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眩しさの中、最初で最後の恋をした。  作者: 織原深雪


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2


一月中旬、私はなんとか高校で最後の学年末テストまで受け終えた。

現在は二月。

受験本番の時期にさしかかり、学校は自由登校になった。


自由登校に入ると私の視力低下はまた進み、人の顔や物を見るのにかなり近付かないと分からない。

そんな状態になっていた。

だから私は自由登校になったいま、家でゆっくりと過ごしている。

また、症状が進んだ私が危なくないように家の中で部屋替えが行われた。

今まで両親の部屋だった一階の部屋と、二階の私の部屋を入れ替えたのだ。


そろそろ階段の段差も目で見るのは難しくなってきたから。

少しでも私が過ごしやすいようにと、両親とお姉ちゃんの手伝いもあってそうした部屋替えを行ったのだった。


高校の卒業式まで待ったあと、私は中途失明の人々のための生活訓練施設に一ヶ月ほど入所して生活するための訓練を受けることにした。

出来なくなることを嘆くだけでは、なにも出来ないままになってしまう。

私はちゃんと自立した人生を送りたい。

そう思って、家族と相談して決めた。


要くんとは、最近は家に来てもらってゆっくり話したりして過ごしている。

外を出歩くのは難しくなってしまったからだ。


そんな中でも私が今頑張っているのはバレンタインのチョコ作りだ。

お母さんやお姉ちゃんに付き添って手伝ってもらいながら。初めてのバレンタインだから。

どうしても手作りの物を要くんにプレゼントしたくて頑張っている。


作ろうとしているのはガトーショコラ。

ホールで焼いて、ウチに来てくれる要くんと家族みんなで食べようと思ってこれに決めた。


最初このケーキを作るのにお母さんやお姉ちゃんは難色を示したけれど、私の気持ちを汲んで手伝ってくれている。


私を手伝いながらお姉ちゃんは宏樹くんに生チョコを作るらしく、一緒に試作している。

お姉ちゃんと宏樹くんはお付き合いから五年程になるけれど、毎年手作りのお菓子をプレゼントと共に渡しているらしい。

宏樹くんとお姉ちゃんは本当に仲がいい。

でも、宏樹くんが独立するまでは結婚はしないって言ってた。

ふたりのゴールはまだまだ先そうねと、お父さんとお母さんはのんびり仲良しのふたりを見守っている。


私と要くんに関しても、要くんが日々言葉を尽くし、態度でも私を大切にしているのを見て安心してくれたらしく、今ではいつ来るの? と確認があるくらい。

自由登校になり、学校に行かない間に要くんはアルバイトに励んでいて、バイト終わりに我が家に顔を出している。


すっかり我が家に溶け込んでいるし、最近は家で夕飯も一緒に食べたりしている。


そして、私もたまに要くんのお家にお邪魔している。


要くんの家にお邪魔した時、一月に会った時より進んでしまった私の症状は会えば直ぐに分かったようだ。

視線を合わせて話せなくなってしまったから。


なんとなく声とぼやけた姿から人のいる場所は分かるけれど、しっかりと姿や顔を見て話すことは出来なくなってしまったから。


そんな私でも、要くんの御両親は温かく迎えてくれる。

寒い時期だけれど、火傷したりしないように少しぬるめに調節してくれたお茶や、お菓子は手に持たせてくれたり。

私はたくさんの優しさに触れながら、日々穏やかに過ごしている。


穏やかに迎えたバレンタイン当日は、日菜子と蒼くんの本命の受験当日でもあった。

私は最近はスマホで音声入力でメールやメッセージを送っている。

そのおかげか、とっても滑舌が良くなったと思う。


受験の当日は珍しく快晴で、日菜子と蒼くんはしっかりと受験会場に辿り着いたみたい。


グループメッセージで私もひとこと送った。


「日菜子、蒼くん! 頑張ってね! 次に会うの楽しみにしてるね」


次に会った時はきっと、ふたりを驚かせてしまうと思うけれど。

私は受験を終えて肩の力を抜けた、元気なふたりに会うのを本当に楽しみにしているのだ。


そして、午後お母さんと一緒に少し手伝ってもらいながら、私は何度も練習したガトーショコラをなんとか焼き上げた。



ケーキに顔近づければ、とってもいい匂いがする。

どうやら上手くいったようでホッとした。


夜にお父さんお姉ちゃんや要くんが来た時に食べられるように、しっかり冷蔵庫で冷やすために綺麗にしまった。


それを終えると、ダイニングのテーブルまで家具を伝いながら歩いて椅子に座る。

私が椅子に座ると、お母さんが台所でカチャカチャと音を出している。


「お疲れ様。綺麗に焼けてよかったわね。おやつの時間だし頂き物だけれど、これ食べましょう」


お母さんが持ち出してきたのは、クレームブリュレバウムクーヘン。

有名なやつだ。

昔テレビで見て食べてみたいと思っていたもの。


「どこから頂いたの?これ有名なやつだよね?」


不思議に思って聞けば、なんとこれお姉ちゃんの頂き物らしい。

顧客のマダムから差し入れで頂いたんだと言う。

しかもこれの話をした時に私の事を話してたらしく、差し入れてもらった時に私にも食べさせてあげてと言われたのだという。


「ちなみに貰ってきたのは昨日よ。今日のお茶の時間に先に食べていいってお姉ちゃんから言われたから。食べましょ!」


お母さんの声が弾んでいる。

そう、うちのお母さんは我が家で誰よりも甘い物が大好物の甘党なのだ。

そんなお母さんが昨日これを見てから、かなり楽しみにしていたのが声からわかって、私は思わず笑ってしまうのだった。


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