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眩しさの中、最初で最後の恋をした。  作者: 織原深雪


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13/42


茜は、どこに入れてたの? と言いたくなる程の物を出してくる。


コテに、メイク道具、鏡に櫛、ゴムにヘアピン。

学校のカバンに何を入れているのだ? とはなはだ疑問だが、それらを器用に駆使して私は普段のストレートの髪型からゆるふわカールのハーフアップスタイルに髪型を変えられた。

さらに、日焼け止めとリップクリームしか塗ってなかった私にうっすらだがナチュラルメイクをしていく。


そう、茜はとっても器用でご両親の美容室でも手伝いをしていたりする。

進路も既に美容短大で、学校推薦が決まっていた。

将来御両親と同じく、美容師を目指しているのだ。


そうして、鏡を見れば自分でするより可愛く仕上がった自分がいた。


「茜は、本当に器用だね」

「ま、あの両親の娘だからね」


私の髪は小さな頃から茜のお母さんが切ってくれてる。

茜のご両親もまた事情を知る方達で、親切にしてくれている。


「あ! 焼きあがった」


オーブンから音がして、綺麗に焼けたマドレーヌとパウンドケーキが顔を出す。


マドレーヌはプレーンとココア味。

パウンドケーキはチョコチップとアーモンド、バナナ、抹茶の3つ焼いた。


少し冷ましてから、切り分けてマドレーヌも添えるとアイスティーを取り出してお茶にする。


「ん! 今日も美味しい!」


顔をほころばせて美味しそうに食べる、茜に続いて私も食べる。


「今日のも成功ね! これなら3人に持ってけるわ」


そうして、残りを三人に小分けに詰める。

それでも余ったのは、二人で持ち帰り用に詰めた。

今日の勉強の時間にでも、つまみながら食べようと思う。


三人に詰めた物を、手提げに入れて調理室の片付けを終えて締める。


この時間ならサッカー部もテニス部も校庭だろう。


茜と職員室に鍵を返しに行って、昇降口で靴に履き替えて私は校庭へと足を向けた。


「じゃあ茜、またね!」


「うん、気を付けてね」


別れて、歩く午後の日差しもだいぶきつくなってきた。

どんどん夏らしくなっていく。

ついこの間この通りの木はピンクの花びらを咲かせていたのに、今は緑の葉を茂らせている。


木の上から、セミの鳴き声がしてきた。


「思いっきり夏って感じになったね」


思わず見上げて聞き入って、また歩こうと視線を先に向ければ元気よく走り回るサッカー部の練習風景が見えてきた。


「あんなに早く走り回るんだね、お腹減るわけだ」


フェンス越しに眺めていると、キーパーの水木くんが気付く。


「有紗ちゃん! 珍しいね、どうしたの?」


その声にそこにいたサッカー部の面々がこちらを見て騒ぎ出す。


「あぁ!! マドンナが! マドンナが何故ここに!?」

「しかも、部長と仲良さそう! 部長彼女いるのに!?」


そんな叫びが上がる中、また一人こちらに駆け寄ってくる。

松島くんだ。


「有紗、どうした?」


その顔には、汗が浮かびTシャツをめくって顔を拭いてる。


綺麗に割れた腹筋が見えて、色々とドキドキさせられる。


「今日、久しぶりの部活で沢山お菓子を作ったから差し入れに。松島くんと水木くんの分しかないんだけど……」


2人に詰めたお菓子の袋を手渡す。すると、とってもいい笑顔でお礼を言ってくれた。


「有紗ちゃん、ありがとう! お腹すいてきてたからありがたくいただくよ!」


「有紗、ありがとう。助かる」


微笑む二人に私もニッコリ笑って言う。


「いいえ! 練習頑張ってね! 私、あと日菜子に持ってくから。また、来週!」


そして、無事に二人に渡すと私は今度はテニスコートに向かって歩き出した。

日菜子のテニス部はクラブ棟の裏にテニスコートがあり、そちらで練習している。


校庭からは近い。


そちらを覗くと、日菜子が指示出しして、ラリーを始めたところだった。

見守っていると、気づいた日菜子が寄ってきた。


「有紗! ここに来るの珍しいね、どうしたの?」


寄ってきた日菜子に、ニッコリ笑っていう。


「ほら、お待ちかねのマドレーヌとパウンドケーキよ!」


「キャー、有紗! 愛してる!」


「現金な」


笑い合いながらお菓子を渡すと、日菜子はとっても喜んでその場でマドレーヌを口へと運ぶと幸せそうな顔をした。


「あー。幸せ! 美味しい!」


「それにしても、その髪型とメイクの犯人は、茜ちゃんね?」


日菜子と茜も面識がある。

私達は去年同じクラスだったのだ。

今年茜だけ別クラスになってしまったのが残念だ。


「うん、松島くんと水木くんにも同じの持ってったんだけど。そこに行くって言ったら、いじり出しちゃって……」


苦笑いして返すと、日菜子はニコッと笑いながら言った。


「ま、茜ちゃんは人にヘアメイクするのが大好きだから仕方ないね。しかし、その可愛さは要にはかなりキタだろうよ」


なにか分かりにくいことを言った日菜子だが、説明する気は無いみたいだ。


「もう帰るの?」


「うん。日菜子、練習頑張ってね!」


「ありがとう! 有紗、気を付けて帰るんだよ!」


無事に今日のお菓子を渡して、私は帰るべく駅へと向かってのんびりと歩き出した。


駅から電車に乗って、電車を降りればバスに乗り換え家へと向かう。


出たり入ったりで暑さと快適さを交互に味わう。


今年の夏はなにをしよう。


花火を見に行きたいし、海かプールも良いな。

テーマパークも行ってみたいし。

なにかしらしたいな。

日菜子や松島くん達の引退試合も応援に行こうか。


そんなことを考えて、自然と緩んだ顔になりつつ私は帰宅したのだった。


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