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眩しさの中、最初で最後の恋をした。  作者: 織原深雪


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冬 迫り来る時、新たに進む道


迫り来る時


それは抗いようもなく


落ちるだけ落ちても


私は前を向くだろう


大切な人が私を導いてくれるから


クリスマスイブの日、しっかりと話せたことで私と要くんはまた少し関係が変わったように思う。

それは良い方向に。

今まで隠してたことで、症状も現在の状況も教えていなかった。

その事に要くんが少し考え顔で言った言葉が胸に痛かった。


「聞いていたなら、もっと気遣った行動が出来てたよ。多分待ち合わせじゃなくて迎えに行ってた。今日みたいに」


そう言われた。

クリスマスイブに手編みのニット帽をプレゼントした時、今の私の症状について話した。


「要くん、これプレゼント。多分この先はなかなか手作りのものをあげられないかもしれないから、気持ちを込めて編んだよ」


そう言って手渡したニット帽を、丁寧に取り出して被ってくれた。

グレーの縄編みのニット帽は要くんによく似合っている。


「あのね、これを編む時に気付いたんだ。症状が進んだみたいでね。手元にピントを合わせるのも短時間が限界で、また症状が進んだみたいなの」


私の言葉に要くんは少し驚いて、そして言った。


「今は? 見え方は大丈夫なのか? 今日、帰りは家までちゃんと送るから」


ひとつ息を吐くと要くんは続けた。


「これから出かける時は待ち合わせじゃなくて迎えに行く。それは、有紗が大切で心配だからだ。今回話してくれて良かった。知らないと、なにも出来ないから……」


要くんの最後の一言が痛かった。

私だって逆の立場なら、知って相手の力になりたいと思うんだとこの時気付いた。


「要くんに話すのは不安もあったの。もしも、この時間が無くなってしまったら……。それは嫌だと思ったら、上手く言い出せなかったの……。ごめんなさい」


そんな会話をして、その日私達はしっかりと手を繋いで歩き、私を家まで送ってくれた。

家で出迎えたお母さんは、少し驚いていたけれど一緒に来た要くんも迎え入れてくれた。


家で今日要くんに病気の事を話した事を伝えると、今までどんな友達にも話してこなかった私を知る両親は驚いたけれど、話せるくらい大切な相手に出会えた事を静かに喜んでくれた。


「今まで知らなくて、ちゃんと出来なくてすみませんでした。これからは出かける時は迎えに来て、帰りもここまで送ります。だからふたりで出掛けることを、許してもらえませんか」


要くんは私の両親を見つめて頭を下げてお願いしていて、私と両親が慌ててしまった。


「要くん、有紗の事をしっかり考えてくれてこちらこそありがとう。君はしっかりしているし、こうして有紗の病気が分かったらしっかり家まで送ってくれた」


そうお父さんが言ってお母さんと顔を合わせると、優しく微笑んで続きを言った。


「要くん、そんな君なら安心して僕らも有紗が君と出掛けるのを送り出せるよ。これからも有紗と仲良くしてくれれば僕達は嬉しいよ。ありがとう」


こうして、イブの日から我が家の方では要くんとのお付き合いは家族公認となったのだった。



そんなイブを振り返った現在は大晦日の午後11時。

今日しっかり約束通り我が家まで迎えに来てくれた要くんは、私の親やお姉ちゃんにもしっかり挨拶をして連れ出してくれた。


今日は学校の最寄り駅のそばでやる、カウントダウンの花火を一緒に見る約束なので、出掛けるのはこの時間だ。

一緒に年越しを過ごせることが嬉しい。

そして、初めて彼のお家に行くので少し緊張している。


この約束もあの日、我が家でしたのだ。


「カウントダウンの花火っていつも音しか聞けないんだよね。多分見れる機会は今年だから見に行きたいな」


ポツリと零した私の言葉に、両親は少し難しい顔をした。

かなりの人混みなので、今の私には結構厳しい場所なのは私にも分かっていた。


すると、要くんが言ったのだ。


「それなら俺とまた一緒に花火を見よう。迎えに来るし送ってくから大丈夫だよ。それにその花火、俺の家からよく見えるんだ。だから家においでよ」


私の言葉を聞くなり、そう提案された。


「車の免許も取れて、運転も慣れてきたから。その日は車で迎えに来て、帰りもちゃんと送るから」


その言葉を聞いて両親は、うなずきあってお母さんが言う。


「要くんの案が安心だわ。有紗、それなら出掛けていいわよ。要くんの親御さんが良いって言ってくだされば」


お母さんの言葉に要くんはうなずくと、その場で電話をかけてご両親に聞いてくれて、了承の返事が来た。


なので、現在初めて彼の運転する助手席に座っている。


ドキドキしながら乗り込んだ車は、順調に進む。

要くんの運転はまだ、初心者マークなのだけれど本人の性格もあるのか、丁寧で乗っていて不安になることは無かった。


「有紗とこれからも出かけるためには、バイトして自分の車が欲しいよな。頑張ってお金貯めるから」


今日運転してきてくれた車はお父さんの車だそうで、今は休日に使わない時に借りて運転しているのだと言った。


「初めての訪問がこんな時間になって、よく来てもいいよって言ってくれたよね。ちゃんとご挨拶しなきゃ」


緊張した面持ちでいる私に、要くんはクスリと笑うと大切な事を話し始めた。


「有紗には話してなかったな。うちの親なら大丈夫だから。有紗のことちゃんと分かってくれるよ。俺の母さんさ、俺を産む前に病気で耳が聞こえなくなったんだ」


その言葉に隣で運転している要くんを見つめると、要くんは前を向きつつ私の髪をサラッと撫でて言葉を続けた。


「だから、病気で出来てたことが出来なくなることに関しては母さんはよく知ってるんだ。有紗の気持ちが一番理解できるかもしれないな。だから、心配しなくていい」


そうした話を聞きつつ、車は住宅街の一軒家へとたどり着く。


車をうちの前の駐車スペースに丁寧に停めると、私がシートベルトを外す間に降りた要くんがドアを開けてくれた。


「はい、気をつけて」


差し出された手を掴んで、ゆっくり降りる。

暗い中だと余計に見えないから、要くんの気遣いはとても助かった。

車の音を聞き付けたのか、お家の玄関が開いて要くんを渋い大人にした感じの男の人と優しそうな女の人が出てきた。


要くんのご両親だ。

要くんと玄関に向かい、そこで挨拶をする。


「初めまして。この時間の訪問を許して下さってありがとうございます。これ少しなんですが」


ご挨拶して、お母さんが用意してくれていたお菓子を渡す。


「初めまして。要の父です。こちらこそ、よく来たね。さぁ、まだ花火には早い。寒いから家に入りなさい」


そうして案内されたお家は木の温もりを感じる、温かく落ち着いた雰囲気のお家だ。


「初めまして、有紗ちゃん。要からチラホラ話は聞いていたのよ! 会えて嬉しいわ」


ゆっくりとした話し声は、耳が聞こえないとは思えないほどハッキリと綺麗に話している。


「要から聞いてきた?」


驚いている私を見て、お母さんはクスリと笑うと言った。


「聞くのは確かに難しいわ。でも元は聞こえていたから話すことは出来るのよ。それにゆっくり話してくれれば口を読めるから言ってることはわかるの」


その説明に、なるほどと思いながら要くんに引かれてリビングのソファーに腰を下ろした


「要からは少ししか聞いていないんだけれど、この先君の目が見えなくなってしまうと……」


お父さんが少し口を濁しつつ聞いてきたので、お母さんも向かいのお父さんの隣に座ったところで私はゆっくりを意識して話し始めた。


「小学生の時。いきなりそれまで良かった視力が下がって視野が狭くなりました。それをなんとか親に伝えると病院に連れていかれて検査を受けたんです」


下を向きそうになるのを必死に下げないように話す。

口元が見えなければ、お母さんには分からないから。


「その検査の結果ついた病名が優性遺伝性視神経萎縮という難病で治療法が無い病気でした。発症は小児期、そこから徐々に視力低下が進行していき最後はぼんやりとしか見えなくなっていく、そういう病気です」


そう話すと、要くんの御両親は顔を見合わせてその後にお母さんが聞いてきた。


「今はどんな感じなの?」


その問いに私は隠すことなく、今の自分の状態を話した。


「だいぶ進みました。今はピントを合わせるのも大変だしそれを続けられる時間が短くなりました。周囲のぼやける感じも強くなってきてます」


私の言葉にお母さんは、立ち上がり隣に来てキュッと手を握ってくれた。


「私はね、高熱の後にいきなり聞こえなくなったのよ。それもショックだったけれど、大人だったし結婚もして支えてくれる相手もいたわ」


そこからまた、ひとつ息を吐くとお母さんは言った。


「小さな頃からゆっくり進んでいく症状なんて、日々不安に晒されてるのと同じよね。どちらも苦しいけれど、有紗ちゃんは病気が分かってから毎日頑張ってきたのね」


そのお母さんの優しい言葉で胸がいっぱいになって、自然と涙が流れてきた。

そんな私を見て、要くんとお父さんは優しい顔をしていた。


「頑張って受け止めて、そうして過ごしてきたから有紗ちゃんは真っ直ぐいい子に育ったのね。それはご家族と、なにより有紗ちゃん本人の努力よ」


そして、目線を合わせてニッコリ笑うとお母さんは言った。


「これからは要も、私達も有紗ちゃんの味方よ。これからはいつでもいらっしゃい」


泣きながら、私はうなずくことしか出来なかった。

優しさと温かさで胸がいっぱいだったから。


泣き止んで落ち着く頃には、そろそろ花火が上がり新年を迎える時間になったのでみんなで庭に出て見ることにした。


要くんの家は高台の開けた場所にあり、花火が上がる予定の場所まで良く見えた。

いつも歩く駅の周りの明かりも輝いていた。


そして、遠くからかすかに聞こえるカウントダウンの声とともに大きく花火が上がった。

冬に見る花火は夏に見た時よりもぼやけてしまっていたけれど、大切な人と共に見られた花火はやっぱり綺麗に輝いていた。


「明けましておめでとう。今年もよろしくお願いします」


笑顔で伝えた私に、要くんも繋いでいた手にキュッと力を込めてから言った。


「明けましておめでとう。今年も、この先もずっとよろしく」


そんな言葉を言った要くんは晴れやかな顔をしていた。


私たちのやり取りを御両親は優しく見守ってくれていた。


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