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眩しさの中、最初で最後の恋をした。  作者: 織原深雪


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十二月、初旬にはいつも通り期末テストがあり今回もノートは作って三人に渡したが受験モードもあり個別で勉強することになった。

私と受験の結果合格した要くんは放課後一緒に勉強することもあったけれど、日菜子と蒼くんは個別で頑張っていたみたい。


初めてのデートで買ってきた学業のお守りをふたりは喜んでくれて、お守りはふたりの通学バックにしっかりついている。


テストが終わると寒さも相まって、校内は少し静かになっていく。

そろそろ冬休みで、クリスマスが近づいていた。


「要くん、クリスマスなにか欲しいものある?」


サプライズとかは上手く行きそうになくて、私は本人に聞いてみた。

出来ることや買える範囲は限られるけれど、その中でも要くんが欲しいものをあげたいと思ったから。


「んー。あ、ニット帽がこの間ダメになっちゃって新しいのが欲しいと思ってたんだ」


この間休日の勉強会の時被ってきてた紺色のニット帽。

あれがダメになってしまったのか……。


「そっか。色はやっぱり紺がいいの?」

「黒とかグレーでも良いかな。もし負担じゃなければ有紗に作って欲しいんだけど」


その言葉にビックリして要くんを見上げる。


「有紗が編み物してるの去年見かけてて、貰ってた日菜子が少し羨ましかったんだ」


確かに去年、日菜子にはマフラーを編んであげていた。


「手編みでいいの?」


手編みは重いって聞いてたから、まさか欲しいと言われるとは思ってなかった。


「うん。だって編んでる間ってあげる相手を考えたりするだろ?」

「そうね、そうかも」

「それって会ってない時も自分のこと考えてもらえて、しかも手作りの物が貰えるって好きな相手からなら最高だと思う」


その考え方がなんだか要くんらしくて、私はニッコリ笑って答えた。


「分かった! それならプレゼント頑張って作るね」

「楽しみにしてる。俺もちゃんと有紗に用意するから。イブの昼間はデートしよう」


私達はクリスマスの約束をした。

周りは受験で大変な中なので、内緒話のように小声で話して決めたこと。


すこしこそばゆいけれど、とっても楽しみになった。


しかし、このプレゼントを作る作業で私は悲しいけれど自身の症状をはっきりと自覚することになった。


前から言われていたこと、それでも最近が幸せいっぱいで、だからこそ忘れてたんだ。

私に切られた期限がもうかなり少ないんだってこと。


自宅で編み物をしていると、ちょこちょこ目が霞み、見えづらくなっていた。

疲れ目かななんて思っていたけれど、はたと気付く。


これは自分の病気の症状がしっかり進行しているんだってことに。

そして一気に不安が押し寄せてきた。

私はあとどれだけ周りを、彼を見ていられるだろうと。


私の症状に病名がついたのは、小学二年生のときだった。

急に下がった視力、さらにピントが合わせづらくなったので行った眼科で精密検査を受けて分かった。


【優性遺伝性視神経萎縮】


この病気はゆっくりと進行し、私ぐらいの年齢で判明すると10年後ぐらいに失明する。

原因も分からず治療法も無い。

難病指定に入る病気だった。


小学二年生でもこの病気は最終的に目が見えなくなると聞いて、どうすればいいのだろうと思った。

小学校の高学年になる頃には、いつ見えなくなるのか不安は尽きなかった。

中学生になる頃、やっとこの先の現実を受け止めて決めた。

私は恋なんてしない。

目が見えなくなる私は、その生活に慣れるまで迷惑ばかりかけるようになるだろう。


だから、とにかくその前に見たいものやりたい事は必ず挑戦してやってみようと決めた。


八歳で診断を受けた私も、およそ十年後には失明するだろうと言われていた。

その通りに、ゆっくりゆっくりと視力は低下し続け、ピントが合わず視界はぼやけていく。

なんとかコンタクトなどで補正して日々の生活を送っていた。


失明するだろうと言われた歳になる、高三の春。

まさか私が恋をする相手に出会うなんて思ってなかった。


でも、私にはずっと知ってから見つめる要くんは眩しくて輝いていた。

それは自分にとって相手が特別だからなんだと今ならわかる。


だから、私はその溢れてくる気持ちに逆らえず決めていたことを覆すことになった。


恋をしない。


そんな事、特別な人に出会ってしまえば無意味だった。

文化祭での告白も、初めてのデートもとっても楽しくて幸せで、だから気づくのが遅れたのかな……。

私の視力低下はまた進んだ。

手元に視線を合わせるのも短時間で疲れやすくなるほどに。


それでも、私が送れる最後の手作りのものになるかもしれないと思えば、休み休み、頑張って丁寧に編んでいった。

喜んでくれるかな、気に入ってくれるかな。

似合うといいな。


そんな気持ちで編んだ帽子は今までより時間はかかったけれど、とってもいい出来に仕上がった。

それにクリスマスのカードをつける。


そしてプレゼント用に包装して、準備をした。


それが終わる頃に私の覚悟も決まった。

私の病気のこと、もう少ししたらきっと目が見えなくなってしまうことを要くんに話そうと決めた。

それで、要くんが離れてしまうことになってもここまで過ごした日々が私を支えてくれると思えるから。


それくらい短くも濃く過ごしてきたと思う。

ドキドキとする胸を抱えて、私は終業式でクリスマスイブの今日プレゼントを持って学校へと向かった。

終業式が済んだら夕方までデートの予定だ。


話す時間はあるだろう。

話が済むまで、この緊張を抱えるだろう事に少し息を吐きつつ、頬をはたいて気合を入れたのだった。


終業式の学校はクリスマスイブも相まって、とっても賑やかな雰囲気だ。

その雰囲気は下級生に多く、受験生の三年生はキリキリとした雰囲気もある。

この冬休みが受験のラストスパートだから、みんな必死だ。

そんな中、今日デートの私達が異質なのだろう。

それもこれも、受験が無事に済んでる要くんが相手だからだと思うけど。


「おはよう、日菜子」


下駄箱で日菜子を見かけて声をかける。

振り返った日菜子の手には単語帳。


「おはよう、有紗。あー、もうそろそろ私の頭パンクしそう!」

部活を引退してから頑張って勉強を始めた日菜子は今学期の期末テストでは順位を大幅に上げて、模試でも志望校はB判定まで上がった。

この年末は塾と模試三昧だと言っていたので、少しやつれてるのは仕方ないだろう。


「日菜子、あと少しだからファイト!」


私は励ますと、日菜子も笑顔を見せてくれた。


「うん。やりたい事は見えてきたから頑張る」


その前向きな姿はやっぱり眩しくて、少し羨ましかった。

私は黙っているけれど症状のこともあって、進学は見送ることにした。

3ヶ月毎の定期検診で今年に入ってからは視力低下の進みが早いから、ストレートでの進学を諦めた。


やりたい事の中に大学に行くこともあったので、頑張って勉強して実は大検を取っているし、このまま症状がなんとかなれば高校を卒業出来るので問題ない。

落ち着いてから受験しようと思っている。




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