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ep8.井の中の蛙

 冒険者としての準備はそれなりに整った。折角手に入れた武器を試したくて仕方がない。そもそも学園では学才より戦闘力で大きな注目を集めていたのがこの俺だ。それに、堅い規則の中で全力も出せないまま木製の武器で戦う学園での武術の時間は、窮屈でしかなかった。元より精神は魔王。命の絡む戦闘に躊躇や恐怖は無い。


 しかし今日はもう夕方。この時間帯のギルドなど人で溢れかえっているだろう。蟻がサンドボード片手に蟻地獄に向かっていくようなものだ。……例えのセンスが謎とか言うな。


 今日は一旦家に帰ってまた明日出直そう。こんな毎日のように外に出る必要は無いのだが、学園を卒業した今、俺の実態は無職のいわゆるニート。学生のうちは就職活動が認められていない(高校ではアルバイトが可能だが)ヴィルシド王国において、卒業後1年程度は無職でも特段白い目を向けられる事も無いが、それを越えれば何か陰で言われてもおかしくはない。

 つまり何が言いたいかというと、焦ったりする必要は無いが、何もせず家に一日中居るのは俺の性分に合わないので冒険者として精力的に活動しようとしているのだ。

 ギルドから直接行く必要もないし、鞘に仕舞っているとはいえあまり街中を武器片手に歩くものでもないので、剣は家に置いていこう。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「別に姉ちゃんまで一緒に来なくていいのに。」


「駄目よ、どうせ危ない依頼を受けるつもりでしょ? 私も付いていくから!」


「だーかーら! 俺はパーティーは組まないって言ってんだろ!?」


「勝手に付いて行くだけよ。」


 マルラソウの時は同じ依頼が何枚も貼ってあった、つまり何人も同内容の依頼が受けられるようになっていたが、標的が少ないものならば依頼書も一枚しか貼っていないだろう。それを選んでやる。


 朝っぱらから互いにグチグチ言い合いながら、ギルドに向かう。扉を開け、依頼板の前へ向かう。


「あ、やべ、俺ちょっとトイレ……」


 唐突な腹痛に襲われた。おおかた、大丈夫大丈夫とか言って父さんが飲ませてきたあの牛乳のせいだろう。ふざけんな、姉ちゃんには飲ませなかったくせに。


「てきとうに魔物の討伐依頼でも探してて……痛てて……」


 よくよく考えれば姉ちゃんに任せても何もいい事などないと気付けるのに、痛みで思考が混乱していた。今はそんなことはどうでもいいので、急いでトイレに駆け込む。



「ふぅー、死ぬかと思った。」


 まだあの牛乳残ってるかな。帰ったら絶対に、あのクソ勇者擬きの胃に流し込んでやらねばなるまい。

 トイレから出てきて依頼板の方に目をやる。どうせ変な依頼を見つけて押し付けてくる───


「おい、ネエちゃん、ちょっと付き合えよォ。」

「カワイイなおい。腕も細っこいしよ。」

「てか勇者サマじゃね?」


「ちょ、ちょっと、放してください! あなた達酔ってるんですか!」


「連れねェこと言うなよ。イイからこっち来……あ?」


 朝早く来たのは良いが早すぎたかな。他の冒険者もいなければ、こういった夜通し吞んでいたようなガラの悪いのがまだギルドに残っていた。

 そして、、俺の姉ちゃんに手を出した罪は重い。


 か細く白い腕を掴む少しばかり老けた剛腕を右手で捉える。左手刀で手首を狙い掌を開かせ姉ちゃんを助けたところで右足を踏み込み、体を捻じって一気に投げ飛ばす。あと一人。

 そのままの体勢で左足をバネに後ろに向かって跳び上がり、天地が逆さまのまま相手の首を両手で掴む。あとは重力に任せて全体重を相手の高い位置にかけることで後ろに倒し込───めない。


「ナメるなよ餓鬼が。」


がっ!


 首にかけていた手を逆に掴まれた。俺の体は宙で一回転しながら床に叩きつけられる。予想外の攻撃に反応が遅れ、受け身が取れない。いや、そもそも巨大な掌に両手の自由を奪われている。

 背中に激痛が走り、肺から全ての空気が押し出される。軋む音は床板のものか骨のものか。幸い頭部は打っていない。


「ソラっっ!!」


 姉ちゃんの絶叫が聞こえた、気がした。鈍器が振り下ろされる。風を切る音が異様に増大されて耳に届き、周りの音が掻き消される。


───衝撃。


 体の中央ほどに力が加えられ、反動でくの字に体が曲がる。腹に加えられた一撃を受け止めるほど皮膚と筋肉は強固ではなく。今まで感じた事のない違和感を体内に生みつつ。いやに頭は冴えており、特に痛みはなく、全身が温かい。


「やっ…めて……辞めてくだ、下さい……。」


 人類相手に力で負ける()()()の、枯れた喉から絞り出した声は、弟を蹴り続ける男共の耳に届かない。いや、心に届かない。


 しかしそこに、一人の男が現れた。


「おーい、何やってんだ。」


「あ? んだテメ…ェ……っ!?」

「ギっ、ギルドマスぐぇっ!?」


「おいおい、完全に意識飛んでるぞ。いやそれどころか内臓イかれてる。死んじまうぞこれ。救護班! いや、『神魅光(かみひかり)』の方! お願いできますか!」


 男共を拳一撃で気絶させ、文字通り瀕死の少年の側に屈んだ男性。その男性の一声で駆け寄ってきたのは、縁と、そして全体に青の刺繡が入った白のローブを着て、首から十字架を下げている女性だ。長杖の先端には、巨大な()()宝石が埋め込まれている。


「かの者を救いたまえ! 復活ノ光(リザレクシオン)!」


 膝をつき、祈るような体勢で女性が魔法の詠唱を行うと、赤い宝石が強く光る。光の粒子は少年を一瞬にして治し、意識を回復させた。


「ん……? 俺、どうなって……「ソラっ!」

どたっ


「あぁ!? なんだ姉ちゃん、急に抱きついてくんな気色わりぃ!?」


 押しのけようとするも、姉の軽いはずの体はびくともしない。弟を想う愛の重さか、それとも、


「姉ちゃん、太った?」


───ッパァァァン!


「ほう、これがあのレイクも恐れると言う平手打ちか。初めて生で見たなぁ。」


 姉ちゃんに意識を刈り取られそうになった。冗談だって。……それよりも今の声、聞き覚えがある。声の主を振り向くと、やはり見覚えのある顔。小さい頃の記憶故あまり鮮明ではないが、強い衝撃とともに脳裏に焼き付いたその声と姿は、すぐに目の前の男性と一致した。


「ようソラ、無事で何より。」


「げっ、ゴウラさん。」


 彼はゴウラ。かつてまだ子供だった俺と勝負をすると聞かなかった勇者パーティーの一人であり(流石に父さんが止めた)、現()()()()()()()だ。


「げっとは何だ、助けてやったっていうのに。」


「助けて…………そうだ、あいつらは!?」


「あそこだ。それよりお前何やったんだ?」


 ゴウラさんが指さした先には、たんこぶから湯気を出し、ギルドの職員に縄を掛けられている男共が倒れていた。


「それは……あいつらが姉ちゃんをナンパしてて……」


「あー、変な奴らに絡まれたな。まあいい。とりあえず怪我の具合見るぞ。」


 1階の受付奥にある部屋に連れて行かれ、ギルドの救護班、という人に体中撫で回された。いや触診なんだけども。くすぐったい。


 魔法道具も使って調べ尽くした結果、内臓から脳まで、一切問題ないらしい。しかし、急激な体組織の破壊・再生で、体と脳への負担が大きいので、2〜3日安静にするよう言われた。


 俺の検査が終わると、救護班の人が部屋を出るのと入れ替わりに、3人入ってきた。姉ちゃん、ゴウラさん、そして見知らぬ長杖を持った女性が1人。


「ソラ、体は問題ないか?」


「あ、はい。ちょっと休めば大丈夫らしいです。」


「お前を助けてくれたのは、この、神魅光(かみひかり)のルーリュさんだ。」


 途中から全く意識がないので覚えていないが、この白いローブのお姉さんが俺を助けてくれたのか。


「その、助けて頂いたみたいで、ありがとうございました。」


「いいのですよ。しかし、良かったです。私が居合わせていなければ、命が危なかったでしょう。」


 ところで、神魅光(かみひかり)とは何かについて。神魅光は、世界的に有名な聖職者集団の名前である。何故知っているかというと、父さんと母さんの昔の仲間、勇者パーティーにいたミクさんがそこに入っているからだ。もう何年もミクさんとは会っていないが。

 そういえばミクさんと言えば……


「ゴウラさん、なんでヴィルセイアに居るんですか?」


 ゴウラさんは世界中に展開している『ギルド』のトップオブトップ。ギルドマスターと呼ばれる職に就いているのだ。

 ここヴィルシド王国は、───勇者の家系が代々住んでいる事を除けば───お世辞にも大国とは言えない。未開発の土地が多い田舎の国だ。


「なんでも何も、お前らが冒険者デビューして、しかもパーティーを組んだって聞いたから飛んできたんだぞ?」


 いやそんな自由に恣意的な理由で移動していいのかよギルマス! 仕事も忙しいだろうし、なにより国家を跨いで定着している組織のトップがそんな簡単に動いたらまずいんじゃないのか?


「というか、別に俺らはパーティーなんて……」


「さっきレイラにも確認取って、固定パーティーとして登録しておいたからな。ギルドマスター直々の登録だ。誇りに思えよ?」


「え、いや、だから「あ、固定パーティーってのはな、普通のパーティーと少し違うんだ。


まず、依頼を受ける時、パーティー全員が受付に揃う必要がなくなる。一人でも来れば大丈夫だ。


それと、ギルドからの信頼が厚くなる。常に一緒に依頼受けていれば、チームワークも高いだろうし、実績があれば尚更な。そうすると、特殊受注依頼……他のと同じように依頼板は貼れないような、内容だったり依頼主が特殊なものは、ギルドが直接指名するかたちで冒険者に依頼を出すんだが、それで選ばれやすくなる。当然、特殊受注は報酬も高いからな。


他には……有名になれば、『勇者パーティー』みたいな称号は、他の冒険者たちにつけてもらえるかもな。」


 一度もパーティーなど組んだことが無いのに、何故か組んだことになっている。しかも固定登録なるものも勝手にされた。やりやがったな姉ちゃん。

 今からでも断りたいが、ゴウラさんがあそこまで言ってきた手前、突き返せない。怖いもん、だって。


 適当にタイミングを見計らってギルドに登録解消を申し込───


「それとだな、ソラ。お前らのパーティーは2人じゃないんだ。」


「ソラさん、今日、私はたまたまお散歩に来たわけではないのです。さぁ、入ってきてください。」


 ルーリュさんの呼びかけに応じて、部屋の扉が開いた。とてて、と中に入ってきたのは、少女だった。ルーリュさんと同じ神魅光(かみひかり)のローブを着て、先端に巨大な()()宝石が嵌め込まれた長杖を持った少女だ。淡い水色のふわりとした髪は短めに切り揃えられ、瞳の色は眩しい黄色だ。身長は低く、その手に持っている杖の方が大きい。


「はっ、はじめましキャッ!」


 長杖が床に引っ掛かり、少女の体は杖から投げ出された。

 ベッドに座る俺に抱き着く形となった。俺も手を回して支え、なんとか転倒を免れる。


「あっ、ごめな───あぅ………。」


 まるで頭を打ったかのように、シューっと湯気を出してしまった。


「あらあら、うふふ。この子、ソラさんに憧れていたのですよ。」


「お、俺に、ですか?」


 正直困惑。勇者である姉ちゃんに憧れるなら分かるが、何故俺に…。

 両目がくるくると渦を巻いていた少女が目を醒まし、勢いよく立ち上がった。


「すみません! あ、あの、えっと、マイと申します。はじめまして、ソラ様。」


 俺にだけ挨拶ということは、姉ちゃんには先に会っていたのか。

 ところで先程抱き合う形になったわけだが……特に何と言ったことはない。ちょこんとした見た目とバタバタした動き、可愛らしい声が相まって、かなり幼く見えるが……?


「はじめまして、マイ。ところで、いくつなんだ?」


「はい、15です。つい先日、卒業試験を受け卒業しました。」


 ん? ひとつ下? 予想とかなり離れていたのはさておき、それなら学園で一年間は同級生だったはずだが、こんな奴見覚えないぞ? 


「ソラさん、あのですね───」 


 ルーリュさんの話によると、こうだ。神魅光(かみひかり)は聖職者が育成、所属、活動する一大組織。そして、そのほとんどが子どもの頃から教会で共同生活を行う。

 そこで、神魅光(かみひかり)と提携している国では、一般的な学園と教会内の学校とを選んで通学し、同様の卒業資格を受け取れるらしい。

 つまり一年留年した俺と同じ学年にいたはずのマイは、ヴィルセイアの学園には通っていなかったので面識がなかったのだ。


 ただどうやら、一度だけ交流という形で学園に来たらしく、その時は俺は違う学年だったので直接的な関わりは無かったが、その時にマイは俺を見かけたらしい。それだけで憧れって……。まぁ悪い気はしないけど。


「ソラ、仲良くしろよ? これから長い付き合いになるんだから。」


「え? あ、うん、え?」


 ゴウラさんの言葉の意味がちょっと───


「レイラ様のパーティーに参加させて頂けるなんて、本当に光栄です。まだまだ聖職者としても冒険者としても未熟者ですが、よろしくお願いいたします!」


「マイちゃんも私達の固定パーティーに入ることになったのよ。私がOKだしてね。()()()()()()()()()。」


 憤慨と反発の意を含んだ絶叫は、強調された最後の一文により腹の底に呑み込まれる事となった。

 かくして、俺の主張が存在しない形で、当代の勇者パーティーが誕生した。


「ほいソラ、俺からのプレゼントだ。」


 ゴウラさんは俺に小さな袋を渡すと、仕事があるからと言って行ってしまった。ルーリュさんも、マイを置いて先に出て行った。


 袋の中身は、片耳に装着するタイプの小型通信魔法道具だった。こんな田舎の国では仮に王都でも、それなりの値段に落ち着くまで少なくとも一年はかかるだろう超最新型だ。家にも一昔前の大きなものはあるが、ここまで小型化しているのか。

 同期している端末同士で、距離に関係なく、音声のみ双方向に伝達できる魔法道具だ。それも3人分。なるほど、これでマイと連絡を取れという事か。………簡単にはパーティーを解散させないっていう意思表示ですね。


「あー、とりあえず3人で同期しておくか。これからよろしくな、マイ。」


「はい! レイラ様、ソラ様、よろしくお願いします。」


「マイちゃん、様呼びなんて堅いわよ。」


「は、はい。申し訳ございませんレイラ様…はぅっ、レイラさん……。」


 そろそろ昼時だ。この部屋に長居するのもギルドに悪いしな。


 ギルドのロビーに向かう通路を歩きながら、姉ちゃんが口を開いた。

 

「そういえば、マイちゃんは今どこに住んでいるの?」


「昨日までは教会にいましたが、今日から、すぐそこの宿屋に移ってきました。」


 一人暮らし、か。家にいたくないから一人暮らしをしたい、という話をしていた同級生は少なくなかったが……俺は今の4人家族での暮らしに満足している。時折ふと、自分が魔王であったこと、人間及び表の世界に住む弱き下等生物を見下していたこと、昔の、思い出、というのだろうか、頭のどこかに、残り続ける記憶が浮かぶ。心には、残っていないが。



「おい、もしかしてソラか?」


 ロビーに出るや否や、聞き覚えのある声に呼び止められた。

 耳に入ると全身が硬直し脳から危険信号が発せられる某ギルマスとは違い、連絡手段がないために丸一年会えず、再会は満悦に沈むこととなる、親友の声。


「ナット!」


 かなり身長が高かったのに、あれからまた伸びている気がする。ツンツンした茶髪も一役買っているか。


「やっぱりソラだよな! いやー、久し振り! まさかギルドにいるなんて思わなかった。」


「おーいナット、そろそろどっかで昼でも……ってソラ!?」


 続いてギルドの入り口の方からやって来たのは、学園時代のもう一人の親友、アルだ。こちらも変わりない。


「おう、久し振「てことは、もしかして…………っ!」


 一瞬にしてとアルの視線が俺を跳び越え、後ろにいる姉ちゃんへ。アルの無言の絶叫が聞こえるかどうかというタイミングで全てを読み取り、同じ方向へとナットも視線を移す。これだからこいつらは。


「あ、あはは……。はじめまして、レイラです。」


「「、。」」


 すぅ、と流れるような所作で膝を折り、床に正座。目を瞑り、両手を上げ、手の動きと共に深くお辞儀。いや崇めんな。


「悪い姉ちゃん、俺こいつらと話してるわ。多分昼も食ってから帰る。」


「分かったわ。」


 公共の場で阿保を晒している信者2人は俺が引き受け、姉ちゃんとマイはギルドを出て行った。


 とりあえず休憩所の椅子まで引き摺っていき、頬を叩いて意識を呼び戻す。そういえば、なんだかんだで2人とも、一度も姉ちゃんに直接会ったことがなかったな。


「はぁ、はぁ、尊さで呼吸を忘れていた……。」

「助かったぞソラ……。」


「お前ら、変わんねぇな。本当に。」


「お前が言うかよ。でもよ、俺驚いてんだぜ? てっきりソラは高校に進学するものだと。」


 アルがナットに続く。


「そうそう。俺らは、まぁ、結局冒険者やってるわけだけどさ、もしかして───」


「ん? あぁ、俺も冒険者になった。」


 2人の中で疑問が確信に変わり、一時も置かずに歓喜に変わる。そして同じ結論に至る。


「「俺らのパーティーに入らないか!?」」


「───悪ぃ、俺もう固定パーティー組まさ…組んだんだ。今んとこちょっと別れられない。」


 言葉で聞くよりも先に何を言わんとしていたかは通じていた。これでも親友であるという自負がある。非常に嬉しい誘いだ。だが、今は、ギルドマスター様に逆らえない。逆らいたくない。自分の為に。


「そ、っか。仕方ないな。」


「でも、こっちで何もしてない時は、一緒に行けるからさ。俺も、アルとナットと仲間として依頼受けたくない訳じゃないから。」


「おいソラ、一つだけ確認するぞ? いいよなぁ?」


 仕方ない、と受け入れてくれたナットに対して、喰いついてくるアル。


「そのパーティーってのは、まさかさっき一緒にいた3人じゃぁないよなぁ?」


「えっと……」


 肯定の言葉は、口から出る寸前で咥えて喉の奥に引き摺り戻した。姉ちゃんとマイと組んでいるという状況は、2人に言わせてみればハーレムだなんだ、しかも崇拝の対象である姉ちゃんがいる。ここでの正直な返答は危険すぎる。かといって、嘘をついてバレた時は更に酷いことになりそうだ。


「そ、それより、腹減ったな。お前らも昼まだだろ? どっか食べに行こうぜ? な?」


 その時、ふと視界の端に移った人に目を奪われた。ただ容姿が整っているというだけではない。風格、気品、というのだろうか、美麗でいて、それでいて、強さ。

 まっすぐに受付に向かっていくと、職員も気付き、挨拶する。 


「冒険者同士のいざこざがあったと聞いたのですが、大丈夫でしたか?」


 空間に透き通った声が響いた。その場にいる全員の体の中に不思議と滑らかに入り込んできたその声の主は、翠緑と白金の美しい鎧を身にまとい、同色の細身の鞘に仕舞われた得物を腰から提げ、長い銀髪は下の方で緩く結んでいる女性だ。

 しかしなにより目を引くのは、背中に輝く鋭く尖った4枚の羽根だ。鎧は前面と腰、足のみに絞られ、衣服も羽根のため背中は開かれている。


「☆2と☆1の方が揉めまして、☆1の方が負傷・治療。☆2の方は2人、双方ギルドマスターの指示にて冒険者資格を剥奪。ギルドマスター曰く一件落着です。」


「落着……。それより、ギルドマスター殿が来られていたのか? ───あぁ、彼の件か。」


 スゥっと振り返った女性の翠色の瞳と、一瞬目が合った気がした。というかいざこざって、確実に俺のことだよな……。

 格好を見る限りあの人も冒険者っぽいけど、何で職員さんとあんな話を?


「やっぱすげー美人だよな、エマーシュリアさん。」


 アルがぽつりと呟く。


「ん? 有名な人なのか?」


「有名も何も、ここのギルドリーダーだぞ?」


 ナットが続く。


「もしかしてソラ、知らないのか? 分かった、昼食行きながら教えてやるよ。」

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