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頭を下げ、退室したソフィアはそのまま王子達のいる部屋へ向かう。



「ソフィア様。これでよろしいのですか?」



廊下を歩きながら、ソフィア専属の侍女であるサシャは周囲を用心深く見ながら話し掛ける。



「ええ。これですっきりするわ。あの方は息子達の話すらしなかったわね。だったらわたくしもわたくしの生き方をさせていただくわ」



勿論、愛しい息子達は自分が引き取る。

自分のいなくなったこの王城で王子達がどのように扱われるか、分かったものじゃない。

腹を痛めて生んだ子らを、大事にしない筈がない。



「サシャ。あなたは宰相閣下にこれを渡してきてちょうだい。その間にわたくしは王子達と話をします」

「かしこまりました」



最初から準備されていたであろう手紙を袖口から取り出してサシャに渡したソフィアは、王子達のいる部屋に辿り着いた。



「おかあさま!!」



部屋を開けるのと同時に、鉄砲玉のように飛びついてきたのは四歳になる長男のルアンド。

まだ二歳の次男のジョアンは、乳母に抱えられながらソフィアに手を伸ばしていた。

二人とも、髪の色も瞳の色もソフィアにそっくりの容貌だ。



「わたくしの可愛い息子達。お母さまから話があるのだけど聞いてくれる?」

「もちろんです!・・・あ、もしかして"りえん"の話ですか?」

「・・・あら?」



ルアンドが何やら知ったような言葉を発し、ソフィアは驚く。



「あなた、その言葉をどこで?」

「ノエが言っていたのです。おとうさまはおかあさまと"りえん"するそうだと。その時がきたらおかあさまといっしょについていきましょうねって!」

「ノエが?」



ノエとは、先程サシャに手紙を持たせていった宰相の事である。

その宰相がどうして子供達にそんな事を・・・と思っていると、部屋の扉が叩かれた。

そして現れたのはその宰相・ノエだった。



「ノエ・・・」

「殿下方。王妃陛下から話は聞きましたか?」

「まだです。でもぼくたちはおかあさまといっしょです!ジョアンも!」



子供達の成長が著しい。

こんなにも素直に育って、あの夫みたいにならなければいいけれど、などとソフィアは内心思った。



「続きはわたしがお話しておきますので殿下方は少々お待ちいただけますか?」

「わかりました!」

「うーん・・・ではまた後でお話しましょうね、可愛い息子達」

「はい!」



王子達に見送られ、ソフィアはノエと共に退室し、ソフィアの執務室へ向かった。



「それで、子供達に先に話していたのはどういうこと?」



王子とはいえ、まだ幼い子供達に"離縁"などという言葉を教えてどういうつもり、と睨みつけると、わざとらしく首を竦めてみせた。



「そのままですよ。殿下方も王妃陛下に似て賢くいらっしゃる。詳しい事情は分からずとも、両親の距離など感じとってしまうものですよ」

「それは、」

「殿下方は本当に優秀です。あなたが何を憂いておられるのか、その原因が父君であるという事もなんとなくではありますが、察しておられる」



幼いながらに、やはり王家で育っただけはある。

母であるソフィアでも、侍女からの情報がなければ対処出来なかったであろう。

しかしこの男、ノエは、オレリアンの幼馴染ではなかったか。



「あなたは良いのですか。陛下とは幼少の(みぎり)より親しくしていらしたではありませんか」



ソフィアは覚えている。

五歳の頃に婚約者候補となってから、当時王子であったオレリアンとのお茶会の際には常に背後に連れ添っていたノエの姿を。

ノエとは十四歳離れているとはいえ、当時から宰相補佐としてオレリアンと共にあったノエは、幼いソフィアの教師役でもあった。

王妃教育に加え、政治に関しても学ぶ必要のあったソフィアにそれを教えたのは他ならぬノエだ。



「確かに陛下とは恐れ多くも幼馴染として、友として、臣下としてお仕えしておりますがね。わたしもそろそろ自分なりの生き方というものをしてみたく思ったのですよ。あなたを見習ってね」



彼は軽く言うが。

侍女もいない王妃の執務室で二人きりなど、本来ならばありえない。

内密の話をするべく、この場に置いていないだけで、通常は家族でもない男女が二人きりになるのは観念上よろしくはないのだが。


そんな状況を理解した上で、ノエはテーブルを挟んだ向こう側に座るソフィアを見つめた。

それは、今まで向けられた事のない眼差しで。



「王妃陛下――いえ、ソフィア様。離縁後、わたしのもとへ、嫁いでいただけないでしょうか?」



ソフィアは純粋に驚いた。

まさかこの男が自分を――?などと考えた事もなかった。

それも、自分は既に子供を二人も生んでいる。

オレリアンと離縁した後に再び結ばれる縁などないだろうと、違う未来を見ていた。



「ノエ、わたくしは・・・」

「分かっております。あなたはこの国を出るのですね?」

「そこまで分かっているのなら」

「ご一緒しますよ」

「!」



まさか、と思った。

宰相であるこの男が、国を、仕える王を、捨てられるわけがない。

この男の双肩には、数多の民がいるのだ。



「あなた、一体・・・!」

「ソフィア様。わたしにもね、愛する者がいたという事ですよ」



そう言ったノエの笑みは、この十六年で初めて見るものだった。

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