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リバーシ!  作者: 大野 大樹
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77.僕らだって人並みに幸せを望んだっていい。

「落ち着いて。ナツミ。ネル‥まだそうと確信しているわけでは無いことを言っちゃダメだよ。ナツミが心配するじゃない」

 カタルが静かな声で言った。

 ネルは、

 ‥カタルは、「心配させるために」このタイミングで言ったんだろうけどね‥

 そう思ったけど‥言わない。

 なんで? って聞いても、仕方がないから。

 どうせ正面からカタルに問いただしたってまともに答えるわけがない。

「‥ナツミ。落ち着いて。

 ‥一人で助けにいこうなんて思わないで」

 ネルが、真っ白な顔色をしているナツミの目を見ながら言った。

「そんなことしたら、‥思う壺だから」

 誰のって‥

 王家と、‥カタルの。

 王家は「反政府組織のメンバーで、ヒジリの親友で、ヒジリを取り戻したがっているナツミ」のことをマークしている。

 そんなナツミが行動を起こせば、これで大義名分を得たとばかりにここを攻撃するだろう。

「ナツミの行動一つでここに迷惑がかかるってことを‥覚えていて」

 嫌な言い方だけど、ナツミにはこの言い方の方が効果がある。

 ナツミはビクッとした表情でネルを見‥そのまま視線だけを地面に落とし、

「‥すみません。割ってしまって。片付けますね」

 って割れた食器を片付け始めた。

 その背中を見てると良心が痛んだ。

 ホントは。

 ナツミを危険な目に合わせたくないんだ‥っていうのが本心だけど、そんな言葉ではナツミを止められない。

 ナツミは自分を大事にしないから。

 ‥昔はあんなに自信にあふれてて、何時も楽しそうで、将来への希望を持っていたのに‥

 道を外れた人間‥っていうか、城に反抗的な人間ね‥に対して城はホントに厳しい。

 兵糧攻めより酷い‥ライフラインを全部取っ払っていっちゃうんだ。

「これで暮らせるならどうぞ。

 文化的な暮らしがしたいなら、他の国民の様にこの国のルールに従ってもらわないとね」

 って感じなんだろう。

 ネルは小さくため息をついて、ナツミを手伝うために腰を上げ

 ‥ようとしたところをカタルに止められた。

 背中に軽く手を添え、見下ろす視線で「止まって」って言うだけ。

 それだけでネルには通じた。

 だけど、それを見ていないナツミにはカタルがネルを引き留めたことは分からない。

 だから‥

「立たないでいい。ネルは、座っていて。怪我をしてはいけないから。

 僕がするね」

 カタルはナツミに聞かせるために、わざわざそう言った。

 ナツミが顔を上げ‥

 ネルを見る。

 ナツミにだけ分かるように

 ネルがナツミを見つめ返す。

 その視線を遮るように、カタルが席を立ってナツミを手伝い始める。

 ナツミがカタルを見て、嬉しそうに微笑みかける。

 カタルがナツミの手を取って

「怪我はない? 」

 って言うと、それだけでナツミは真っ赤な顔をして‥もっと嬉しそうに微笑んだ。

 もうナツミはネルを見なかった。


 カタル。

 君は、ナツミを「どのように」利用しようって思ってるの? 

 ナツミは‥

 カタルのことをあんなに恋しているのに‥

 カタルはそんなナツミの恋心すら利用しようって思えるの?


「新しいお茶を用意してくる」

 ネルはそう二人に断わって、席を立った。

 カタルとの間に生まれ始めた距離


 相変わらず、カタルは打算的で、計画的。メンバーのことを大切に思っていて、中でも僕のことを大事に思ってくれている。

 じゃあ、ナツミは?

 ‥ナツミは大事じゃないの?

 そして、ナツミについてのカタルの考えをカタルは僕に何も言わない。

 そんなこと今までなかった。

 汚れ役は全部引き受けて、僕には何も言わない‥ってタイプじゃない。

 今まで、カタルは全部僕に話してくれてた。

 どちらか一方がもし死んだりしても、一方が後を継げるように。


 ああそうか‥

 ナツミのことは

 カタルだけの意志で動いているんだ。


 そう気付いた。

 カタルの「僕とは関係ない」ナツミに対する気持ちが、いい感情‥例えば恋心だとしたら、僕は反対しないけど‥

 もしそうじゃないとしたら、僕は断固邪魔するよ。

 カタルにもナツミにも「人並に」幸せになってもらいたい。


 僕らにだって‥普通の幸せになる生き方だってあるんじゃないの? 

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