レリーナ4
レリーナの最期。
レリーナは、バローナム子爵家の養女だ。
そしてそれは、この場にいる者全員が知っている。
「・・・バローナム子爵。どうやらそなたの養女は置かれた立場も、自分の出生もよく理解しておらぬようだな・・・?」
「わ、私にも何が何やら・・・レリーナを子爵家で引き取った時に伝えておいたのですが・・・」
「養父であるそなたを、実の父親だと思っているようだ」
「なんという・・・」
バローナム子爵は、この場で頭を抱えたくなった。
どうしてこんな事になったのか、とはこちらのセリフだ。
間違ってもレリーナが発する言葉ではない。
しかし、謁見の間で、それも国王陛下の御前で、これ以上は駄目だ。
意を決して、ぶつぶつと呟いているレリーナの肩を掴んだ。
「レリーナ、聞きなさい」
「・・・お父様・・・?」
「君は私の子供ではない、君は私の妻の兄の子だ」
「・・・?何を言っているの?」
「君は私を本当の父だと思っているようだね。でもそれは違う。私の妻は男爵家の娘で、その妻以外の、それも平民の女を妻にした覚えは神に誓ってないと言い切れる。君の本当の父親は、私の妻の兄で、男爵家の嫡男だった。だが、平民の女を妻にした事で、男爵家からは廃嫡され、平民となっている。そして、君の両親は事故で亡くなり、身寄りのなくなった君を引き取った。だから君は、養女なのだよ」
レリーナは驚愕に目を見開いた。
目の前にいる父が本当の父ではなく、養父で。
自分は養女だと、信じられない。
でも――確かに、父と自分は似たところがなかった。
養父だという父の髪は、歳のせいで白髪混じりの栗毛色で、瞳の色も暗い焦げ茶色。
継母だと思っていたあの女――養父の妻も、焦げ茶色の髪に同じ色の瞳。
顔を合わせた回数は少ないが、兄も同じ色をしている。
レリーナのような真っ赤な髪と緑色の瞳を持った人間は、バローナム子爵家にはいなかった。
「・・・あの時、両親を失って孤児院に入るしかなかった君を可哀想だと言った妻の言う事など聞かずに、平民の子だからと、そのまま無視していればよかった。そうすればこのような騒ぎも起こさずに済んだかもしれないのに・・・今となっては後悔しかない」
「そんな・・・!?」
本当に悔やむように顔を顰めた子爵に、レリーナは顔を青褪めさせた。
そこへ、ドローシア伯爵の声がかかる。
「バローナム子爵、奥方の優しさを責めてはならんよ。廃嫡されたとは言え、奥方も兄の死を悼んだのだろう。引き取った養女の教育は間違ったかもしれぬがな・・・」
「ドローシア伯爵・・・面目ありません・・・」
「うむ。もうこれ以上、王家と王国を揺るがすわけにはいかぬ。これを以て謁見を終了する。レリーナ・バローナムは明朝、修道院に向かうよう城から迎えを出すのでそれまでに身支度をしておくように。では、解散!」
茫然としたままのレリーナは、バローナム子爵に手を引かれて謁見の間を出ていった。
その背をオレリアンは哀しげな目で見送る。
翌朝、王城から迎えにきた馬車に乗せられ、馬車の周囲を騎士達が護衛しながらヴェロム修道院へと向かった。
――レリーナ・バローナム。
バローナム子爵家に引き取られた養女であったが、国を揺るがしたとしてその一生をヴェロム修道院にて送る事となった。
普段は無口で無気力な彼女だったが、時折、私は王妃になるの、など狂言を吐いては暴れ出し、最終的には修道女達が取り押さえ、最終的には部屋から出る事も禁じられていた。
彼女が四十になった頃、風邪を拗らせて呆気なくこの世を去ったが、その死の瞬間まで、自分は王妃になると信じてやまなかったらしい。
彼女の遺体は子爵家も引き取る事を拒否したらしく、集団墓地に埋葬された。
国を揺るがした彼女の話は劇にもされ、稀代の悪女として民衆に広まった。
レリーナのその後でした。
レリーナは結局王妃になる夢から醒めなかったようです。
それだけでなく、自分の出生の勘違いも最後まで正す事は出来ず、バローナム子爵家を養父から継いだ兄は修道院に寄付をするだけでレリーナに会う事はなかった、と。
明日はラスト3話更新します。
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