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初めて顔を合わせた五歳のソフィア。
厳しいお妃教育に悔し泣きする彼女を慰めた。
初めてのダンスは、身長差のせいで上手くいかず、悔しがり。
オレリアンの卒業式の時は、自分の事のように泣いていた。
貴族学院に入学し、友人が出来たのだと嬉しそうに報告して。
父が亡くなった時は、何も言わず、ただ傍にいてくれた。
周囲は皆、気を遣って言葉を選んできたが・・・
ソフィアはただ傍にいて、心の落ち着く紅茶を注ぎ。
その香りと共に、同じ空間に何も言わずともいてくれる。
ただそれだけで良かった。
気付けば婚姻を申し込み、公爵には渋々納得してもらい。
盛大な結婚式を挙げた時には、国民にも祝ってもらえた。
純白のドレスを着た彼女は隣で静かに微笑んでいた。
(ああ、そうか・・・)
オレリアンは気付いた。
彼女はずっと、王妃としての務めを果たしていたのだと。
オレリアンに恋をして妻となったのではなく、この国の母となったのだと。
だが、今のソフィアは違う。
ノエの求婚に、心を動かされているのだろう。
現に、いつも変わらぬ微笑みを浮かべている彼女が、動揺しているのが見て取れる。
そしてノエも。
「陛下の再婚をお認めになられるなら、わたしもいいのではないかと思ったのです。幸いにして、我がローレン伯爵家は弟が継ぎますしね。そして有能な補佐もいます。その辺りは何ら問題はないでしょう。そして、ソフィア様が公爵家令嬢としてではなく、只のソフィア様となられるなら、わたしも只のノエとして、彼女と共にありたい。そう願うのは、いけない事なのでしょうか?」
ガルト教皇は、ゼノン枢機卿と目配せし、そして――。
「ソフィア様はこれを承知しているのですな?」
「・・・ええ。わたくしも悩みました。彼はこの国の宰相として、必要な人物です。そんな彼をわたくしの人生に道連れにしてはならないと。それでも・・・それでも、わたくしを選ぶと言ってくれた。わたくしにはそこまで切望されたという事実が、とても嬉しかったのです」
「・・・分かりました。我々が陛下の離縁を認めた以上、あなた方の想いも認めねばなりませんな」
そして、ガルト教皇は右手を挙げ。
「ソフィア・ヴォルフレー、ノエ・ローレン。二人の再婚を認める。証人は、この場にいる者。二人の行く末に、光あるよう」
「「ありがとうございます」」
ソフィアとノエは頭を下げた。
リシャール王国始まって以来、国王と王妃の離縁と、王妃の再婚が認められた瞬間だった。
 




