか。
子供達?この国の民?
離縁の先にあるのは何なのか。
夫からの離縁を了承したものの、幸先は良くないだろう。
そんな道に引きずりこんでいいものか。
ソフィアには分からなかった。
「ご自分の心をお探しください、ソフィア様」
そう言って、ノエは退室した。
「ソフィア様」
そこへ、ノエに手紙を渡しに行っていたサシャが、行き違いになって帰ってきた。
丁度すれ違ったと話すサシャに、今度は自分の父である公爵に手紙を出すよう言い付ける。
「お父様に話をしなくては。サシャ、またあなたを使ってしまうけど頼んだわね」
「お任せください!」
笑顔で了承したサシャは、ソフィアが走り書きした手紙を大事にポケットに仕舞い、栗毛色の髪を揺らして執務室を出た。
ノエの事は取り敢えず置いておくとして、父に説明せねば。
これは、今後の公爵家にも関わる重大事だ。
あの父の事だ、荒れに荒れる事間違いないだろう。
考える事が多すぎて、思わず溜息を吐くのだった。