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眩しさの中、最初で最後の恋をした。  作者: 織原深雪


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6


中一日おいて、また登校日になる。

今日は体育館で卒業式の会場の作りのまま入退場練習を兼ねて、三年生を送る会が行われる。


今朝も家まで迎えに来てくれた要くんと、バスと電車を使って登校してきた。

先日の登校日の様子から、下級生にも私の事は広まったようで校門から昇降口までまたも先日の廊下と同じ現象が起きたよう。

それを見て思い出してしまった要くんは、クックっと肩を震わせつつ歩いた。


私にはわからないので急に笑いだした要くんに心配して声をかけたら、そう教えてくれた。


どうやらその現象が要くんには妙なところでツボに入ってしまったらしい。

私も、こうなったら要くんが笑いだしたらそんな状況なのだと思うことにした。


下駄箱の前で今日もやり取りしながら履き替えていると、今朝も元気な声が聞こえてきた!


「有紗! おはよう! 要もついでに、おはよう」


日菜子の元気な声に、要くんが返事を返す。


「俺はついでか。ま、いいけど」


クールな返しに、日菜子も特に気にしない。

幼なじみらしいやり取りにクスクスと笑っていると、蒼くんが遅れてやってくる。

自転車通学だからきっと駐輪場に置いてきたから、この時間差なんだろう。


「要、有紗ちゃん。おはよう!」

「おはよう、蒼くん」

「聞いてよ、今朝は迎えに行ってふたりで自転車通学だったのに日菜子は着いた途端に俺を置いて行ったのよ? 朝からめっちゃ漕いだのに!」



そんな蒼くんの嘆く声に、日菜子はあっさりと返す。


「うむ、私は楽できて良かった! 卒業式の日も頼むよ!」


日菜子ってば、彼氏に容赦ないね。

遠慮がなくて、仲が良いとも言えるけれど。


「だったら、着いた途端に俺を置いてかないでよ!」


声は本気ではなくちょっとからかいを含んでいる、そんな日菜子と蒼くんのやり取りに朝から笑顔が絶えなかった。


この間と同じように要くんの肘を掴んで教室までたどり着くと、この間とは違い明るい声で迎えてくれるクラスメイト達。


「お! 汐月さん、松島。おはよう」

「汐月さん、おはよう! 今日は体育館にひざ掛けもマフラーも持参で良いって! 持ってきてる?」


「持ってきたよ! 今日も寒いもん、絶対要るよね」

そんな声に答えながら席に向かう。


「あ、有紗。これ、あげる」

そんな声とともに手渡されたものは、温かい何か。


「あれ、これって?」

「ホッカイロ! 今日ふたつ持ってきたから、ひとつは有紗にね!」

「わ! ありがとう。これで体育館耐えられる」


喜ぶ私をクスクス笑ってる要くんと蒼くん。


「ムッ! なんで笑うの!」

「いや、有紗って寒いのホント苦手だよね」

「だって、私は夏生まれだもの! 寒いのは体に合わないのよ!」


そんな自己理論を言うと、周りがクスクス笑っていて私も自然と笑顔になっていた。


温かい装備でバッチリの三年生を送る会は、運動部がコントをしたり、軽音部は下級生のバンドに卒業生が乱入したりと実に楽しい雰囲気で進んで行った。


そして、終われば私達は午前中のうちに帰宅である。

今日はうちの親が用事があって出掛けていて夕方まで不在なので、親が帰宅するまで要くんの家にお邪魔することになっている。


「今日は有紗が来るから、母さんがお昼張り切って作るって言ってた。帰ろうか」


そうして、学校から徒歩十五分。

駅を通り過ぎて、坂道を上って脇道に入って少しすると要くんの家に着いた。

歩いてきたのは初めてだけれど、学校から結構近くて。

家に迎えに来てくれてから学校に行くというのが、かなり手間をかけさせていて申し訳なく思った。


お家について、お母さんが出迎えてくれる。


「要、おかえり。有紗ちゃん、いらっしゃい。有紗ちゃん? どうかしたの?」


そんなお母さんの問いに、要くんが私の顔を覗き込んだ。


「有紗、どうした? なんでそんな難しい顔してるの?」


私は思ったことを素直に言った。


「こんなに学校から近いのに、私の為に家まで迎えに来てもらって登校するのが申し訳ない気がして……」


私の言葉に要くんとお母さんは顔を見合わせ、その後お母さんが言った。


「有紗ちゃん。それ要がしたくてしてるから、卒業式の日までやらせてやって? 夢だったんだって、彼女を家まで迎えに行って学校に一緒に登校するのが! 乙女か! って感じよね」



それは楽しそうにクスクスと笑いながら言うお母さんに、要くんが少しぶっきらぼうに返事をする。


「そこまで言わなくてよかったんだけど!」


そして、私の額にコツンとぶつかってきた要くん。


「変なバラされ方したけど、本当に俺がやりたくてやってるから気にしないで。俺、有紗と一緒に過ごす朝が楽しくて仕方ないから」


そこで言葉を区切ると、額を離した要くんが耳元に囁いた。


「もっと早くやってみれば良かったと後悔してる位だから、気にするなよ!」


その声は照れを含んでいて、私は胸が温かくなり、キュンと甘く鳴る鼓動に手を当てていた。


「要くん、ずるい。いつもドキドキと幸せにしてくれちゃって!」


そんな私の返事に、要くんはクスッと笑うと耳元からの戻り際に頬に掠めるキスをした。


「もう!」

照れた私に、サラッと要くんは言う。


「母さんはもう、キッチンに行ってるから大丈夫」


私が言いたかったことは、難なく伝わっていたようでそんな返事が返ってきたのだった。


「要! 有紗ちゃん手洗いうがいしてらっしゃい! ご飯用意出来るから!」


そんなお母さんの声に答えるように、手を引かれて洗面所に行き手洗いうがいを済ませてダイニングに戻ると、美味しそうな匂いがした。


「今日も寒いからね、スープパスタにしたわ」


トマトスープのパスタは生姜も効かせてあって、食べたら体がポカポカ温まった。


要くんの家で、ゆったりと過ごしたあとお母さんからメールが届き要くんの運転で家まで送ってもらった。

お父さんは電車通勤らしく車は休日しか使わないらしい。

今日も私を送り届けるのに安全運転で使うようにと、ひと言貰って借りたと言う。


今度会った時にお父さんにもお礼を言わなくてはと、しっかり記憶しておく。


そう思いつつ、車に乗ればあっという間に我が家までたどり着く。


明日はとうとう卒業式だ。


私をしっかり玄関まで送り届けてくれる要くん。


「また明日! ちゃんと迎えに来るから」

「ありがとう、また明日」


そんな前日を過ごして、翌日。


制服を着る最後の日。


感慨深い気持ちで制服に袖を通す。


チェックのプリーツスカートに、紺のブレザー、赤のネクタイの制服は近隣校の中では可愛くて人気がある。


そんな制服を着て、朝ご飯を食べて準備を終える頃要くんが迎えに来てくれた。


「おはよう、要くん」

「おはよう、有紗」


そんな挨拶を交わす私たちに、お母さんが声を掛ける。


「あとから行くからね! 要くん、よろしくね」

「はい!」


そんなお母さんに返事をして、私達は今日で通うことのなくなる道を歩く。


卒業式の今日は、冬晴れでここ数日の中では温かい日差しが射す日だった。



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