第1話 ホモ、拾いました
講義終わりの大学の帰り道、友達との飲みニケーションもあってもう夜九時だ。小走りで家に向かう。近道するために路地を横切り家の前に着いた時、彼女は一人でそこに座っていた。うつむいた顔にポニーテール。風に乗ってゆらゆらと揺れている。中学生なのだろうか白いワイシャツとチェックのスカートを着ている。
「大丈夫?」
体育座りをした彼女が顔を上げる。ジトーとした目に高い鼻、白い肌には赤い唇が映える。正直言って、美人だ。3秒くらい見つめあった後、彼女は相変わらずのジト目で言い放った。
「家、泊めてよ」
「え?」
この子は何を言っているのだろうか。さすがに彼女も男の家に泊まるとどうなるかくらいわかっているだろう。家出だとしてもこんなところに放っておくのは危ない。とりあえず家に帰した方がいいだろう。
「とりあえず、もう夜遅いし家に帰った方がいい。送っていくから」
「家は……いや。泊めてくれるんだったら何をしてもいい。だから、泊めて」
「何をしてもって……。」
流石の俺も中学生は対象外だ。もうなんか面倒だし、家にいれちまうか。
「わかったよ。入れよ」
鍵を開け、家に入る。そのまま真っ直ぐベットに向かい倒れこむ。後ろからガチャと鍵がかかる音が響く。それを最後に俺は深い泥の中に沈み込んでいった。
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目が醒める。上体を起こして伸びをする。ふと、隣を見るとソファーがある。ソファーには中学生が寝ている。
「ふぁっ!中学生⁉︎何故ここに⁉︎」
「ん〜」
しまった!俺の声で起こしてしまった。違う!それは問題じゃない。何故中学生がここにいる⁉︎ああ、そうだ。俺が家に入れたんだ。何故?嫌な予感。汗が背中からダラダラ出てくる。で、でも服とか脱ぎ散らかされてないし、部屋も綺麗だし、たぶん何もしてない……はず。
「昨日、本当に何もしなかったね。男ってちんこに支配されているんだと思ってた」
「酷い言い様だな」
フゥ〜と安堵のため息がもれそうなのを隠す。
「何かすることある?泊めさせてもらった恩くらいは返したい」
「じゃあ朝飯作ってよ。カップラーメンばかりの生活は飽き飽きなんだ」
「わかった」
コトコトと鍋が揺れる音が響く。友達にラインしようかと思ったけど、やめた。どうせややこしくなるだけだ。なろう小説でも読んでよう。
「できたよ」
ありがとうとお礼を言って箸をあげる。味噌汁に生姜焼きと炊きたてのご飯。うまい。無言で食べ続けること二十分。気がつけば皿はカラになっていた。
「うまかったよ。ごちそうさん」
「お粗末様でした」
そういえば名前を聞いてなかったことを思い出す。
「お前、名前は?」
「香菜」
「そうか。俺は悟だ。よろしく」
ジロッと音が出そうなほどのジト目。これが素なのか、それとも警戒されているのか、はたまたその両方か。とりあえず聞くべきことは聞いておくか。
「いつまでここにいるつもりなんだ?」
「悟さんが泊めてくれるまで」
「親はどうする?家にいるんだろ」
「親は……私のこと気持ち悪いって思ってるから」
しまった。地雷だったか。
「そうか。ま、気がすむまでここにいな」
「……どうして、見ず知らずの私にそこまでしてくれるの?」
「そりゃあ、帰る場所がない子を帰すわけにはいかないし、それで餓死でもされたら寝覚め悪いしな」
「ふーん」
少しだけ、ジト目が丸くなった。だが、またすぐに元に戻ってしまった。香菜は少しだけ目を伏せてから言い放った。
「私さ。……ホモなんだ」
この小説は僕の寮の後輩が話していたことを思い出しながら書いています。
この小説で少しでもLGBTの人に対する理解が増えるといいなぁ。
書きだめはできてないんで投稿はまちまちになりそうです。