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眩しさの中、最初で最後の恋をした。  作者: 織原深雪


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6


「今回のミスターはダントツで松島くんでした。

受賞した感想を聞きましょう!」


「松島くんおめでとうございます! 今年のミスターに選ばれました! いかがですか?」


その問いに、要くんは至極まじめに答えた。


「みんな、投票してくれてありがとう。あとはミスの結果待ち。みんな分かってたんだろ? ありがとう」


フワッと笑った要くんに一気に会場の温度が上がる!

私はドキドキしてキャンプファイヤーとは違った熱で顔を赤くする。


「要、やるな!」

「ま、松島くんはこんな感じよね」


隣の女子二人は嫌に冷静だけれど、そろそろミスも発表だよ、日菜子。


私の気持ちはありありと顔に出てたらしく、私を見て日菜子はクスクスと笑った。


「有紗、大丈夫! あんたの方もバッチリ組織票動いてるはずだから」


親指をグッと立てて、実にいい笑顔で日菜子が言うので私は脱力してしまう。


「有紗。私と日菜子が組んでてことが上手く運ばないわけないでしょ?」


策士というか、地味に人脈の広いふたりなので私はなんだか胸がムズムズしつつ答えた。


「ふたりとも不思議なほど人脈が広いもんね……。分かってるよ……」


そんな苦笑いする私を、ポンと肩を叩いて茜はステージへと送り出してくれた。

隣にはもちろん同じくエントリーしている日菜子。


しかし、その顔は実に晴れ晴れとしており私とは対照的だった。


ミスにエントリーしたのは私と日菜子、それに前生徒会副会長の前田さん。


「瀬名さんそちらの首尾は?」

「もちろん抜かりないわよ。そっちはどう?」

「こちらも上々です。これで問題なく実現しそうですね」


並んだふたりはなにやら頷き合いつつ話しているので首をかしげて見つめると、前田さんが話してくれた。


「ふふふ。相変わらず可愛らしいですね、汐月さん。私は実は見守り隊の隊長ですから。この度のコンテスト、組織票動かすべく徹底的に動きました。抜かりありません」


キラっと輝く銀縁メガネの知的女史な前田さんが!

あの真面目で落ち着いた大人なイメージの前田さんが!!


ガラガラとイメージが音を立てて崩れていくのを感じた……。


「そうだったの……」


ビックリしすぎて一言しか返せなかった。

しかし、前田さんは私のそんな反応は気にしてなかった。


「ふふ、我々見守り隊はこのコンテストでおふたりが並ぶのを見たい! そのためにありとあらゆるツテを駆使しました!」


あぁ……、副会長はどちらかと言うと漫研の気質だったんだね。

納得……。


そして、周りが落ち着いた頃。

再び司会役の実行委員が話し出す。


「それでは、これから今回のミスの結果発表を行います!」


会場はまた一気にテンションを上げて行った。


「今年のミスは! みんな、分かるかな?」


「きゃー! お姉さま方! キレイ!」

「可愛い! 可愛すぎる!」


あれ? 男子より女子の声が大きいぞ?


不思議な顔をしている私に、日菜子が隣からそっと教えてくれた。


「あんた、実は下級生女子にも大人気なのよ。分け隔てなく優しくしてるし、うちの部には大量のクッキー差し入れたりしてくれたでしょ? 困ってる子には声をかけたりしてるから、結構ファンが多いのよ」


知らなかった。

困ってる子を見るとほっとけなくて、声を掛けたりはしてた。

私に出来ることなら解決してあげることもしばしばあった。


まさか、こんな感じになってるとは思わなかったけれど。


「だから、じれじれなふたりをくっつけたいんだ! このチャンスに! と言えば下級生達はこぞって汐月さんと松島くんに投票してくれたわ。実に、やりやすかったわ」


副会長、めっちゃ動いてたんですね……。

メガネがキラっと光ってます……。


「それでは、結果を発表します! 今年度のミスは汐月有紗さんです!」


「汐月さん、ミスターの隣に来てください」


こうして、盛大に周りが動いた結果。

私と要くんは、このコンテストで並ぶ結果になった。


要くんの隣に行けば、要くんはにっこり笑うと委員から預かったのかミスに付けるおもちゃのティアラを私の頭にのせてくれた。


ティアラをのせてもらうと、周りもワーッと湧いてきてテンションが高い。


「おめでとうございます!」

「お似合いだよ!」


という声掛けから、男子の要くんへのヤジが飛ぶ。


「ここまでやったんだ、しっかりやれよ!」

「頑張れ、松島!」

「たく、憧れのマドンナはイケメンがかっさらうのがお約束かよ!」


言葉強めであっても、それを言ってくる顔は明るくて僻みではなく応援なのがわかる。


私たちは顔を見合わせて笑いあった。


「この後、話す時間をくれる?」

「大丈夫。ちゃんと聞くよ」


この後周りからいっせいにフラッシュをたかれながら写真を撮られたのだった。


発表が落ち着くと、恒例のフォークダンス。


私たちは少し離れた場所から見ながら話を始めた。


「私ね、ずっと恋はしない。しちゃいけないと思ってきたの」


この私の言葉はいきなりで唐突。

少し面食らった顔をしつつ、要くんは続きを促す。


「うん、それで?」


「それには私にとって重要な事が絡んでくるんだけれど、それはまだ上手く説明できる自信が無いの……」


一度言葉を切って、俯いていた顔を上げて要くんを見て言葉を続ける。


「ただ、さっき出来ることが出来なくなったり、出来ない事が出来たりするようになるものだろって要くんの言葉が私に響いたの。目からウロコだった」



「だからね、私考えを改めたの。出来ないことがこれから増えるとしても、それは頑張ればまた出来るようになるかもしれないって。それなら恋もしてもいいんじゃないかって……」


そこまで話すと、要くんは少し緊張した面持ちで聞いてきた。


「それは、いいと思う。出来たらその相手は俺であれば嬉しいけれど……」


要くんは少し、自信なさげに言う。


「私、この春から過ごしてきて少しずつ要くんを知って。知っていくうちにどんどん気持ちが大きくなっていったの……」


私は要くんを見つめて、その手に私から初めて触れた。


「私、恋をしないって決めてたのに気付けば要くんに初めての恋をしていたの。要くんが好き」


私の言葉を聞くやいなや、重ねていた手を握り返されて腕を引かれる。


「俺も、有紗が好きだよ。どんな有紗でも好きだ。俺の彼女になって、俺と付き合って欲しい」


胸に抱きしめられて、そんな真っ直ぐな思いの詰まった声を聞く。


知らずしらず、私の頬には涙が伝い、頬を濡らす。


「泣くなよ」


私の涙に気づいた要くんが柔らかく言う。


「嬉し泣きだからいいでしょ? こちらこそよろしくお願いします」


こうして、私は自分に不安を抱えつつも初めて好きになった人とお付き合いをすることになった。



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