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眩しさの中、最初で最後の恋をした。  作者: 織原深雪


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4


まだまだ寒い三月初旬の初めの土曜日。

そこが卒業式の私達は三月になってすぐ、卒業式の練習に久しぶりに学校に行った。


お母さんが送っていこうか? と言ったけれど、それを聞いてた要くんが朝迎えに来て帰りも家まで送り届けるからと言ってくれた。

お母さんは、要くんに任せることにしたようだ。


朝早くから学校とは真逆の我が家に来て登校なんてと思ったけれど、要くんは家に迎えに行って一緒に登校をしてみたかったんだなんて可愛いこと言った。


それを聞いてたお姉ちゃんとお母さんには、有紗は幸せ者ねと言われたのだった。

私も、とても幸せだと思う。


そうして迎えた登校日。


「おはよう、有紗」

「おはよう、要くん」


朝、迎えに来てくれた要くんと一緒にバスと電車を乗り継ぎ、駅を降りたら徒歩でしっかりいつもと同じ道を歩いて学校へとたどり着いた。

この不明瞭な視界で歩くのは、実はかなり神経過敏になって疲れる。

けれど、久しぶりの外の空気と絶対に離れず着いていてくれる要くんがそばにいる事でいつもよりは少ない疲労感で学校へと着いたのだった。


少しざわつく周りを気にせず、私と要くんは昇降口の下駄箱まで着くと要くんが私の上履きを取ってくれて、脱いだ上靴をしまってくれた。


「ありがとう、要くん」

「履けるか?」

「大丈夫」


そんな会話を周りが遠巻きに見ているのは、私には見えないけれど空気は感じた。


そこに久しぶり会う日菜子と蒼くんがやってきた。


「お、要! 有紗ちゃん、おはよう」

「有紗、おはよう!」


ふたりの声は受験目前だった学年末の頃のピリピリした感じが抜けて、すっかり明るいふたりらしい声に戻っていた。

その事にホッとひと息つくと、私は返事をした。


「日菜子、蒼くん。おはよう」


すると私の様子がいつもとは違うことに、いち早く日菜子が気付く。


「有紗? なにがあったの? どうしちゃったの?!」


そう問いかけて私の肩を掴む日菜子に、要くんが声を掛ける。


「ちゃんと話すから。有紗の話、聞いてやって。とりあえず教室に行こう」


そして要くんは私の手を取ると自分の肘をしっかり掴ませて歩き出す。

要くんが私を気遣い、歩幅と歩く速度を合わせてくれている。

家の中やたまにうちの近所を一緒に散歩することで、要くんは今日の登校までにしっかり歩行介助を出来るようになっていた。

歩行介助について、本やネットを調べたと言っていた。

まだあと少し学校に行かなきゃいけない事に気付いた要くんが、調べてから真っ先に私に提案してくれたのが歩行介助のことだった。


「普通に最後まで学校に行くにはどうしたらいいか考えたんだ。一緒に練習して残り何回かだけど、今まで通りの通学路で学校に行こう。一緒に行くから」


そこから今日まで何度も散歩をして、練習した成果が今日の疲労感少なく学校へとたどり着くという結果になった。


教室に着くと、私たちの姿に一瞬ザワっとした。


「おはよう。松島、汐月さん。相変わらず仲がいいな!」

「おはよう」


そう返事をして、自分たちの席に着く。

椅子や机を手で触りながら確認して動く私に、教室の空気がシーンとする。

みんなからどうしたらいいのか分からないという空気を感じた。

そんな中で、私たちのそばに来て口を開いたのは日菜子だった。


「有紗? なにがあったの? 自由登校の間に有紗はどうしちゃったの?」


日菜子が不安と心配に揺れる声で聞いてきた。


「久しぶりに会ったら、突然こんなんでびっくりしたよね。ごめんね、もっと早く話しておけばよかったんだけれど。皆、それぞれ忙しい時期だったからね」


私が苦笑しつつ言うと、日菜子は戸惑いながら聞いてくる。


「有紗。目が、見えてないの……?」


その問いにうなずいて、言葉を返す。


「明るい、暗いとか。近くなればなにかあるとか誰かいるのは分かるけれど。人の顔やハッキリと物を見る事は出来なくなっちゃったの」


私の言葉にクラスメイト達が息を呑む音が、静かになった教室に響いた。


「少しずつ視力低下が進行していく、そういう病気なの。だからこうなる事は、ちゃんと分かってたんだよ」


私はきっと今、少し困り顔をしながら話してるだろう。

そんな私を励ますように、私の肩に要くんの手が乗る。


「要くん、ありがとう。大丈夫だよ」


そんな私たちのやり取りをクラスメイト達は見守っていた。


「有紗の、その病気は治らないの?」


静かな声音で、日菜子が問いかけてきた。


「うん。治療法の無い病気で、進行する病気だからね」

「そうなの……」


言葉が続かなくなった日菜子に、蒼くんが遠慮気味に声を掛けてきた。


「有紗ちゃん。もしかしてだけれど、去年から体育に出てなかったのって……」


「そう、病気で視力低下と物との距離感が危うくなってきてたから。病院からの診断書を出して体育に関しては免除を受けていたの」


そう答えると、はぁぁぁと息を吐き出した蒼くんは言った。


「それを俺達に気付かせないように、どれだけ気を使ってたの? 水臭いじゃないか!」


「ごめんね。こんなに見えなくなったのも、ここひと月の事なんだよ。学年末テストまではテストが受けられるくらいには見えてたんだから」


私の答えに、蒼くんと日菜子は驚いた声をして言った。


「そんな急に見えなくなったの?!」


「急ではないよ。ずっとゆっくりと進行してたんだよ。十年前に病名がついてから、ゆっくりとね」


その私の言葉に、周囲のクラスメイトも驚いているのか少しザワザワと騒がしくなる。


「元から言われていたの。見えなくなるのは今頃だろうって。この春からいつ見えなくなるかとずっと気にしつつ過ごしていたけど。学年末テストまで済ませられたのは、よくもったと思うんだ」


静かに微笑んで話す私に、周りはざわつきつつも何も言えないみたいだった。


そこに、担任の三浦先生が入ってくる。


「おう、お前ら久しぶりだな! うちのクラスは受験組も就職組も無事に進路が決まったな。おめでとう」


その言葉に、みんな声を詰まらせて静かになる。


「なんだ? 喜んでみんな元気だと思ってたが、違ったか?」


教室の様子に先生が戸惑う声を出すので、私は立って声を出した。


「先生、すみません。私の事で少し雰囲気を悪くしてしまいました」


そう話すものの、私の視線はどこにも合わない。

その様子を見た先生が、驚きつつも聞いてきた。


「汐月、病状悪化したのか?」

「悪化というか。お医者さんが言っていた通りに進行したって感じでしょうか」


苦笑しつつ話す私と先生のやりとりを、クラスメイト達は見守っていた。


「汐月、それなら今から話してみるといい。病気のこと、今の汐月の事を」


その案に従って、私はサラッと話すことにした。


「私の病気は遺伝子からくるもので、病名を優性遺伝性視神経萎縮といいます。これは角膜や網膜は問題なくて視神経がゆっくり萎縮していく病気で……」


どう話すのがいいのか、少し考えるとまた話を続ける。

私の声にクラスメイトがしっかり耳を傾けてくれているのは、空気感から感じ取っていた。



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