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再会

「そっち行ったぞ。」


 動きやすさに特化した武装を身につけた赤髪をした少年の声が雲ひとつない青空の下、見晴らしのいい草原に響きわたる。

 その草原では現在、4人の冒険者と大トカゲ型モンスター、地を這う蜥蜴(ボードアイデンクス)が死闘を繰り広げていた。


「任せとけ。」


 フルプレートとまではいかないが、体の大部分を重装備で固めた男が自分よりも数倍も大きい地を這う蜥蜴(ボードアイデンクス)の突進を全身で受け止める。ドスッ、と鈍い衝撃音がする。

 そのまま重装備の男は、飛ばされまいと土を抉りながら数メートル後方まで押し返される。


「今だ、やれ。」


 それを合図に重装備の男の後方にいた長いブロンドの髪をした女はおもむろに地を這う蜥蜴(ボードアイデンクス)に手をかざす。


穿つ閃光の刃(ライトニングダガー)


 彼女の手から10センチ程離れた空中に複数の鋭利な光の結晶が現れ、光のごとき速さで地を這う蜥蜴(ボードアイデンクス)の眉間に突き刺さる。


「ヴォウガァァァ」


 地を這う蜥蜴(ボードアイデンクス)は悲鳴と共に前足を宙に浮かせながら、体を大きくのけぞらせる。

 それを待っていたかのように赤髪の男は地を這う蜥蜴(ボードアイデンクス)の下に素早く潜り込み、構えられた剣を首を切り落とすように振り上げる。


 ザシュッ、と生々しい音と共に地を這う蜥蜴(ボードアイデンクス)の首は完全に胴体と離れ、血を撒き散らしながら宙を舞う。

 赤髪の男は返り血を浴びるも、気を抜くこともなく真剣な表情を崩さない。

 ドスッと首が落ちたことを確認すると、ようやく4人は少し安堵した表情になる。


「あ、すいません。今すぐ回復しますね。」


 戦闘に参加しなかった小柄な青い髪をした女は慌てて重装備の男に治癒魔法(ヒール)、返り血で汚れた赤髪の男に浄化魔法(プリフィケーション)をかける。


「サンキュ。しかし、ようやくこのレベルのモンスターを無傷で倒せるようになったな。」

「俺は無傷じゃないんだが。」

「おお、わりぃわりぃ。タンクは傷ついてなんぼだから考えてなかったわ。」

「ひっでぇいいようだな。」


 2人の男たちは声を出して笑う。悪態をついているのではなく、これが彼らなりのコミュニケーションなのだ。

 つられて女たちも笑みをこぼす。

 4にんの笑みは先程まで死地に立たされていたとは思えないほど穏やかなものだった。

 そんな幸せそうな光景はだんだん眩しい光に包まれ、やがて真っ白な世界へと消えていった。


------------------------


 小さな格子状の窓からこぼれる南に昇った太陽の日差しがギルニクスを夢の世界から現実へと帰還させる。


(夢、か…)


 簡易ベッドの上で上半身を起こし、しばらくぼんやりする。

 この手の夢は冒険者を辞めた頃はよく見たが、最近だとかなり久々な気がする。

(疲れてるのか…)


 重たい体を起こし外出の準備を始める。

 目的は、酒場で提供する食事用の食料、及び、なくなりかけている酒の調達である。

 メント内でも外れに位置する酒場"英雄"付近では食料やメジャーな酒を買うことはできるが、珍しい酒になると徒歩40分ほどの活気のある市場の近くまで出向かなくてはならない。そして今日の目的である酒はまさにそれだ。


(めんどくせぇ。とはいえ、今日いかないとそろそろきれるしな。)


 体も重いが心も重い。それでも生活がかかっているから仕方がない。

 着替えを終えると倦怠感を抱えながら自室のある2階を後にし、酒場となっている1階に降りた。

 カウンターの裏には普段使わない物置があり、その中にはボトルキャリアが置いてある。近場への買い物では使うことはないが、遠出して酒を買う時は瓶の破損を心配して使っている。

 物置を開き、ボトルキャリアを探していると鞘に収まった1本の剣と目が合う。


 ―魔剣〈グラム〉

 使ってみると魔剣の魔の字すら感じさせない普通の剣だが先祖代々受け継がれた剣。そして、俺の相棒()()()

 他の冒険用の物品は全て売り払うか捨てたが、こいつだけは処理できずに持て余している。結局物置にしまい触れることなく1年以上保管しているのだから持ち腐れでしかない。

 感傷に浸りそうになる思いを強引に引き剥がし、目的のボトルキャリアを探す。


(あったあった。というかあいつもっと奥にしまったと思うんだけどな。)


 ボトルキャリアを手にしながら、少し強めに物置の扉を閉める。


 ボトルキャリアと必要最低限の荷物を持つと、扉を開け店の外に出た。

 ちょうど真上にきている太陽の日差しに眩しさを感じ、思わず腕で目を覆う。

 辺りは昼間ということもあり、町の外れとはいえそれなりに人もいる。そのほとんどは名前は知らずともなんとなく面識があった。


「あら、またこんな時間に起きて買い物かい。」

「仕事柄昼まで寝ないと体もたないからな。そういうおばさんも今買い物じゃん。」

「私は朝は家族にご飯作ってやったり、洗濯物したりで忙しいのよ。」

「ご苦労様。それじゃ、中央市場まで出るから、また。」


「おい、坊主。今日は新鮮な羊肉が入ったぞ。」

「わりぃ、今日はいいわ。また明日にでも頼む。」

「おいおいおい、まさか他の肉屋に浮気しようってんじゃないだろうな。」

「ここより安い店ができるまではキープしとくよ。」

「ガハハッ。言うじゃねえか。」


 店の近くでは、知人にすれ違うたびに数度会話を交わし、別れるを繰り返す。しかし、中央に近づくにつれ人や活気は増していくが知人は減っていく。

 ついには会話をすることもなくなり、人混みの中1人黙々と目的地に向かう。


 中央市場に着く頃には自分のペースで歩くことが不可能なほど人でごった返していた。

 人混みをかわしながら進んでいくことも可能だったが、急いでるわけでもないので流れに身を任せながら目的地まで進んでいく。


「い、いました。」


 突如すぐ後ろの方から男の子の声が聞こえてくる。人がごった返した喧騒の中だというのにその声は実によく響く。

 反射的に後ろを振り返るとどこかで見た事あるような10代前半くらいの男の子が立っている。それだけなら気にも止めないのだが、その男の子とバッチリ目が合っている。


(どうやら「いた」ってのは俺の事らしいな…)


 となればどうするか。逃げるしかない。

 見に覚えがないとはいえ、自分の知らないうちに何かしでかしたのかもしれない。

 咄嗟に人混みを縫うようにして走り出す。後ろからあっ、と小さい悲鳴が聞こえたが気にしない。


「待ってください。」

「待ちたまえ。」

「その程度では拙者からは逃げられまいて。」


 3人分の男の声。どうやら追っ手が増えたようだ。だが、数が増えようと関係ない。

 すぐ近くの路地裏に入る。表通りと違い建物の影のせいで視界が悪い。さらには、近くの店が投棄しているであろうゴミやらなんやらで足場も最悪。

 だが、それは彼らも同じ。むしろ相手の方が数が多い分狭い場所では不利となるだろう。


「待ってください。話がしたいんです。」


 先ほどの男の子の声が聞こえてくる。後ろを振り向くと2人の男が5メートルほど離れた場所から追いかけてきている。


(2人…気になるがまぁいい。)


 メントという都市は大きな円形をしいる。また、中心には領主の関係者しか立ち入れない区画があり、その付近では、露店などが禁止されている。

 「中央市場」とは、その区画から放射状に5本の大通りが伸びており、その大通りのメント中心側、かつ、露店が許されている一帯を指している。

 では、大通りと大通りはどのように移動するか。基本的には、中央に近づけば別の大通りへの整備された道があるので、それを利用しなければならない。路地裏などを介して別の大通りに行くには、道が迷路のように混在しているため土地勘がないと厳しいからだ。

 別の大通りに行くならまだ行けなくはない。だが、人を追いかけるなんて不可能に近い。

 とりあえず、右に左に手当たり次第に道を見つけては曲がる。次は見逃して、次は曲がる。


 逃走を初めて5分ほどが経過した。

(そろそろ撒いただろ。)

 後ろを見ると案の定誰もいない。

(しかし、なんで追いかけられたのか。女関係…とかではないはずだしな。)

 今いる場所も分からないので、再びまっすぐ歩き出そうと前を向き直す。すると先ほどまで誰もいなかったはずの場所に奴がいた。


「まずはお久しぶり、かしら。」


 そこいたのは先ほどの三人組ではない。

 長いブロンドの髪に、サファイアのような綺麗な碧眼。どこかのお嬢様を彷彿させるそんな少女。

 冒険者仲間「アリス・クロウリー」だった。


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