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眩しさの中、最初で最後の恋をした。  作者: 織原深雪


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「それにより視力低下をしていって、最後の方には視野の欠損なんかもありつつ、ぼんやりとしか見えなくなる。そういう病気で遺伝子の病気なので先天的なもので、治療法のない難病といわれる病気」


そう話すと、そんなことになってることを知らなかったみんなは息を詰めつつ私の話を聞いてくれた。


「最初は目が見えづらいな、ぼやけるな位だったの。検査をして判明したのが小学二年生の時」


「その時に医師に言われたのが、十年後には目の神経萎縮が進んで見えなくなるだろうって事だった。今年がその十年目だったの」


クラスのみんなはこの話をどう受け止めてるのか、顔が見えない私には上手く伝えられるか分からないけれど。

今朝の要くんと一緒に歩いていた理由まで話すことにした。


「だから今の明るい暗い、物がある無いの見分けがつく位の症状になるのも分かっていたの。それで今は一緒に歩く練習をしてくれた要くんが居ないと出かけられないし、ひとりで歩くのはちょっと大変なんだ」


そこまで話すと、みんな詰めてた息を吐き出したような空気を感じた。


「堂々と腕を組んで歩いてきたから、何事かと思ったけれどそういう理由だったんだね」


クラスメイトの問いに、私はうなずいて答えた。


「今はね、もう目の前に来てくれてもその人の顔や表情も見えないの。それくらいの視力なんだ。だから要くんに掴まっていて、歩くために誘導してもらってたの」


今朝の腕を組んでるように見えた姿の理由まで話せたので、ふぅとひと息つくと先生に言った。


「私からの説明は以上です。こんな状態で残り少ない間に迷惑をかけるかもしれないけれど、みんなと一緒に卒業したいの。最後までよろしくお願いします」


私は頭を下げた。

すると、静かだったクラスメイト達が話し始めて騒がしくなる。


「いや! 頭下げることじゃないし!」

「そもそも、汐月さん本人が一番大変でしょう?」

「ねぇ、日菜子! トイレとかは女子で助けないと、松島じゃトイレは無理でしょ?」


そんな会話が次々と飛び出してくる。

迷惑をかけることになるのを、どう受け止められるのか少し不安だったけれどクラスメイト達は優しかった。


「有紗、大丈夫だよ! なにかあればクラスのみんなで残り少ない学校生活フォローするから。みんなで、卒業しようね!」


日菜子の言葉に、うなずく皆は嫌な顔をしてないだろうか。

見えない私には確認の仕様がない……。

私の不安を分かって、そっと耳元で話してくれたのは要くんだ。


「有紗、大丈夫。みんなびっくりはしたけど、有紗の事を嫌がってる人も面倒だという顔をしてる人もこのクラスにはいない。クラスメイトはみんな有紗の味方だ。大丈夫だよ」


その言葉に、私はここまで続いた緊張の糸を緩めて肩から力が抜けたのだった。


そうして、朝のホームルームが終わり卒業式の練習のため体育館へと移動する。


要くんに掴まって廊下を歩き出した時、他のクラスの女子の声が聞こえた。


「いくら校内公認だからって、こんな見せつけなくてもいいのにね!」


肘に掴まって歩く姿は傍から見れば、腕を組んで仲の良さを見せている様にしか見えないだろう。

こうした事を言われるだろうことはわかっていたけれど、実際言われると少しキツイ。

要くんは人気があるから仕方ないかなと苦笑いしていると、肘を掴んでいる私の手をポンポンと撫でる温かな手。


「有紗、気にしなくていい。行こうか」

「うん。ありがとう」


そうしてゆっくり歩いて行き、階段を一歩一歩足先を確認しながら降りていく。

その姿に他のクラスの子たちがザワザワとしていく。

でも、私は一番神経を使う階段なので周りを気にする余裕はなかった。


その頃、私に向かって言った子に物凄い笑顔で日菜子が凄んでいたり、他のクラスメイトがゆっくり歩く私と要くんを気にせず早く移動するように声を掛けてくれてたりと助けてくれていた。


普段より時間がかかったけれど、無事に体育館へとたどり着いた。

今日は卒業生だけの練習なので、体育館は人が少ないからか寒さを強く感じる。


「結構寒いね」

「今日は外も冷えてるからな」


そんな会話をしつつクラスの席へと着くと日菜子が声を掛けてきた。


「有紗! 席順私が隣だから式の間は私が誘導するわね!」


そう、私と日菜子は出席番号が隣同士。

卒業式は出席番号で並ぶから、隣は日菜子だ。

頼もしい日菜子の申し出に、私は笑ってうなずくと返事をした。


「そうだよね。日菜子よろしくね!」

「まっかせなさい!」


クスクス笑い合いながら、席に座った私を見届けて要くんと蒼くんも自身の席へと向かって行った。


高校の卒業式は、卒業証書はクラスの代表が取りに行くのでその場で立ったり座ったりする事はあるけれど、歩くのは入退場だけ。


体育館までは要くんが歩行介助で誘導してくれて、体育館前で並んでからは退場まで日菜子が誘導してくれることになった。


入場の練習の時、手を繋ぎながら進む私たちを見てなにかを言う人はもう居なかった。


それまでの間に私達の様子や、やり取りを見て大体の人が私の状態を察したからだ。


日菜子に凄んだ笑顔で睨まれた子は、私の様子に気付くとバツの悪そうな顔をしていたみたい。

その後なにも言いには来なかったけれど、きっと要くんが好きだったのだろう事は分かったので、私も特に気にしなかった。


「あーんな顔してるなら、一言謝りに来ればいいのに」


隣でボソボソと小声でぶすっとした声で話す日菜子に、私は苦笑しつつ返事をした。


「もう突っかかってこなければそれでいいよ。謝られても、なんだかなぁってならない?」


私の言葉に、日菜子も考えた後に答えてくれた。


「それもそうね」


そうして、卒業式の予行演習は問題なく進んで終わった。

とりあえず、寒さの方がキツかったと言える。


教室に戻るのは、また要くんが歩行介助をしてくれる。

階段は降りるより登る方がまだ楽で、行く時より戻る時の方が早く歩いて来れたと思う。


「やっぱり降りる方が大変だな」


要くんが私を介助しつつ呟く。


「そうだね。エレベーターがある所はありがたいね。エスカレーターも結局乗り降りが大変なんだもの。こうなってみないとわからないことってたくさんあるね」


そんな会話をしつつ歩く私たちは、実にスムーズに教室にたどり着いてちょっとした疑問が湧き上がった。


「なんか、廊下静かだったし全然ぶつかったりズレたりしなかったね。あれ、周りが気を使ってくれてた?」


椅子に座ってから隣の席の要くんに聞けば、答えが返ってくる。


「なんか、俺と有紗が見えたら両脇にサッと避けてくれたんだよ。俺ちょっとモーセの十戒だっけ?海が割れる映画を思い出した」


そんな要くんの言葉になんだかその様子が頭に浮かんできて、ちょっと笑ってしまった。



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