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眩しさの中、最初で最後の恋をした。  作者: 織原深雪


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12/42

夏 君の眩しい姿を焼きつける



抗えない、気持ちは


近くなる距離とともに


大きく、暖かく育つ……。



日々強くなる気持ちに


心は複雑に揺れる……。


愛しさは隠せるのだろうか……




梅雨の明ける頃……。


私以外の三人は再び頭を抱えていた。


夏休み前、期末テストの時期である。

今回は期末ゆえ、範囲も教科も多い。

テスト期間は長く、容赦のない範囲と教科数に三人は根を上げていた。


「振り返っても分かんない! 解ける気がしない! 終わった……、今回は終わったぁ!!」


日菜子は大きく叫んで頭を抱えこむと、机に突っ伏した。


「日菜子! お前もか!? 仲間だな! でも、次が引退試合だろ?! 赤点なんて取ってらんねぇよ……」


叫びながらも、顔には悲壮感漂う蒼くん。


「日本から出る事ないのに、英語の授業のある意味が分からない!!」


最後はこの中では一番マシだけど、英語が壊滅的な要くん。


嘆く三人を見つつ、私はそっと息を吐き出す。

ちなみに三人は嘆いているが、このテスト範囲は酷ではないし、ちゃんと勉強すれば大丈夫だと思われる。


しかし、ここにいる三人は部活命の三人なのだ…。

普段の放課後はサッカーの練習を、日菜子はテニスをしている。


運動が中心の生活なのだ、しかも引退前。

今は練習に時間をさきたいだろう……。


私はこんなこともあろうと、用意していた物をカバンから取り出した。


「はい、これ期末テスト対策用ノート。主要科目は網羅してるから。頑張れ!」


鞄から取り出したのは、私自身の復習を兼ねてテスト範囲をまとめた各教科のノートだった。


それを見せると日菜子と蒼くんは目を輝かせ、要くんも英語の範囲を見ようとしていた。


「有紗! ありがとう! もう、有紗神様!!」


日菜子が大げさに喜ぶので、苦笑してしまう。


「そんな大げさに喜ばなくて大丈夫。これは私がテスト前に復習に使った物なだけだから」


にっこり笑って言うと、三人は目を丸くしてしまう。


「有紗ちゃん、テスト前にってこのノート分は勉強が済んでいるってこと?」


蒼くんがびっくりしながら聞くので、なんでだろうと首を傾げながらも答える。


「うん。そもそも授業を聞いて日々復習してれば、テスト前にそんなに慌てないよね?」


私としては日々そんな過ごし方だから、テスト前に慌てることがない。

しかし、そんな私の過ごし方は三人にはあまり当たり前ではなかったようで……。


「ごめん、俺ら運動バカの集まりだから。有紗みたいには出来なくて、テスト前はこうなる……」


視線を斜め下に逸らしながら、要くんが言う。


「有紗みたいにしてれば良いんだろうけど、部活後ってお腹すいて、食べたら眠くなるのよ」


「うん、俺ら身体に正直に生きてるから。こうして頭使う時に苦労するんだよな」


と日菜子と蒼くんは遠い目をしつつ、自身の生活ぶりを語る。


運動部ってエネルギー使うだろうし、仕方ないよなと思う。

だからこそ、私は今回も出来る範囲で三人を助けるつもりでいた。

その一つが、この復習でまとめたノートだった。


「とりあえず、これ見れば少しはマシになる、はず? 分からなかったら聞いていいよ」


伝えると、三人はとても嬉しそうな顔をして言った。


「今回もテスト期間一緒に勉強しよ!」


「いや、してください!!」


「頼む」


三人ともわかりやすいくらい頼ってくれる。


こんな時勉強してて良かったなと思えた。


「うん、いいよ。部活禁止期間になったら今回も放課後図書室で勉強会ね!」


ニコニコと言った。


「有紗の勉強会……」


「笑顔でスパルタ……、ゲフンゲフン……」


「あぁ、頼むな」


今回は範囲も広いし教科も多い。

頑張って教えないとね。

私がやる気になっていると、三人は少し遠い目をしていた。


そうして、梅雨も早めに明けた七月上旬あっという間にテスト期間に突入した。


今回もテスト前日まで図書室で下校時刻まで勉強会をした。

もちろん、赤点回避は必須なので容赦ない勉強会になったのは言うまでもない。

楽しい夏休みと、しっかり引退試合に出るため、三人も必死だった。


迎えた、期末テスト一日目。


英語、現代文、選択科目


2教科を受けて、次は選択科目の教室でのテストなので移動だ。


「有紗! 英語も現代文のテストも全部書けた! ありがと、有紗のおかげだよ」


移動前に弾んだ声で日菜子が声を掛けてきた。

その顔はとっても嬉しそう。

テスト期間にこんな表情の日菜子はめずらしい。


「日菜子がそんなにいい表情してるなら、今日のテストの出来はきっといいよ! 今日残り1教科頑張ろうね!」


一日目はこんな感じで過ぎていき、二日目、最終日も日菜子も蒼くんも要くんも皆今回もいい手応えでテスト期間を終えた。


テスト期間が終われば部活動も解禁。

今日から三人は部活に行った。

私も久しぶりに家庭科部の活動へ。

もともと私の部活は週一の活動だ。

今日はマドレーヌとパウンドケーキを作る予定。

出来たら三人に届けてから帰るつもりだ。


「茜、久しぶり!」

「有紗! 今回も有紗はトップ争いしてるかな?」

「それは結果が出るまで分からないわ」

苦笑いしつつ、私たちは家庭科室に入る。

今朝、買い出ししてここの冷蔵庫に材料は入れてあるので、さっそくお菓子作りに取り掛かる。


「ねぇ、水木くんと瀬名さんがお付き合いしてて、有紗と松島くんが付き合いだしたって、ホント?」


ニヤニヤして聞いてくるので、私は渋い顔をして答えた。


「私が誰とも付き合う気がないのを知ってる癖に、そういうこと聞く?」


そう返せば、茜もここぞと言ってくる。


「だって、水木くん瀬名さんカップルと松島くん有紗で出かけて、松島くんと有紗が手をつないで歩いてたなんて目撃情報がはいったもんだからさ」


ボウルで卵を混ぜながら言う茜。

私も粉を振るいながら、返す。


「確かに日菜子達と出掛けたけど、カップルのデートに巻き込まれただけよ? なにかあった訳じゃないもの」


この返しに神経を使ったのは言うまでもない。

なにもなかった訳じゃない……。

ハッキリとは言葉にされなかったけれど、松島くんにはにおわされた。

私が避けつづけてること……。


「でもさ、今日のお菓子三人に持ってくんでしょう?」

「お腹すくって言ってたし、持ってくつもりだよ。どうせ私と茜だけで食べきれないじゃない」


そんな私の言葉を待ってたのか、茜は実にいい笑顔で言った。


「だよね! ならばこの茜さんに任せなさい! 可愛くしてあげるから!」


口を動かしながらも手もしっかり動かしてた私たちは、すでに型に入れてオーブンに入れて焼き上がりを待つばかり。


こうして、逃げ場のない私は茜に捕獲されていじられるのだった。




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