ソフィア2
ソフィア視点。
お隣さん――ウルさんは、一人息子のテトさんと二人暮らしだそうだ。
旦那さんは早くに亡くしてしまい、以降、息子さんと二人で暮らしているのだそう。
お願いしたその日は、夕食を作ってくれた。
わたくしは彼女が料理をする姿を見ながらメモをとり、完成した料理に感激した。
「家事ってのは、毎日やってればなんとかなるもんさ!あんた、きっと貴族のお嬢さんか何かだろう?訳ありだろうからあたしも深くは聞きゃしないよ。まあ毎日こつこつとやる事だ」
それからは彼女に教わりながら何とか一人で家事を出来るようになった。
初めて一人で作った料理は、ウルさんにはとても及ばない味も大雑把な料理だったが、家族は皆、美味しいと褒めてくれた。
それがわたくしのやる気にも繋がっている。
「これ、母さんからの届け物だ」
ウルさんの息子さん――テトさんは、時折お遣いで我が家に訪れてくる。
ウルさん譲りの金髪に、陽に焼けた肌が健康的な青年だ。
「まあ、ありがとう。こんなにたくさんのおかず・・・まだ料理も上手に出来ないから品数が少なくて、子供達に申し訳ないと思っていたのよ」
ウルさんは、わたくしの料理の腕を知っているので、時々一品をテトさんに預けて届けさせてくれるのでとても助かっている。
「あんたの親父さん、警備隊でも有名だよ。すごい人が入ってきたって」
「まあ。お父様ったら何かご迷惑をおかけしてないかしら・・・?」
「迷惑どころか、警備兵達の剣術の先生になってるって聞いたけどな」
「ええ?」
どうやら父は早速やらかしているらしい。
思わず頭を押さえると、テトさんは笑って踵を返した。
そんな穏やかな日々を繰り返しながら数ヶ月後――。
その日は、朝から体調が悪かった。
食べ物の匂いに具合が悪くなり、身体のだるさでソファーから起き上がれなくなった。
心配したルアンドとジョアンは、泣きそうな顔で傍についていてくれる。
気付いた時には寝てしまっていたようで・・・
「大丈夫かい?ソフィア」
ぼんやりする目を擦って開けると、ウルさんが顔を覗き込んでいた。
「あら・・・?ウルさん・・・?」
「ああ、起き上がらなくていいよ。ルアンドが、あんたが死にそうだって泣きながらうちに来たもんだから遠慮せず上がらせてもらったよ」
どうやら、昼食の時間になってもわたくしが起きない事を心配したルアンドが、ウルさんのお宅に駆け込んだようだ。
「ごめんなさい・・・どうも今朝は調子が悪くて・・・」
「ちょっと待ってな、テトに医者を呼びに行かせてあるから。風邪なら風邪で、子供達にも移しちゃ駄目だろうからね。こういうのは早めに診てもらった方がいいんだよ」
「・・・ありがとうございます」
それからウルさんに少し水を飲ませてもらい、一息ついているとテトさんに連れられたお医者様がやってきた。
お医者様が問診している途中、ウルさんの表情がだんだん険しいものになっていく。
そして、テトさんとルアンドとジョアンは部屋の外に出された。
「あんた・・・それ、子供が出来たんじゃないかい?」
「・・・え?」
ぽかん、とウルさんを見上げ、お医者様を見ると、頷かれた。
「うむ。どうやらそれで間違いなさそうじゃ。吐き気や身体のだるさは妊娠初期の症状じゃな。月のものはきたか?」
「あ、そういえば・・・でもこの国に来て、バランスが崩れているだけだと思っていたわ・・・」
すっかり忘れていた。
そういえばこの感じ、ルアンドやジョアンを身籠った時と同じだわ。
「ジョアンを産んでから数年経っているから妊娠だなんて思いつかなかった・・・」
「全く。あんたってば相変わらず抜けてるんだから!親父さんや旦那さんが帰ってきたらちゃんと報告するんだよ?家事はうちも手伝ってやるから」
「そんな!そこまでウルさんにご迷惑おかけするのは、」
「困ったら近所を頼りな!なんの為のお隣さんだい」
そう言われてしまうと、断れない。
ウルさんの優しさについ涙が零れた。
「ありがとうございます、ウルさん・・・」
「妊婦は感情も豊かになるってもんだ。のんびりやってりゃ元気な子が生まれるさ」
「そうじゃのう。無理して動き過ぎんようにな。妊娠初期が一番大事な時じゃ」
そうしてお医者様は帰り、ウルさんは申し訳ない事に夕食まで作ってくれ(その間、テトさんはルアンドとジョアンの面倒をみてくれていた)、帰宅したノエと入れ替わりに帰っていった。
帰り際、ノエの背中を叩いていったのだけど。
 




