ソフィア3
ソフィア視点。
ウルさんが作ってくれた夕食を食べた後、診察結果を皆に報告した。
「本当なのですか・・・!?」
一番驚いていたのはノエ。
食後の紅茶に手をつけようとしていたわたくしの手からティーカップを奪い取られた。
「妊婦に紅茶はいけません。それから程良い運動は構いませんが、妊娠初期は子が流れやすいので安静にしてください。それから・・・」
「待ってノエ、そんなに一気に言われても!」
「ああ、そうですね、取り敢えず身体は冷やさないようにしなければ!」
突然バタバタと動き出したノエに、思わず唖然として、それから笑いが込み上げてきた。
「もうノエったら。慌て過ぎよ」
そう言うと、彼は困ったように笑う。
その様子を見ていたルアンドは首を傾げた。
「どういうことですか・・・?」
「うーん・・・ルアンドやジョアンに、兄弟が出来るという事ね」
「きょうだい・・・」
「そう。弟かしら?妹かしら?まだ分からないけれど」
「おとうと・・・いもうと・・・」
わたくしの言葉を飲み込むように繰り返し、ぱっと顔を上げた。
「どこにいるのですか?」
「お母様のここよ」
そう言ってわたくしのお腹を指すと、ルアンドはいそいそと隣に座ってわたくしのお腹を撫でる。
「いつあえるのですか・・・?」
「そうねぇ・・・ルアンドとジョアンが良い子にしていたら、きっとすぐ会えるわ」
「・・・ずずっ」
それまでやりとりを聞いていたお父様が、小さく鼻をすすった。
あら?と首を傾げると、滂沱の涙を流している!
「なんと、喜ばしい事よ・・・新しい地にて、新たな命が生まれるのをこの目で見られるとは。これも、神の計らいだな・・・」
「お父様ったら・・・」
おいおい泣くお父様に、ノエが近寄ってハンカチを渡す。
「私も嬉しい。あなたが健やかでいてくれるだけで私達は幸せだよ」
「ノエ・・・」
「勿論、ルアンドとジョアンも可愛い息子達だ。そしてこれから生まれてきてくれる子供も。初めて尽くしだったこの生活を支えてきてくれたあなたが無理しないように、家事も皆で分担しよう」
「え、でも、」
「当然、私達も家事などやった事などない。でも、ウルさんのお宅に駆け込んだあなたの勇気を尊敬している。結局は、何事もやってみなければ分からないという事だ」
「ぼくもおりょうりします!」
なんて幸せなのだろう。
わたくしは本当に恵まれている。
新しい家族が増えると騒ぎ出した家族を見て、本当にそう思う。
それからの十月十日近く、色々あったけれど、ようやく新しい家族が増えた。
元気な女の子だ。
髪の色はノエに似て亜麻色、瞳はわたくしに似て碧色だ。
名前はラナ。
「おかあさまー!ラナが泣いてる!」
「ないてる!」
六歳になったルアンドと、四歳になったジョアンは、生まれたばかりの妹にご執心だ。
寝て、起きて、泣いて、乳を飲むしか出来ない妹の傍をなかなか離れようとしない。
二人とも、兄らしく面倒をみようとしているのか、それとも構いたいだけなのか。
「はいはい、そろそろお乳の時間かしらねぇ」
「此処はやっておくからあんたはお乳をあげてやりな」
「ありがとう、ウルさん」
産後、まだたくさんは動けないわたくしの手伝いをしてくれるウルさんには本当に感謝している。
妊娠が分かって家事分担しようという話になったものの、やはり、全員元々は貴族。
そう出来るものではなかった。
結局、ウルさんやテトさんに頼るしかなかった。
それでも何も出来ないよりかはマシ、程度にはなったけれど。
「さあラナ、お乳を飲みましょうね」
平民となったわたくしには、ルアンドやジョアンを育てた時のように乳母はいないので、ラナの主食はわたくしのお乳だけだ。
ごくごく勢いよく飲むラナを、息子達は真剣な眼差しで毎回凝視している。
「おや、ラナはお乳の時間か」
「あなた」
ノエは、初めての自分の子が嬉しくてたまらないらしい。
勿論、ルアンドとジョアンに対してもラナと変わらない愛情を与えてくれている。
ただ、女の子というのが嬉しいみたい。
「ラナー!起きているか!」
「お父様!静かにしてってば!」
父も、孫娘にやられた一人。
わたくしという娘を男手一人で育ててきた父は、孫娘も可愛くて仕方ないらしい。
「おかあさま!もうあそべる?」
「ジョアン、ラナはまた寝るんだよ」
「えー。いつあそべる?」
「もうすこしおっきくなったらだよ」
子供達もラナにべったり。
なんやかんやで、わたくしの周りにはいつも家族がいる。
大切な家族。
この幸せを噛み締めて、毎日賑やかな日々を過ごしていくのだ。
ソフィア達のその後でした。
ソフィアとノエの間には長女のラナを含め、女児三人、男児一人と、四人の子供に恵まれます。
オルレアンとの間に生まれたルアンドとジョアンを含めると六人。
父のロルフも、たくさんの孫に囲まれて最後まで幸せそうだったとか。
ノエは先に旅立ちますが、ソフィアはこの時代にしては長生きしました。
最後は自身もたくさんの孫に見守られ、ノエの下に旅立ちます。
ザハル帝国で幸せな一生を送れたようです。
最後までご拝読、ありがとうございましたm(_ _)m
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