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暗躍

 ランタンにほんのり照らされた、王宮を彷彿させるような廊下をスーツ姿の男は歩いていた。


 その男の姿は人に酷似しているが、明らかに人のそれではない。というのも、頭身よりやや小さく禍々しさを放つコウモリのような翼、地に着くほどの長さのサソリのような尻尾、頭には牛の角のようなモノ。

 それらがなければ少し手足の長い細身で長身のメガネをかけた知的な好青年といった感じである。


 彼が歩くたびに、清閑とした廊下にコツンコツンと革靴の足音が反響する。とある扉の前まで着くと足を止め、扉の方へと体を向ける。そのまま扉に力を加えると、錆びついていたのかギギギィと不快な音を立てながら扉は開かれる。


 彼の目に映るのは豪華絢爛といった言葉がしっくりくる一室。天井からは立派なシャンデリアが垂れており、部屋を廊下よりやや明るく照らしている。壁は白を基調としたシンプルな作りとなっており、そのせいもあって落書きされている部分が悪目立ちしている。

 部屋の中央にはペイズリー柄に似た模様の高級感のある絨毯。その上には半径2メートルほどある立派な円卓。そしてその円卓を囲うように等間隔で置かれた6脚の椅子。その内の一つだけが空いており、残りの椅子には5人の人型をした、しかし、明らかに人とは違う何かが腰をかけている。


「集会には顔を出さなくていいと言いましたよね、サルワ。」


 スーツ姿の男は呆れたような、そして諦めたように言葉をこぼし、かけているメガネを正す。


「まあまあ。細かいことは気にしなくていいんじゃん、旦那。そんなことよりお土産とかないの。」


 テーブルに足をのっけ、扉から一番近い椅子に座る男ー『サルワ』

彼は首だけこちらに向けあっけらかんとした物言いで返す。

その外見は、身体中が所々赤黒いシミのついた白い布切れに包まれている。形こそ人間のそれであるが、布切れからはみ出した、赤黒い髪の毛や黄色い瞳から人間とは違う何かを感じさせる。


 そんな彼の発言にため息をこぼす。

 するとサルワの右隣に座る女ー『タロマティ』が申し訳なさそうに口を開く。


「申し訳ありませんアカ・マナフ様。せめて決められた場所に座るように言ったのですが…」


 そう言った彼女は柄の入った紫色のローブに身を包み、頭からは深々とフード、口元にはフェイスベールとほとんど素肌を見せない格好をしている。しかし、そんな格好にもかかわらず妙な妖艶さを醸し出している。


「気にする必要はありませんよタロマティ。彼のあのような行動こそ本来あるべき姿なのですから。」


 スーツ姿の男ー『アカ・マナフ』は呆れこそ感じるが、怒りは全く感じていなかった。なぜなら彼の行動に間違いなど微塵もないのだから。


「つーかよ、あんたに威厳が足んないんじゃないかアカ・マナフ。さっさと私に大悪魔連合(ダエーワ)幹部統括の地位を返せよ。」


 声の主は、扉から最も離れた椅子に座る昆虫とも人間とも言える容姿をした女ー『ドルジ』

 例えるならハエと人間のキメラといった感じ。顔やボディラインは人間に近い見た目をしているが、手足や頭に対になって生えている触覚は虫そのものである。


「立場もわきまえられない虫ケラが。」

「んだと根暗魔女。その汚ねぇ布切れひん剥いてやろうか。」

「この場にいることすら図々しいはずのハエ女がどうしてそうも大口を叩けるのでしょうね。」

「もういい、表出ろ。お前も私のコレクションに加えてやるよ。」

「はぁ、その辺にしておきなさい。タロマティ、ドルジ。」

「申し訳ありません。アカ・マナフ様。」

「ちっ。」


 二人をたしなめるアカ・マナフに深々と頭を下げるタロマティに対し、腕というよりは前足と呼ぶべきそれを組んで舌打ちをするドルジ。

 二人のこのようなやり取りは別段珍しくもない。


(組織内の関係改善も今後の課題の一つですかね。とは言え、我々のような存在が馴れ合うのも変な話ですが。)


「ねぇ、あかまなふぅ、もう帰ってもいい。お花に水あげないといけないのぉ。」

「ダメですよ姉さん。そもそも私たちが育てている植物は水も栄養も必要ないでしょう。申し訳ありません、アカ・マナフ様。」


 ドルジの右隣でつまらなそうに猫なで声を上げる見た目10歳くらいの赤い髪をした可愛らしい女の子ー『タルウィ』

 その右隣からそれを諌める見た目17、8歳くらいの長い白髪をした綺麗な顔立ちの美少女ー『ザリチェ』

 側から見ればどう見ても姉妹逆にしか見えない。


「暇なら遊びに行くかチビっ子。こないだ近くに面白い場所見つけたんだよ。」

「いくいく!!」

「ダメですよ姉さん、目を輝かせないでください。サルワ様もほどほどにしていただけると助かります。」


 彼らといい、いつの間にやら再度言い合いを始めているタロマティとドルジといい、相変わらず好き放題していますね。


 アカ・マナフは眉間を押さえ、何度目かのため息をつく。


(元々彼らを管理するということ自体無理があるのですが。とはいえ、()()()()の命である以上、やらないわけにもいくまい。)


「皆さんいいですか。」


 軽く手を2回叩き、思い思いに行動してる彼らを制止する。

 普通に考えればそんな発言一つで彼らが止まるわけはないが、彼らはピタリと静まる。

 アカ・マナフは立ったまま話を進める。


「三年前から出現した彼らによって、我々は今落ち目にあります。この状況を打破するために組織された大悪魔連合(ダエーワ)の最高幹部である我々がこのような体たらくでは種の存続に関わりますよ。」


「つっても、大悪魔連合(ダエーワ)として動いたのは私の一回だけじゃねぇか。」

「その一回も散々な結果であったみたいですけどね。」

「根暗魔女は黙ってろ。殺すぞ。」

「あらあら、"使者"とはいえ、人間ごときにやられる貴方に私がやられるとでも。」


「君たち、黙りなさい。」


 バツが悪そうに口を紡ぐタロマティと再び舌打ちをするドルジ。


「一度目の失敗は、貴方が何も考えず単独で動いてしまったことが原因でしょう。というわけで今回は、タロマティと私、アカ・マナフの2人が水面下で動いていました。すでに実行段階まで策を進めております。」


 ドルジとザリチェが驚きの表情を見せる。タロマティが平然としてるのは当然として、サルワとタルウィは心底どうでも良さそうにしている。


「ちょっと待てよ。どうして私らにだけ黙ってたんだよ。」

「そ、そうです。もしよろしければ理由をお聞かせください。」


 おもむろに椅子から立ち上がるドルジとザリチェ。

 それに対し、お腹すいたぁ、と空気の読めないことを言っているタルウィと暇そうに自分に巻かれている布切れをイジイジするサルワ。


(まぁ、概ね予想通りの反応ですね。タルウィの空腹事情までは予想できませんでしたが。)


「そうですね、理由をお話ししましょう。第一に、今回は策戦の実行まで漕ぎ着けることができるか不明瞭であったので、伏せておくことにしました。失敗すれば今後の指揮に影響を及ぼす可能性がありましたからね。」

「じゃあなんでこの魔女にだけ話が通ってんだ。」


 ドルジは心底不快そうにタロマティを見下ろす。ザリチェも何か言いたそうにしている。


「それは彼女の持つ力が必要であったというだけの事です。もしも他の誰かの力が必要であれば同様の扱いをしましたよ。」


 理解はしたが納得いかないという表情を浮かべ椅子に座るドルジ、そのようなお考えがあったとも知らず無礼な態度を取ってしまい申し訳ありません、と頭を下げるザリチェ。


「話を続けますね。第二に今回の策戦を知られれば反対が起こると踏んでいたからです。」


 どういうことだ、と眉をしかめるドルジとザリチェ。


「今回は我々が表に立つことはしません。これは彼らの力が未知数であるからです。ここ数年である程度の目星はついたものの、ここで事を急いて我らが出れば愚行となる恐れがあります。」

「言ってることは分かるが、納得いかねぇ。…ってなるのが分かってたってことか。しかも実行段階まできてるから今更反対しづらいってのもお前の考え通りなわけかよ。」

「お察しの通りです。破壊衝動の強い貴方には少々退屈かも知れませんからね。今回はあくまで彼らの正確な力量を測るのことが目的です。」

「私たちが表に出ないことは分かりました。では、一体誰が表に立って人間(かれら)の力量を調べるでしょうか。」


 全てを知っているからこそ薄い笑みを浮かべるタロマティ。

 未だ納得いかない表情を浮かべこちらを見るドルジ。

 どうでも良さそうに口に手を当て欠伸をするサルワ。

 膝に手を置き、綺麗な姿勢で椅子に座りながらこちらを見つめるザリチェ。

 いつの間にかサルワから奪った布切れであやとりをするタルウィ。


 アカ・マナフはそんな彼らを見ながら邪気を孕んだ笑みを浮かべ、こう答える。


人間(かれら)自身、ですよ。」


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