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眩しさの中、最初で最後の恋をした。  作者: 織原深雪


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7


学校に着くと、卒業式独特な感じでみんなソワソワしている。


今日は既に日菜子と蒼くんは先に来ていたようで、教室で会った。

「日菜子、蒼くん。おはよう」

「有紗、要! おはよう」


今日の朝私の髪はお姉ちゃんによってゆるふわカールにされてハーフアップにまとめられた。

さらにナチュラルメイクまでされて、制服なのに綺麗にまとめられている。


「お姉ちゃん! こんなにする?」

驚きつつ突っ込んだけれど、私はなされるがまま。


「高校の卒業式は一度きりよ! 写真も撮るでしょう! 綺麗にしとかないと!」


そんなゴリ押しのお姉ちゃんに、お母さんまでもが言う。


「さすがお姉ちゃん! よく分かってるわね。お父さんにも頼まれたし、バッチリカメラで撮ってくるわ!」


どうやら、卒業する本人よりなにか別なところに気合が入っていた家族だった。

そんな今朝を振り返っていると、どうやらボケーッとしていたらしい。


「有紗、今日可愛い! お姉ちゃんがやってくれたの?」

私のメイクや髪型に気づいた日菜子が聞いてくる。


「そう、お姉ちゃんが卒業式は一度きりよ! 気合い入れて可愛くして、ちゃんと記念に写真を撮ってくることって」


その言葉にクラスの女子達が騒ぎ出して、教室の後ろに女子みんなで並んで記念撮影会になった。


見えないけれど、私のヘアメイクも目立つことないくらいみんな、今日は綺麗にしてきてるらしい。

お姉ちゃんは間違ってなかったようだ。


そうして、記念撮影会でワイワイしているところに三浦先生がやって来て声を掛ける。


「おう、みんなおはよう! そろそろ移動だぞ、並べ!」


その声に振り返った女子達から悲鳴が上がる。


「キャー! 三浦先生、スーツ! カッコイイんだけど!!」


あー、なるほど。

普段ジャージが多い先生がスーツで現れたからギャップ萌えか!

ポンっと手を打っていると、日菜子が言った。

「見えないながらにたどり着いた有紗の答えは間違ってないよ。三浦先生は顔が良いからスーツも映えるよね!」


そんな日菜子の言葉に私は少し惜しみつつ返した。


「確かにね! あー、見えないのが惜しいネタに、こんな最後に出会うとは」


その私の声に、騒ぎつつも近くに残ってた女子が声をかけてくれた。


「あー、これは見れないの惜しいよ! 目の保養だよ! 三浦先生顔良いからさ!」


女子はおしなべてイケメンに弱い。

ギャップ萌えにも弱い。


そんな自分達の現金な思考に、笑いが込み上げてみんなでクスクスと笑いあっていると要くんが移動のために迎えに来てくれた。


「有紗、移動だって。行こう」


その声に応えるように、私は要くんの肘を掴んで歩き出した。


廊下に並ぶと下級生が胸元に花を飾りに来てくれる。


「卒業おめでとうございます」


そこかしこから聞こえる声。

私と要くんの前にも下級生がやってきた。


「お花つけさせてください」

「はい、お願いします」


パッと付けてくれた下級生の女の子ふたりは、着け終わるとお祝いの言葉と共に言ってくれた。


「先輩方、卒業おめでとうございます。仲の良いおふたりは下級生にとって憧れでした」


その声にはキラキラとした輝くような感じがして、なんだか照れくさくなったけれど私は返事をした。


「ありがとう。あなた達も残りの高校生活を、悔いのないように楽しんでね」

「はい! 本当におめでとうございます」


そうして、ふたりの下級生は去って行った。

素敵な言葉をもらって、照れくさくとも胸は温かさで満たされた。


「なんか、嬉しいね」

「照れくさいけどな」


そんな会話をしつつ廊下で少しの間待機。

下級生や保護者が体育館に入り終わると、私たちは体育館へと移動を開始した。


体育館の前にクラス順に並ぶとそこで要くんと日菜子が交代する。

「日菜子、ありがとう。日菜子と仲良くなれて、一緒に二年過ごせてとっても楽しかった。私が生活に慣れるまで出掛けたりするのは少し難しいけど、卒業しても会えるかな?」


私の問いに、日菜子は少し鼻をすする音を立てたあとに言った。


「卒業式前から泣かせる気か! 会えるに決まってるでしょ! 私たち友達なんだから!」


そういうなり、ギューって抱きついてきた日菜子。

「うん、日菜子! 大好き」


そんな私たちをクラスメイトももらい泣きしつつ見守ってくれていた。


卒業式が、つつがなく進行し卒業生退場になると綺麗にはけたあとで、卒業生は再び体育館に戻る。


毎年この後体育館のステージで学年が集まって記念撮影会になる。


「有紗、行こう!」

日菜子に手を引かれて歩き出すとそのスピードは早く、走っていた。

すると、要くんと蒼くんが急いで追いかけてきたみたい。


「日菜子! お前、有紗を引いて走るなよ!」


その要くんの声に、ピタッと足を止めた日菜子。


「うっかりした! ごめん、有紗」

要くんに突っ込まれて、日菜子はちょっとしょげた声を出した。


「ふふ、日菜子。大丈夫だったから気にしないで。むしろ久しぶりに走ってちょっと楽しかった」


そんな私の答えに要くんや蒼くん、引っ張ってた日菜子は驚いたのか、え?! って声を上げる。


「ほら、体育も免除されてから運動してなかったから。走るってこんな感じだったなって思って。ほら記念撮影でしょ? 移動しようよ」


私の言葉に納得しつつ、日菜子も蒼くんも要くんも少し考える顔をしつつもみんなで歩き出した。


学年が集まれば二百人ちょっとになるので大人数だ。

私達は端の方に寄って写ることにした。


集合写真は後日学校側で撮ってくれたのは郵送されてくるらしい。

他にもみんなスマホやデジカメで撮っていたし、保護者も撮ってくれてるらしかった。


撮影が終わると各教室に戻る。


卒業式ではまとめてクラス代表が受け取った卒業証書を教室で担任から一人ひとり受け取る。


私の時は先生が私の席に来て渡してくれた。


「汐月有紗、卒業おめでとう。汐月は今後どうする予定なんだ?」


先生は就職の子には頑張れよ!

進学の子にはちゃんとこの先も勉強しろよ! 等と声をかけていた。

私の答えにクラスのみんなが聞く姿勢なのか静かになる。


「四月から一ヶ月、中途失明者や弱視になった人のための生活訓練施設に入って白杖を使っての歩行訓練や生活に必要なことの訓練を受けてきます」


私の答えに、少なからず成績を知ってるみんなは驚いていた。

進学するものだと思っていたのだろう。


「それが済んだら、そのあとは?」


その問いには、私は少し照れつつも答えた。


「来年、一年の浪人なりますが音大を受験します。声楽科に入るのが希望です」


そう、私は歌うのが好きだ。

難しいこともあるかもしれないけれど、好きな音楽を歌を学ぶ道にみんなより遅くなるけど進みたいと思っている。


「そうか! 汐月、進学の際なにかあればいつでも相談に乗るから、連絡してこい」

「ありがとうございます」


私たちの会話が済むと、先生はまた卒業証書を手渡していく。


そして、先生がクラス全員に配り終わると話し始めた。


「このクラスはみんな真面目で、優秀だったな。俺はこの一年見守るくらいだった。みんなそれぞれ、この先自分の道を進んでいくだろう」


先生はひとつ息をつくと、続けた。


「この先はこの三年間より困難や苦悩することも多くあるだろう。でもここで出会った仲間や友達とは、なんだかんだ長く付き合えるだろう。互いに支えあって歩いていって欲しい」


「みんな卒業、おめでとう! みんなの未来が輝かしくあるよう願っているよ」


先生の言葉はなによりの送辞となったと思う。


クラスのみんなで、連絡先を交換したりして一人ひとりここを旅立つ。


「汐月さん! 私、汐月さんの歌声大好きだよ! 夢、叶えて欲しい! 私も頑張るね」


そんな声をかけてくれたクラスメイトたちに手を振り、私と要くんはゆっくりと歩いて行った。


「そういえば、要くんの夢って聞いてないな。要くんの夢は?」


私が聞くと、要くんは足を止めて答えてくれた。


「俺、理系に進むだろ? そこで教員課程もとって先生になるのが夢なんだ。中学の時の理科の先生が面白い人で、憧れて。中学校の理科の先生が夢というか、目標」


その答えを聞いて、私は自然と笑みを浮かべつつ言った。


「松島先生か。要くん面倒見がいいし、向いてると思う!」


私の言葉に要くんは照れたらしい、額をコツンと合わせてきた。


「俺だって初めて聞いたよ。有紗の進路希望。音大の声楽科を目指してるって」


なんだかすごく、クラスで先に話しちゃったのを悔しがってる感じだ。


「あのね、病気になる前から私は歌うのが好きな子だったの。病気なってからもそれは変わらなくて、ずっと音楽教室にも通ってたの。だから私、今年遅れて受験生になるね」


私の言葉に、要くんは言った。


「それ、小さいころからの夢だろ? 有紗は歌手が夢?」

「うん、いつかホールで歌うのが夢」

「応援するよ、放課後の歌姫!」


最後に茶化す言葉を入れてきた要くんだけれど、その声は温かくて私に力をくれた。


「うん、頑張る! 私も先生を目指す要くんを応援するよ!」


私達は微笑みあって、再び歩き出した。

それぞれの夢と未来に向かって。



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