2-4 冒険者ギルド
「お、トウマァ!らしくなったじゃねえか」
昼間から呑んだくれているスパイクに茶化される。
装備を整えた俺は、アルクレアの案内で冒険者ギルドにやってきていた。
ギルドは酒場と併設されており、仲間との交流を深めているグループがそこかしこに見える。
「よお、スパイク。ってか、お前昼間っから呑んでんのか」
「当たり前よ。昨日は喧嘩で中断しちまったからな!これから飲み直しよ!お前も一杯どうだ?」
そう言ってこちらにジョッキを掲げてくる。
「スパイク!あんたまた調子乗るんじゃないよ!」
「全くだ。ベアタンに攫われたかと思ったらいつのまにか呑んだくれて拘留ときた。引受人の俺も情けない」
「ま、まあまあ二人とも。スパイクさんが無事に戻ってきてくれて良かったじゃないですか」
スパイクの周りには三人、あいつの仲間だろうか、席を囲んで食事を摂っていた。
活発そうな女性、ニヒルそうな男性、場を取りなそうとする優しい表情をした少年。
騒々しくもとても仲が良さそうで、少し羨ましく思う。
「昼間から飲む酒の美味さは分かるが、あいにく無一文でな。これから稼がなきゃならねーんだ」
「ははぁ、それでギルドにね」
そういうことだ。俺は食い扶持を稼ぐために、この冒険者ギルドにやってきた。
ギルドの目的は冒険者への仕事の斡旋だ。
ギルドは国家法人民間問わず依頼を集め、それを冒険者に回す。
ギルドは民営らしく、依頼主からの報酬の数割を運営費として中割りしているという。
「魔王云々の前にまずは金……っと」
掲示板に張り出された、無数の依頼書に目を通す。薬草の採取、旅路の護衛、盗品の奪還、大量発生したモンスターの討伐などなど、挙句は畑の作物の収穫手伝いとか建築物の補修の手伝いなんかもある。
冒険者ってのは何でも屋じみてるんだな。
「トウマくん、これこれ」
アルクレアが一つの依頼書を持ってきた。
「なになに、『魔猿デビルコングの討伐 報酬八十万ゼニス』クエスト難易度星六つ……」
「勇者の第一歩としてはまあまあの相手じゃないかな」
「却下!」
「ええ!?」
こいつ何考えてるんだ。こんなの相手にしたらワンパンで殺される自信があるぞ。
「俺は別に特別な力も持たない、ついこの間まで日本でサラリーマンやってた人間だぞ。いきなりこんなのに勝てるかよ」
「でも、勇者っていうくらいだから、トウマくん自身も気づいていないようなとてつもない力があるんじゃないの?」
「ねえよ。ていうか勇者じゃねえよ」
俺が勇者だなんて誰が言ったんだ。
あいつか?トルエノとかいう髭面の神か?
適当なこと言いやがって。
「まずはこの辺でいいだろ」
俺が手に取ったのはボーンロス鳥というモンスターの討伐クエストだった。
クエスト難易度を示す星の数は二つだ。
特別害をなすモンスターではないようだが、食用として重宝されているようで基本報酬は三羽討伐で五千ゼニス、その後は討伐数一羽につき千ゼニスの追加報酬がある歩合制だ。
「こんなのでいいの?確かに装備は整ってないけど」
「いいんだよ。まず、平和な日本でのんびり暮らしてた俺がモンスターの討伐なんてしたことないしな。体慣らしにこの辺りが妥当だろ」
「トウマくんのいた国って、そんなに平和だったの」
「ああ。よほどの悪事を働かないと死刑なんてならないし、高望みなんてしなければどうとでも生きていけるとこだったよ」
「このご時世にそんないい国があるんだねぇ。この街は比較的安全だけど、国によっては魔王軍の進行で一夜で皆殺しなんか珍しくないんだよ」
それはバイオレンスだな。
俺が元いた世界も国によっては悲惨なところもあるが。
……ていうか、俺はそんな一夜で国を滅ぼすような連中を倒そうとしてんのか。
ハードル高えな。
「……まあいいや。受注ってどこでするんだ?」
「あそこにいる受付のお姉さんに依頼書を持ってくの。トウマくんの場合は、まず冒険者登録からだけどね」
「登録って?」
「ギルドの依頼を受けられるのは登録された正規の冒険者だけなの。報酬としてお金を受け取るわけだし、身元がわからなかったりするのはよくないから」
そういうシステムは整ってるんだな。
カウンターには三つ、その窓口と思わしきものがありそれぞれ小綺麗なお姉さんが立っている。
なんとなく豊満な胸の露出が多いお姉さんのところに向かった。なんとなくだ。
「すみません、クエストを受けたいんですけど」
「はい、冒険者カードの提示をお願いします」
「初めてでして。登録から行いたいのですが」
「でしたら、こちらの記入をお願いします」
お姉さんから渡されたのはA5サイズほどの藁半紙だった。名前や住所を書くような欄がある。
現在住所不定の俺はとりあえず日本で住んでいた家の住所を書いてみた。
文字は俺のいた世界のどの国のものとも違うものだが、なぜか読み書きできる。
あのトルエノとかいう髭面ジジイが都合つけてくれたんだろう。
「お願いします」
「はい、ありがとうございます。アカバネトウマさんですね。ご住所は……聞いたことない土地ですね」
「身元は私が保証します」
「あら、アルクレアさんのお知り合いだったのね。でしたらこれで発行いたします」
アルクレアの助け舟によって手続きをクリアした俺に手渡されたのは、ちょうど免許証くらいのサイズの銅色のカードだった。
「最初はブロンズってとこか」
「はい。カードにはブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナと段階がありまして、達成したクエストの貢献度によってランクアップしていきます」
「ちなみに私はシルバーだよ。プラチナともなると、一国の英雄レベルの実力はないと持てないんだよ」
てことはゴールドでも相当な実力者ってことか。
ともあれ、これで準備は整った。
「じゃあ受付嬢さん、改めてクエストの受注をします」
「はい!『ボーンロス鳥の討伐』気をつけて行ってらっしゃいませ!」