1-2 檻の中
気がつくと俺は檻に閉じ込められていた。
「は…………?」
思わず息が漏れる。
テディベアのような獣人についていった俺は森に入り、その住処であろう木材と藁で造られた住居がいくつかある集落にたどり着いた。
集落には同じような獣人がたくさんいて……
そのまま住居に招かれたかと思えば檻小屋に閉じ込められていた。
檻を隔てた先では俺を連れてきた獣人と、その両親だろうか、何を話してるかはわからないがまるで人間の家族のように和気藹々と談笑している。
「よお、新入りか?」
「!?」
突如背後から声をかけられて振り向く。
俺の理解できる言葉だ。
見ると檻の隅、ちょうど暗がりになっていたので最初は気づかなかったが金髪を立てたガラの悪い男が座っていた。
「俺はスパイク。三日ほど前に、あんたと同じようにベアタンに捕まった口さ」
スパイクと名乗る男は、見た感じ俺と同じくらいの歳に見えた。
「あ、どうも……。俺は赤羽当真。ベアタンって、あの獣人のことか?」
「アカバネトウマ?トウマでいいか?あんた、ベアタンを知らないのか?」
「ああ、ちょっと遠いところから来てな、この辺のことはよくわからないんだ」
違う世界から来たなんて言っても警戒されるだけだろうから、適当なことを言っておく。
「異国のもんか。確かに、見慣れねえ服装ではあるな。執事が着るような燕服のようにも見えるが。おそらくその身なりが奴らのお眼鏡に叶ったんだろうぜ」
俺は現実世界で死んだ時に着用していたスーツのまま転生してきていた。
「友好的だからホイホイ付いてきちまったんだが、奴ら俺たちのことを食うつもりか?」
「いや、ベアタンは肉食じゃねえ。ただ、奴らは俺たち人間をペットにする習性を持ってやがる」
ええ……。
ということは、俺はなにか、道端にいた野良猫のような扱いでここにいるってことか。
「なんてこった……スタートからとんでもない展開だ……」
「まあそう不安になるな。奴らだってせっかくのペットを殺したりはしねえさ。……機嫌を損ねねえ内はな」
スパイクと話していると、ベアタンの一匹が檻に近づいてきた。俺を連れてきた奴だった。
「おっと、飯の時間か。いいか、トウマ。今俺たちは奴らのペットだ。今は従順なフリをしとけ。いつか脱出のチャンスはある」
そんなスパイクの頼り甲斐のある言葉を聞き、俺は安心感を覚える。
いきなりモンスターに捕まったのは不幸だが、その先で同じ境遇の人間がいたのは不幸中の幸いと言えるだろう。
ベアタンによって檻の扉が開かれる。
「俺に続け、トウマ。なに、一時我慢するだけさ。こんなとこ隙を見てすぐに脱出してやる」
「………!ああ!」
そんな頼りになるスパイクの背中が、俺にはとても大きく見えた。