第7話 隠しっこ無し
「少し、昔の話をしようか」
泣き止んで、少し落ち着いた様子の香菜を見て、俺は言葉を紡いだ。
「俺は昔、異常者って呼ばれていたんだ」
「異常者?」
「ああ、異常者だ」
昔の話を自分から誰かに話したことは、一度もない。少し、緊張する。心臓が動悸していて、少し息苦しさを感じる。
「俺は、感情に乏しかったんだ。まわりは、普通に笑ったり、泣いたりできるけど、俺にはそれがうまくできなかったんだ」
香菜は、黙って聞いている。その目は前髪に隠れていて、見通せない。
「俺は鉄仮面と言われていて、いつもいじめられていた。ずっと思っていたんだ。だれか、俺を救ってくれ。生きることは、俺にはきつ過ぎる。まわりが普通にやっていることも、俺にはうまくできない。どうして、俺はこんな不完全な状態で生まれてきてしまったんだろうってね。何回か、死のうかとも思ったけど、結局できなかった。俺には勇気が足りなかったんだ」
手が伸びて、俺の手を掴む。握られたその温度が、俺の心にしみる。
「悟さんが勇気が足りない意気地なしで良かった。もし、そうじゃなかったら私は悟さんに出会えなかったから」
香菜はまっすぐな瞳で俺を見つめる。暖かい。香菜の暖かさが、優しさが俺を包み込んでいく。
「生きていてくれて、ありがとう」
報われた気がした。救われた気がした。俺が今まで生きてきたことは、やってきたことは決して無駄ではなかったんだ。だって俺は今、こうして香菜と触れ合えているのだから。香菜に、感謝されたのだから。香菜に赦されたのだから。
「香菜は、優しいな」
「そんなことないよ」
香菜は微笑んでいた。穏やかに。
結局俺は、認めてもらいたかったのかもしれない。誰かに、自分は価値のある人間なんだと、生きていてもいい人間なんだと。
「悟さん、泣いてるの?」
「な、泣いてなんかねぇよ!」
「ふーん。そっか〜。じゃあ、今は目から水が垂れてるだけかぁ〜」
ニヤニヤ顔の香菜が言う。流れ的にスルーするところだろそこは!
「そ、そうだよ!日本男児たるもの、人前で泣いたりなどしない!」
「悟さん、私といる時くらい素直になってもいいんだよ」
コイツ。やっぱ、ズルいわ。
「ありがとうな。香菜」
「うん」
二人で肩を寄せ合う。沈黙が流れ続けていく。だが、それは決して息苦しい方の沈黙ではなく、心地いいものだった。
俺たちは、傷を舐め合うかのように二人で寄り添い続けていた。
今回はちょっと短いです。
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