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2-5 強化魔法


「待ちやがれえええええ!」


 俺は草原を思いきり走り回っていた。

 ボーンロス鳥、見た目は鶏に似ているのだが恐ろしく脚が速い。


 いや、これは走っているというよりもはや跳躍である。


「トウマくーん。相手の落下地点を予測して先に回り込まないと」


 遠くからアルクレアがしきりにアドバイスをくれるが、全力で走っても回り込む前に奴は次の跳躍に移っている。間に合うわけがなかった。


 ボーンロス鳥はそのゴムのような脚を利用して跳躍を繰り返している。

 例えるならスーパーボールの最高点まで達するバウンドが延々と続いているようなものだ。

 しかも一回の跳躍で百メートルは進む。


 追いつけというのが無理だった。


「はぁ……はぁ……ヴォぇ……」

「だ、大丈夫?ちょっと休憩する?」


 ボーンロス鳥の生息する草原地帯に来てはや一時間、未だ一羽も討伐できず俺はこみ上げてくる胃酸と格闘していた。


「はぁ……こんなことなら弓とかの飛び道具にすべきだった……」

「だ、大丈夫だよトウマくん。日暮れまでまだ時間はあるから」


「でもよ……このままじゃ基本報酬のノルマ三羽も仕留められねえよ」

「うーん……麻痺系の魔法は対象の位置が遠いと効果発揮されないしなぁ……。……本当は使いたくなかったけど……」


「なにかあるのか?」


 アルクレアは悩ましげに唸ったあと、意を決したように


「絶対に無茶しないでね?……スピナル!」


 アルクレアが魔法を唱えると、俺の体がぼんやりとした青い光で包まれていく。


「お、おおお。これはまさか」

「トウマくんが数倍早く動ける強化魔法。でもこの魔法は……」


 アルクレアが言い終わるより早く、俺は動き出していた。


 なんだこれ!体が軽い!体の一挙一動が早送りした映像のように俊敏になった!なにこれ楽しい!


「うおおおおおおお!!」

「ちょ、トウマくーーーん!」


 まずは俺を散々弄んだボーンロス鳥に一直線。


 近づいてくる俺に気づいたボーンロス鳥は即座に跳ねるが、関係ない。今の俺は元の世界なら陸上競技の世界レコードを容易く塗り替えられるほどの速さを持っている。


 ボーンロス鳥が着地した地点には、すでに俺が待ち構えていた。


「ひとーつ!」


 満を持して振り下ろした銅の刃はボーンロス鳥の首を綺麗に刎ねる。

 頭部をなくした首からは血が噴射し胴体は痙攣を起こしやがて静かに倒れた。


 思ったよりグロいぞ。


 改めてこれがゲームではなくれっきとした現実であることを認識する。

 普段なら思わずたじろいでしまうであろう光景だが、強化魔法の未知な感覚にハイになっていた俺はすぐさま次の目標を探す。


そう離れていないところに二羽……。


「おらああああ!」


 今度は気づかれて跳ねられる前に一羽討伐。すごい。俺の足ってこんなに早く回るんだ。

そしてもう一羽はすでに跳ねていた。


「らあああああ!」


 俺も跳ねた。


 ある程度助走はつけたが、明らかに常人の域を超えた高さまで飛び跳ねることができた。

 そして空中で一振り。

 ボーンロス鳥の鮮血は雨となり地面に降り注いだ。


 相当な高さから着地したが、不思議と痛みはなかった。マンションの三階くらいの位置まで飛んだのに。これが魔法の力か……


「トウマくーん!」


 遠くからアルクレアが息を切らせながらこちらに走ってきた。


「おーう!あっという間に三羽だ!おかげさまで楽勝だぜ!」

「トウマくん!ヤバイ!ヤバイって!」


 ゼェゼェ息を切らせながら膝に手をつきアルクレアが言う。


「ああ!ヤベエなこの魔法。最高だ!水臭いじゃないか。こんな魔法出し惜しみしてたなんて」

「いや、そうじゃなくて!トウマくん、この魔法は……」


 アルクレアが言い終わる前に、俺を纏っていた青い光が消えていく。

 効果切れってことか。


「あ、効果切れそうだな。悪いけどもう一回かけてくれな…………」


 言いかけて、俺は言葉を紡ぐ事が出来なかった。


 身体中に猛烈な違和感を感じる。

 なんだこれ。


 脳の処理が追いつかず違和感の正体がつかめないが、よくない感覚であることは間違いなかった。


「ゔぉええ」


 俺は吐いた。


 なんの前触れもなくいきなり胃の中のもの全てが逆流し草原を汚した。


「あわわわ……」


 あわあわしているアルクレアを尻目に俺の膝は力なく折れ、抵抗する力もなく俺の頭は自らの吐瀉物に突っ込まれる。

 足から伝わる激痛、肺も痛い。というか息ができない。でもゲロはでる。ていうか窒息する。


「トウマくん、この魔法は早く動けるようになるけど、身体能力を高めるものではないの……」


 じゃあなにか。

 つまり魔法の効果で早く動けるようにはなるが、その動きの負荷に体がもつかどうかは別問題ってことか……。


 足から激痛の信号が脳に嫌という程送られてくる。

 顔面は吐瀉物に埋もれている。

 最悪な状況だ。


 あ、もうダメだ。意識飛ぶ。


「とうまくーーん!」


 アルクレアの叫びを最後に、俺の意識はプツリと途絶えた。

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