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ep11.強化倍率

「私の過誤によりお怪我を負わせてしまい、並びに危険に晒してしまいましたこと、心の底から陳謝申し上げたく……」


 街の近くの安全な場所まで出てくると、ここまでずっと俯いていたマイが立ち止まり、地面に額をついて謝り始めた。


 謎の少女の出現により危機を脱した俺達は、クマの爪と牙を黙々と剥ぎ取り、あの場を後にした。炎で燃えた個体は文字通り灰も残らず消え去っていたので2匹分だけだ。


 マイは無傷、姉ちゃんは軽い擦り傷。俺は全身を強く打ち付けたことによる痛みはあるものの、歩けない程ではなかった。水流で木に叩きつけられた時に枝で腕と顔を切ったが、血はすぐに止まった。


「マ、マイ……。」


 どう声を掛ければ良いのかがわからない。頼みの姉ちゃんも複雑な表情で黙ったままだ。


「大変手前勝手な方法ではありますが、此度の責任を取る形で、私はこのパーティーを抜け、教会で静かに聖職者としてお二人の安全を祈り申し上げさせて頂けないかと………………」


「マイ! それは駄目だ。」


「ひぅっ、すっ、申し訳ございませんでした。祈り続けるという形で愚にも関わりを保ち続け、自らの心の救済になり得るなどと「そうじゃなくて!」


 マイの目の前にしゃがみ込み、砂で汚れたローブを外して頭に優しく手を置く。


「マイ、俺達は友達であり仲間だ。仲間の失敗は、許してカバーするのが当然だろ? いや、許すもなにもないな、迷惑掛け合って、助け合って、どっかで笑い合えばいい。生きているんだからそれでいい。違うか?」


 通信魔具の着信音が響く。


「だから、抜けるなんて言うな。離れるなんて言うな。まだまだ一緒にやってこう。」


「───……はい…………っ!」


「さぁ、じゃあギルド戻るわよ! ほらマイ、立って立って。置いてくわよ〜」


 跳ねるように街の門への道を進んでいった。

 魔具に軽く触れると、姉ちゃんの声が流れてくる。


『ソラのくせに良いコト言うじゃない。』


「うっせ。」


 通信を切ってから小さく呟いた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「クマ3匹ですね。こちらが報酬の銀貨60枚になります。」


 ギルドの受付で爪を提出すると、青い光を放つ謎の魔具をかざしてから回収された。恐らく同個体かを調べる系のやつだろう。


 残りの爪や牙は奥の商業ギルドに持っていく。



「こんにちは〜」


「こ、こんにちは。」


 アーチ型の通路を抜けると、カウンターに立っていたのはあの大男ではなく、まさかもまさか女性だった。一瞬たじろいでしまう。


「あ、勇者様と弟さんじゃないですか~。本当に冒険者になられていたんですね~。お二人とも学生の頃から国中で才媛と噂される程でしたので、こんなに平和で安全な世の中ですし、『勇者』として活動されることを強要されないじゃないですか~。」


 なんか、ふわふわした人だな。でも、嫌な感じはしない。


「だから、最初トワンからお二人が来られたって聞いた時は信じなかったんです~。」


「ト、トワン、さん?」


「あぁ、すいません、ここにいる無礼で無愛想な、無駄におっきな男です~。あ、私はチャナンといいます~。お気軽に『ナンちゃん』とお呼びください~。」


「は、はい……。」


 完全に会話の主導権を握られ続けている。というかあの大きな男の人、トワンさんって言うのか、ちょっと可愛い雰囲気の名前だな。


「それで、本日はどうされました〜?」


「あ、この、クマの爪と牙を売りたくて。」


「わかりました〜。ちょっと待っててくださいね〜。」


 そういうと、カウンターの上に置いたものを全て順番に謎のレンズを通して見ていき、最後に何やら紙に書いて、


「全部で銀貨4枚になります〜。」


 お金を受け取り、商業ギルドを後にする。

 かなり森の奥の方まで入っていたので、街まで帰ってきたときには既に15時を回っていたり。そのまま昼食を摂りにこの間俺がアル達と一緒に行ったカフェに向かう。



 注文し、席に付き、食事を前に、姉ちゃんが口を開いた。


「さて、じゃあ反省会と行きましょうか。」


「は、はい……。」


「責める訳じゃないから軽く笑いながらでも良いのよ、マイちゃん。」


 そんな事言われても、マイの性格上数日間は今日のことを引きずるだろう。いや、別にまだ出会ってからもそんなに長い時間を共に過ごしたわけではないので性格がどうという事も無いのだが、ここまで分かり易い人間もそうそういない。


「まず、私は、とにかく力が足りなかったわ。クマに対して防戦一方だったし、そもそも皮を破れなかった。大剣を扱いきれていない事も実感したわ。戦闘経験と言う意味でもね。」


 確かに姉ちゃんは、仕方のない事ではあるが、ここ数年間は高校に通い常に勉強と研究の日々だったわけで、授業等でそれなりに激しい戦闘訓練をしていた俺とは違う。

 それに、武器さえ揃えば良いと思っていたが、自分の使う得物に慣れることが優先事項だった。そこは何も考えずに依頼を受けに行った俺のミスだ。


「それと、魔法も。火力が全然足りなかった……」


「で、でもっ、あんなに素早く魔法を撃てるのは、凄いと思います。私の知っている限りの魔法が得意な方たちと比べても、その、引けを取らないですし。勿論、発動速度に関しては私の方が遅く…一応これでも聖職者なのですが……。」


「そんなことないよ。マイちゃんの魔法凄かったし、ほ、ほら、障壁とか!」


「でも、他の魔法は失敗してしまいました……。」


「いやマイちゃんはまだ私より若いし、まだまだ……」


「若いって。そんなに変わらないだろ。それより、低いレベルでお互いに擁護してても強くはなれねぇぞ。」


 2人の表情が引き攣るのが分かる。


「勿論俺だって反省点だらけだ。でもな、とにかく早く改善していかないといけないんだ。早くだ。成長が云々じゃない。」


 カフェの落ち着いた風景に、あの赤髪の少女が、あの見下す紅の眼が浮かんでくる。この込み上げてくる感情は、人間ごときに見下された怒り……いや、人間としての、悔しさ。そして、屈辱感。


「無理な動きで、無駄な体力を使った。全体を見ることも時々出来なくなってた。それに、……。クソ、やっぱりちゃんとした戦闘訓練は、学園の授業ごときじゃ駄目ってことだよな。」


 悔しさは勿論、力を過信していた自分に対する怒りが湧き上がってくる。


「あのー、ちょっと良いですか? ごめんなさい、盗み聞きするつもりは無かったんですけど。」


 唐突に、隣のテーブルに座っていた男性が話しかけてきた。大柄だが、声音から温厚なことが伝わってくる。話すスピードも、落ち着いた雰囲気の人だ。


「戦いのことを話していましたが、『剣の舞』という店はご存知ですか?」


「はい。あの、品質がいいことで有名な武器屋ですよね?」


「それもそうなのですが、実はあの店では、戦闘講習みたいなサービスもやっているんですよ。サービスといっても、少々値は張りますが、あそこの店員さんは腕は確かですし、行かれてはどうでしょうか?」


「あ、ありがとうございます。」


 いきなり声をかけられて一瞬戸惑ったが、有益な情報を貰えた。

 体格からしても冒険者だろう。でも、俺の事はまだしも、姉ちゃんに───勇者に気が付かなかったのだろうか?


 俺たちにそれだけ言うと、その男性はカフェを出ていった。

 その後も少し今日のクマとの戦いを振り返ったあと、解散して帰宅した。『剣の舞』には一度行ってみることに決めたが、流石に今日は全員疲れているので明日の昼過ぎ、店の前に集合ということにした。


 ちなみに報酬については、クマ一頭分銀貨20枚ずつと、残りの4枚に関してはマイの確固たる意思で俺と姉ちゃんで2枚ずつ受け取ることになった。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 というわけで次の日、店の前。どういった感じなのかは分からないが、一応武器も持ってきた。


「いらっしゃいませー。本日は何をお探しでしょうか?」


「あの、なんかここで、戦い方を教えてもらえるみたいな話を聞いたんですけど……」


「あぁ、こちらの事ですね。」


 カウンターの下の方に貼ってあったチラシを指される。こんなところにあったのか。覗き込まないと見えない所にあるせいで前回来た時は気が付かなかったな。

 そこには、『戦闘訓練。当店店員が指導、お相手いたします。一人あたり1時間・銀貨4枚。怪我などの補償あり。時間帯は要相談。初回のみ体験無料。』と書いてある。店の綺麗さに対して少し無骨だな。


「あの、お願いしたいのですが、時間帯は……」


「こうなっておりますが、どこに致しましょう?」


 一枚の大きめの紙に、店の開店から閉店までを一時間毎横に、〈風・火・水・木・雷・土・光〉と名付けられている一週間の曜日を縦に、マス目が引かれている。そしていくつかの場所に色紙が貼られ、名前が書かれている。このまだ白いところが空いているという事だろう。


「本日でしたら、あと30分後からのが空いておりますが、」


「あー、じゃあそこでお願いします。」


 3人同時でなく時間帯を分けることもできると言われたが、まぁ別にいいだろう。とりあえず最初はタダでやってくれるということだし。

 俺達が申し込んだ時は他の人がちょうどやっており、その次の空いていた1時間のところに申し込んだので、それまでの時間をどこかで潰さなくてはいけない。


 姉ちゃんがどうせ長くないし洋服を見に行きたいというので付き合わされることとなった。いや、正確には、マイと二人で回るから俺はどちらでも良いと言われたのだが、俺の目の届かない範囲で姉ちゃんがトラブルに巻き込ま───マイと二人だけというのは色々と不安なので、俺も行くのだ。



 ほとんど洋服を見ている暇など無く、すぐに約束の時間になってしまった。『剣の舞』に行くと奥の部屋に通される。そこには、


「体験の方3名様、レイラさん、ソラさん、マイさんですね。よろしくお願いします。」


「あ、あれ? あっちの方……」


 さらっと始められそうになったが、どうにもツッコまなければいけない気がする。この部屋に通してくれたレジの店員さんが、動きやすそうなラフな格好をして部屋の中に立っていたのだ。


「あ、すみません、混乱されますよね。私はナツと言いまして、今レジを持っているのが妹のユキです。本当に瓜二つ、って感じなので、どちらの名前で呼んでいただいても大丈夫ですよ。」


 そういうカラクリなのか。なるほど姉妹ねぇ。というか名前間違えられる前提とは……諦めているのだろうが、姉妹仲が相当良いという事でもあるんだろうな。


「それでは改めまして、本日はよろしくお願いいたします。」


「「「よろしくお願いします」」」


 冒険者であること、武器を持参したことの確認を取られたうえで、とりあえず実力を見せてくださいという事になった。しかしここで一つ問題が発生した。マイだ。ここで教えてもらえるのは基本的に肉体的な戦闘のみ。つまり、聖職者であり魔法をメイン、いやほぼ魔法のみで戦うマイのスタイルは専門外であったのだ。なので俺と姉ちゃんの二人で教えを乞う事になった。まさかの体験開始数分で終了したのは、持ち前のおっちょこちょいに原因はあるのだろうか。


 実力を見せる、ということだが、流石に素振りというわけにもいかないだろうと思っていたら、ナツさんが魔法を紡ぎ出した。物凄く複雑に編み込まれた魔力が形作ったのは、一辺2m程の半透明な立方体だ。


「じゃあ俺からいっていいか?」


「良いわよ。」


 真剣でと言われたので、鞘から大剣を引き抜く。この魔力結晶? 触れたらどんな感触なのだろうか。まぁいいか。


 一応全力を出した方が良いだろうと思い、全身及び大剣に魔力を流していく。

 右手に構え、一気に距離を詰めて左足を踏み込み、腰のひねりと共に立方体の辺に切り込む。


 くにゅり、と表すのが一番適切だろうか。薄い膜を破るような感覚がして、少しの反発の中を刃が通っていき、立方体を通り抜けた。近しいものは…そうだな、学生の頃、魔物学の実験で触ったスライムのような感触だ。


 体の左に振り抜き、その重さに体を任せて右足を浮かせ、踏み込むタイミングで大剣を逆方向から切り上げる。ぐるりと頭の上で回転させ、振り下ろす。

 体勢を立て直すため一度後ろに跳び退き、間髪入れずに重心を前方向に戻し、面の正面少し上へ、両手と全身の体重をかけて刺突!


「はい、そこまでで大丈夫です。ありがとうございました。では、レイラさん。」


「はい!」


 姉ちゃんも俺と同様に、自由に切っていった。魔力塊のターゲットというのは、ちゃんと感触があるにもかかわらず、傷一つ付かずにずっと使えるわけだから優れものだな。作成は難しいのだろうが。

 姉ちゃんの剣筋は俺よりも軽く滑らかで、流れるような動作が続いていた。そして最後は、ざっ、と足を開くことで体勢を落とし、低い位置から剣の柄頭で突いて終わった。


「お二人ともお疲れさまでした。とても綺麗な動きで、少し驚きました。自分が優位な状況での攻撃は、問題ないように思えます。……それでは本日は初回体験ということですので、更に攻撃面で、というより、防御について少しお教えしたいと思います。」


 んー、自分が優位な状況、かぁ。今の魔力塊は、すなわち、動かないクマだ。それが動き、攻撃し、複数いる状況というのは、やはり劣位。もしくは()()()()()()()()()戦闘ということだ。


「では、まずソラさんから行きましょうか。こちらの板を持ってください。」


「い、板……。」


 渡されたのは、俺の大剣と重さや幅が近しい、ただの木の板だ。


「では、私がこの木剣で攻撃しますので、防いでください。勿論板は、反撃にも、牽制にも使って良いですよ。あ、さすがに本気で叩いたりはしないですが、それなりに痛いですから、本気で防いでください。では、参ります!」


「えっ、ちょっ、」


みしっ!


 咄嗟に出した板で、首を狙って横向きに薙がれた木剣を防ぐ。板の軋む音。そして、雑に攻撃を受けたせいで衝撃がモロに腕に走る。


 続けて反対側から一閃。無理矢理板を引き戻して防御。が、たまたま弾けた程度のものだ。

 姿勢が崩れたまま、無慈悲に3発目がまた反対側から振られ、脇腹を強打───する直前で止めてくれた。


 まさかそんないきなり打ってくるとは思わなかった。だが、不意を突かれた形であるとはいえ、ナツさんのそこまで必死というわけでもない3撃で、たった3撃で、決められてしまった。


「はい、今のでお判りになったかと思いますが、大剣という武器は防御面においてかなり弱いです。というのも、まず防具に関しては装着する以外、例えば盾などはほぼ使用不可能です。そして大剣自身も小回りが利かないので、素早い攻撃に対応しきれません。」


「そう、ですね。」


「ではどうするか。勿論、相手に攻撃の隙を与えない、というのが基本ではありますが、難しいです。なので、ポイントは2つです。ひとつ、得物の攻撃と防御の切り替え。ひとつ、得物に頼りすぎない。」


 切り替え、と頼りすぎない? どういうことだろうか。正直この類は魔王であったからといって身に付いているわけではない。そういえば魔族の中で、あまり得物の使用を好まない派閥と、積極的に戦闘に取り入れる派閥とで論争が起きた事もあったっけ。俺はどちらかというと前者だった。


「まず、先程大剣は小回りが利かないと言いましたが、それはあくまで、柄を両手で持っている場合の話です。私がお勧めするのは、このような持ち方ですね。」


 部屋の隅に置いてあった大剣の模型を持ってきたナツさんは、右手(利き手)は柄に残したまま、剣を寝かせ、真ん中あたりに左手を添えた。


「片刃ならば背の方を掴めるのですが、ソラさんもレイラさんも両刃なので、この面の部分に添える感じになりますね。」


 つまり俺がクマに突進された時にとった形だ。実際にやってみると案外、重くて動かせないという事も無く、簡単に操れた。当然前方向への防御に偏ってしまい、横からの攻撃などは少し厳しいが、それでもかなりいいかもしれない。


「ただ、両刃の場合どうしても剣の樋、横面で受けることになってしまいますので、剣に大きな負荷がかかってしまいます。最悪の場合折れてしまいますので、あまり強い衝撃を与えないように注意してください。」


「「はい。」」


「そしてその点も踏まえ、どちらかというと二つ目、得物に頼りすぎない、という方が重要です。簡単に言えば、避ける、もしくは蹴りを入れるという事です。」


「蹴り、ですか……?」


「攻撃の瞬間というものは、基本的に相手にとっても絶好のチャンスとなります。攻撃をするときは必ず防御が空きます。なので、そこを狙う事で攻撃を止めさせ、更には自分に有利な状況を作り出すのです。」


 そこからは、『怒涛』という言葉が似合う凄まじい訓練だった。初回で無料なのにここまでしっかりやってくれるのか、と思うぐらいにハードで、かつ有意義だった。

 相手の攻撃のタイミングに合わせて低い位置に蹴りを入れる練習、その体の動かし方、その時自分の得物はどうするべきか。足を払う、懐に飛び込む、バランスを崩す、回り込む、など色々な方法とそのメリット・デメリット。無駄な動きを省き、危険な箇所や可能性の解説、続けて動ける躰運びから、自分の攻撃に転じる方法。そして、逆に自分が攻撃する際に同じような事をされた場合の対処法を教えてもらい、それを学ぶことにより自分が用いる際の弱点にも気づくことが出来る。


「本日はお疲れさまでした。お二人とも元々かなり動ける方で、運動神経と言いますか、自分の体の動かしかたを知っていらっしゃったので、私も楽しかったです。ありがとうございました。」


「「こちらこそ、ありがとうございました。」」


「それでは本日は以上となります。マイさんも、もし魔法以外にも興味があれば、是非いらしてくださいね。」


「はぅっ、か、考えておきます……。」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「ふぅ、かなり疲れたな。」


「でも、結構いいこと教えてもらったわね。」


「そうだな。何回か通ってみるか? 俺は良いと思うんだけど。」


「私も行ってみたいわ。」


 じゃあ決まりだな、と答えながら、家までの道を歩いて行く。汗をかいたので軽く風呂に入りたいということで帰路についているわけだが、姉ちゃんが『良い事思いついたから』と言ってマイも連れてきている。

 ちなみに二回目以降も、いつでも店に行って予約を取れば良いと言われたので、予約は取らずに店を出てきた。さすがにやるかやらないかという話を店内でするわけにもいかないし。



 姉ちゃんが風呂に入り、俺が入った後、出てくると何故か家の中が静寂に包まれていた。父さんは書斎で神託の件で歴史書やなんやらと睨み合っているだろうが、帰ってきた時にいた母さんまで見当たらない。

 と、大きな魔力の体動を感じた。…………外?


 玄関の扉を開けると、そこには、


「いいわよマイちゃん、その調子よ!」


「いやっ、これっ、ちょっと、む、無理ですぅ! 助けてください~っ!」


興奮気味の母さんと涙目のマイが庭に、扉の真横に家に張り付くようにして突っ立っている、強張った表情の姉ちゃん。その視線の先にあるものは───


「───なにやってんの。」


 マイの杖に呼応してどんどんと火力と直径を増していく、宙に浮いた炎の球だった。今の大きさはどれくらいかと言われたら、そうだな。軽ーく零番街の屋敷をいくつか吹き飛ばすぐらい、かな……。

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