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リバーシ!  作者: 大野 大樹
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75.寂しいのは

「ネル様。‥いえ。ちょっと考え事をしていました」

 何にもないって風に見えるように、ナツミは微笑んだ。

 ‥じゃないと、この優しい人はきっと気にするだろう。

 ‥多分上手く笑えたって思うけど、きっとネル様は気付いてしまうんだろう。

 そう思いながら、ナツミは「慣れた」笑顔を作る。

「考え事? ‥ナツミ凄く悲しそうな顔をしてたけど。‥ナツミが悲しいのは、僕らも悲しいよ」

 ‥やっぱり。

 ネルの困った様な、悲しそうな顔を見て、ナツミは眉をそっと寄せた。

 ‥ほら、心配させてしまった。

 ナツミが困ったように口元だけで微笑む。

 ‥ネル様は優しい。‥優しすぎる。

 ‥兄貴分のカタル様のことを、ネル様は「カタルは優しい」って言っているが、‥私からしたら、カタル様は「食えない大人」だ。

 ネル様は‥ただ単に優しいというより、凄く純粋でいらっしゃる。優しくあろうとしてるんじゃなくって、優しいのが元々の彼の性格で、その性格を歪めること‥歪められることもなく育って来られた。

 ネル様は幼いころからずっとここに居て、‥ここしか知らなくって、小さいネル様のお世話をされたのが、カタル様だったと誰かから聞いて事がある。

 ネル様が生れて、そして「その能力」のせいで、家族から疎まれるであろうってことを、カタル様は知って‥ 予言された‥らしい。

 きっと、カタル様もそうだったのだろう。

 ‥だから、余計にネル様のことをほっとけなかったんだろう。



(side ナツミ)

 平民にとって、魔法は身近にないものだから、理解されにくい。だから、気味悪がられることだって多い。

 父さんに時の属性があったあたしの家は、子供が生まれたら、すぐに教会が調べに来た。そして「魔法は使えないようですね」って神官が首を振ると、両親はがっかりした顔をした。あたしの兄も姉はそう言われてきた。

 だから、あたしの時は「またどうせ」って思ってたんだろう。あたしの時は、神官が来ても父さんは立ち合いもしなかった。

 神官が「もしかしたら‥」位の微妙な言い回しをしたけど、(実は父さん程魔法に興味の無かった)母さんは「どうせダメでしょ」って父さんに言いもしなかったね。そんな「もしかしたら」ぐらいの可能性にお金をかけるのは‥うちの家の家計では無理だったから。父さんならきっと「もしかしたら」にかけるって言いだすだろう。家計を預かる母としてはそれは許されることではなかった。だから、父さんに言わないことにしたんだ。

 魔法学校は高い。それに、魔法でお金を稼げるようになるのはほんの一握りの人間だ。その他大勢の「一応魔法使い」だったら、一応は国家公務員ではあるけど貰える給料は知れてる。だのに、一生国の預かりになって結婚も自由にできない。「女の子にそれって酷だ‥」って思ったんだろう。

 一攫千金を夢見る父親と堅実な母親。

 別に、‥悪い両親でもなかった。だけど、両親とも自分の考えばっかりで‥あたしの意見なんか聞く気はなかった。


 まあ、‥とにかく、うちの家みたいなのは実は珍しくって、平民の家は、「平民のうちに魔法使いは生まれないもの」って思い込んでいる家が多い。だから、神官に調べてもらうこともない。

 あたしの家の場合は、父さんが時の属性持ちだから、自動的に来たけれど、そうじゃなかったら魔法に否定的な母さんは神官なんて呼ばないだろう。(ヒジリが生まれた時に神官が来たのもきっとヒジリの両親のうちのどちらかが時の属性持ちだったのだろう)

 神官が呼ばれなければ、魔法使いの素質があったとしても分からない。

 もしかして、隔世遺伝だとか「先祖返り」で魔法使いかリバーシが生まれたていたとしても‥分からない。

 あたしを「もしかして‥」って鑑定した神官は‥今思えば「なかなか能力のある」神官だったと思う。あたしの能力は、そう強くなかったし、生産系の「分かりやすい」魔法使いじゃなかったから。

 生産系は例えば、水をつくるとか、炎をつくるとかいった魔法で、非生産系は「その他」の魔法だ。

 予言も付与も非生産系の魔法だ。付与は比較的よくある魔法で、予言は珍しい。

 カタル様は、珍しい予言の魔法を使う魔法使いだ。

 珍しいし、制御が難しい部類の魔法だ。魔法学校に入って一番に学ぶ魔力調整と制御を知らない彼は(魔法を調整できないから)見たいものの特定は出来ないだろう。‥そして、これは知りたくない、知る必要もない‥ってことも知ってしまうんだろう。

 子供は無邪気だ。

 ‥何となく、容易に想像がつく。きっと無邪気に、色々予言して気味悪がられたりしたのだろう。そして‥捨てられた‥ってところかな。(※ 実際のことをナツミは知らない)


 ネル様は、ご自分の力について「あまり知らない」って言っておられた。

 過保護なカタル様がネル様にお話にならなかったんだろう。


 だけど、あたしには「わかる」


 ネル様のスキルは‥「改変」それも、「改悪」寄りの闇スキル。闇属性のスキルなんだ。


 カタル様は予言でネル様の誕生を知り、その存在を探させた。そして、大人に邪険にされる彼を放っておけなかったのだ。

 そして、彼をここに連れて来た。

 ‥ネル様の能力を知っていたわけでは無いだろうに、結果的に「知っていたかのような」結果になった。カタル様に全く悪意なんてなかったのに‥だ。


 もしかしてくるかもしれない自由のある未来ではなく、‥一生閉じ込められた未来に‥ネル様は(自分の意思で)人生を「改悪」させた。


 自分が表社会に出ないことによって、不特定多数の人間を不幸にしないで済むのなら、とネル様はカタル様の提案を受け入れた。

 ネル様にとってカタル様は、‥唯一こころを許せる人。幼馴染で‥トビキリ過保護な兄貴分だ。

 カタル様は世間や‥その他色んなものの為にネル様が苦しめられたりしない様にって、大事に隠して生活させてきた。

 ネル様にとって、この組織の檻に閉じ込められることは果たして人生の改悪だったのか‥。

 時々考える。

 ここは、外の世界には決してない、安らぎを彼に与えられる唯一の場所だから。

 ここが、どこであれ‥だ。


 同じ目的を持つものの理想郷。


 どんなに言葉で飾っても、‥ここが反政府組織のレジスタンスの集まりだってことは‥事実だろう。実力も知能も高めな人間が多い。きっと性格だって一筋縄ではいかない者たちも多いだろうし、年齢もバラバラだ。


 そんな人間たちの中でネル様を育て、そして、幹部の一人として長年にわたり君臨しているんだ。‥カタル様は普通の平凡な人間であるはずがない。


 予言者で預言者。

 多分、ここだけじゃなく‥国内最高レベルの‥だ。


 あの預言者‥旅のお坊様が、私に言ったこと

「(ヒジリは)今はまだ覚醒しきっていないんだけど、いつかきっと覚醒する。運命の‥強い星」

 そして、ヒジリ「運命の強い星」には影星が付いていて、それを守っている。

 その影星が誰かは教えてくれなかったけど、ネル様を見たとき「ああ、この人だ」って分かった。

 影星だから分かったんじゃない。

 ネル様があたしの特別だったから、分かったんだ。

 魔法使いだけは、自分にとって「特別な人」は、見ただけで分かるんだ。

 ‥鈍い人は触って初めて確信が持てるらしい。あの王子なんかがそうだね。あの王子はヒジリをみて「あれ? 」って思って、触って「やっぱり! 」って分かったわけだ。

 お互いに、ってわけじゃないんだ。魔法使いにとっては「この人は特別だ」だけど、リバーシにとってはそうじゃない。魔力量が足りない魔法使いと違って、リバーシは魔力に餓えてないからね。魂の枯渇度が違うって言うのかな? (そこら辺はよくわからない)

 つまり、ネル様にとってあたしは特別じゃないけど、あたしにとってネル様は特別なんだ。

 特別だから、何でもわかるんだ。‥それこそ、カタル様よりずっとね。


 カタル様‥カタル様は狸だ。ネル様のことも、‥あたしのことも全部管理してるんだ。お綺麗で涼しい顔をなさって、実は腹黒とかって‥小説の登場人物みたいだね。

 ‥カタル様には言わないけど、あたし分かってるんだ。あの魔石商人がカタル様だったってこと。‥旅のお坊様も今思えばカタル様だったかも。(本人じゃなくても、カタル様に支持された誰かだったってことかな)

 ぜんぶ、カタル様が仕組んこと。


 ヒジリにあの石を渡したのは偶然なんかじゃなくって、ヒジリがああなったのも偶然じゃない。そして、‥私が今ここに居るのも、全部、カタル様がそうなる様に仕組んだことだったってこと‥。

 あたしがヒジリの親友だったからで、カタル様があたしの特別だったってことは‥分かっていないだろう。これだけは知られないでおこうって思う。


 カタル様のことは、尊敬しているけど、‥そこまで信用してはダメだって思う。


 城に今、ヒジリがいるのは「カタル様の計画通り」じゃない。だから、あたしはカタル様の次の計画の為の駒の一つなんだろう。

 使われない駒かもしれない‥ただの「持ち駒」。

 ‥そのことについては、別に不満はない。

 寧ろ、ネル様やカタル様の助けになりたい、って思う。


「寂しいの? 」

 心配そうにネル様があたしを見つめる。あたしは首を振る。

 ネル様は昔からずっと、あたしを気遣ってくれている。


 ‥昔のあたしは、親元から離れて‥やっぱりちょっと寂しくなって時々泣くことはあった。

 その頃からはもうずっと大きくなったのに、ネル様にとってあたしは、今もあの頼りない子供にしか見えないってことだろうか?

「いいえ、ネル様。ただ。何も出来ない自分がもどかしいんです。‥何が自分に出来るか、何をすればいいのか‥それがわからないんです。

 わかった、こうしよう!

 って思ったのに、次の日になったら、でも‥って揺れます‥それが、もどかしくって、悔しくて‥悲しくなります」

 真っ直ぐあたしを見つめたままネル様はあたしの話を聞いて下さる。


 迷ってる。

 城‥王子‥に対する嫉妬だけじゃない。

 ヒジリに対する複雑な想い。憎い‥ような、愛おしい‥ような。懐かしいような‥想い。

 それから、‥自分自身の気持ち。

 過去の自分の行動を「あってた」って正当化する自分と、でも‥って反省する自分。

 これからどうするか。‥どうしたらいいか。


「迷うっていうことは、‥いいね。後で反省する余裕が生まれる。迷ってね。どう決断しても、結局は後でその判断を後悔することになると思う。だって、迷う程どちらの考え方にも思い入れがあったわけなんだからね。それでいいと思う。

 それで、なんでもう一つにしようか迷ったのかを考える。そして、今にそれがどうにかして生かせないか考える。後悔して、反省して‥考える。その余裕が、迷った時には生まれる。

 これしかない! ってろくに迷わずに突き進んだ時には、後悔はあっても、‥この余裕が無い。

 だから、後悔して、荒れて‥結局同じ失敗を次にも繰り返す」

 ゆっくりと、カタル様は私の苦しみ‥迷いに寄り添ってくれる。

 一緒に考えて‥悩んで、泣いてくれる。

 ‥あたしもヒジリにとってこうなりたかった。

 

 どこで間違ったんだろうか。‥これから、あたしはどうしたらいいんだろうか。

 寂しいのは、自分の存在の軽さ。

 ヒジリにとっても、ネル様やカタル様にとっても、「いてもいなくても変わらない」存在しかないのが、‥寂しい。


 あたしにとってネル様は「特別」だけど、ネル様にとってはそうではない。‥分かってもいないだろう。‥だけど、それは構わない。

 あたしにとって本当に「特別」なのはカタル様だから。

 魂が認めた「特別」はネル様で、魂が求めた「特別」はカタル様だってこと。


 あたしはカタル様を愛している‥。


 カタル様の事‥気が付けばあたしはこんなに愛しているのに、カタル様にとってあたしはただの駒。

 だかど、ヒジリはそうじゃない。王子の「特別」はヒジリで、王子はヒジリのことを大事に思っている。きっと、ヒジリのことを幸せにしてくれるだろう。

 あたしとは違う。

 誰にも特別って思われない‥自分が寂しい。

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