72.影星
正確には、
王国側には、(気付いたものは)いなかった
だ。
災厄の星が二つだと『予言』したのは、王国側と利害を共にしない反政府組織と王国側によって呼ばれている思想団体だった。
『予言』の魔法を使う者は、特殊だ。
そもそも、予言の魔法を使うものが魔法使いだと「判別される」ことが珍しい。
そうそう大きな予言をする者がいないのだ。
ある日、「居なくなった猫は、あそこにいるよ」とか「明日は晴れみたいだね」って、「その片鱗」を見せたとて、それは小さすぎて「この子は勘がいいね」とか「天気が読める子なんだね」で終わりだ。
「予言」onlyの魔法使いというのがそもそも少ない。治癒系の魔法使いが、それにプラスして予言の魔法をちょっと持っていたり、水系の魔法使いが雨を降らす時期を考える際に、知らずに使っていたり‥そういった、併設って感じの魔法なのだ。
そんな希少な「予言」onlyの魔法使いは、魔力が大きければ、予言の魔法使いとして国政に関わる大事を予言する等、華やかに活躍できるだろう。だけど、余りにも魔力量の少ないものが、「予言」onlyの魔法使いだった場合は、‥魔法学校にでも行って詳しく調べられでもしない限り、発見されることも無いのだ。
両親のうちどちらかに(もしくは両方)「時」の属性持ちがおり、神官が誕生時に調べに来た際、それに気付かなかったら、その子供は魔法が使えないと認定されるだろう、そして、その親が裕福ではなかったら、(まあ、裕福だとしても魔法に理解関心がなければ)魔法学校に入れることも無いだろう。
それが「予言の魔法を使うものが魔法使いだと「判別される」ことが珍しい」の理由である。
運よく判明された「予言の魔法使い」の多くの者は、天気予報的な役割を期待されることが多く、リバーシの「実りの聖女」とセットで、農業の分野で活躍している。
それも、予言者としてではなく「天気読みの巫女(男なら聖者だな)」としてだ。
時に関与できる人間がいるということを知られるのは、いたずらに人々に不安を与えるし、魔法使い自体を危険に晒す。
魔法使いに嘘の予言をさせるものが出てくることだって考えられる。
予言された‥あたかもそうなることがはじめから決まっていた‥かの様に、事件をねつ造する。
王室お抱えの「説得力」のある魔法使い様の予言にはきっと説得力があるだろう。
‥そういうこと多くの弊害が安易に予想できる。
だが。魔法使いは、言うならば一介の「国家公務員」に過ぎず、100%国で身柄を保証することが難しい。それは、予言の魔法使いとて同じことだ。
だから、色々なことを考慮して、国は「予言の魔法使い」の存在を表に出さない。
予言の魔法使いの中でも、「国政」に関わる様な大事を予言する者の身柄はその程度ではない。それこそ、神官長と同じく厳重保護がつき、面会その他も制限される。(まあ、ほぼ監禁状態だね)
それ程に「取扱注意な魔法使い」なのだ。
反政府組織側に所属する予言の魔法使いは、婚外子で、その子はコッソリと産み落とされた。
そして、それ故、国がその出生に気付いていなかった。
時の属性のある父親の方は身分の高い貴族で、母親は庶民‥水商売の女だった。男の妻が認知するのを嫌がって、女に金を渡して、女は子供を人身売買の組織に売った。
その子供を買ったのが反政府組織だった。
無戸籍の子供は大半がそう言った犯罪組織に売られるのだった。
殺人、諜報、‥そして魔法。
反政府組織の「教育」は充実しており、その中には、魔法を鑑定する者も訓練する者もいた。
どんなにしっかり管理しているようでも、何処かしらに「ぬけ」はあるのだ。国の管理下にはない魔法使いなど普通ではありえない。魔法を鑑定できる者も魔法を使える‥教えられる者も、国の管理下にある魔法学校でまなんだ者であるはずだ。‥だけど、どんなにしっかり管理しているようでも、どこかに抜けはあるんだ。
この後の予言の魔法使いの子供は、表社会では(出生が知られていなかったから)神官に鑑定されることがなかった。それ故に、希少な予言の魔法使いで、また、国政をも予言できるような能力の高さであることも国に認識されることはなかった。
反政府組織は、民意を考慮する必要もなく、人権を尊重することも、「国民の利益」に貢献する必要も無い。だから、駒である兵士や魔法使いの扱いが効率重視で、容赦がない。
だけどかえって規則規則いってる「表」より、皆楽しくやっている。
自分たちの利益と幸福だけ考えればいいっていう状況は、単純で「分かりやすい」。(正しいか正しくないかは別として、だ)
社会から迫害されてきた無戸籍である自分たちの人権取得、そして、権利の獲得‥旗印にして掲げている主張は、「間違いではない」だから、自分たちが反政府組織だという自覚は、少なくとも組織の最下層の組合員にはない。
国民に課された、納税、教育、労働の義務。特に納税。反政府組織は、その存在が反政府であり、税金を政府に納めていない。そして、組合員の大半が無戸籍の人間である為、個人的にも税金を納めていない。
国から独立した別国家を主張する彼らは、いうならば不法占拠者である。(もっとも、目立たない土地でひっそりと暮らしているので、国民は彼らの居住地を知らない)
組織上層部の野望は兎も角、下層の組合員の願いは、日々の安寧な生活であり、ちょっとした生活の向上だった。そして、いつかは独立国家を国に認められ、国と対等に交流していける‥そんな未来を夢見ていた。
「国にとって災厄になり得るほど大きな影響を与えるであろう「災厄の星」は二つ。
太陽の光を受けて一際輝く星の後ろに、もう一つ星が見える。‥前にある星が消えない事には、この星は太陽の光を受けて輝くことは出来ない。それ故、この星は輝くことなくひっそりとしている。
大きさは前の星と同様か‥多少は小さい位。
前の星を光の星というならば、この星は影星。
光の星と対立する定めを持っているのか、支える定めを持っているのか‥それは今はまだ分からないが‥まだ定まっていないようだ。
今言えることは、災厄の星は一つではなく二つということ。
さて‥国で飼われている予言者は、そのことが分かったかなあ」
ここに「買われてきた」魔法使い、カタルは、まだうんと小さいときにこう「予言」した。
因みにこの名前は「魔法使いってんだから、それっぽい名前にしないとね」って反組織団体のリーダーがつけた。買われる以前は名前もなく「おい」とか「お前」とか呼ばれていたようだから‥。
「災厄の星? カタル坊は難しい言葉をしってるな。‥ああ、確かに国の予言者がそんなことを言ってるらしいな」
「‥驚いたことに天体観測者も異常を報告しているらしいぞ。なんでも魔素の濃度が異常に上昇している場所があるとか‥」
組織の大人たちがカタルの言葉を受けて会話を続ける。
ここには、カタルの予言の真偽がわかる人間もいなかったが、その発言を「子供の戯言だ」って一笑に付して、捨ておく者もいなかった。
そんな環境で、カタルは今までの「押しつぶされた感情」を徐々に取り戻していった。
だから、カタルにとってここが全てになった。
「光の星は、きっと気付かれているだろう。だから、僕らは影星の方が欲しいな。少しばかり力は弱いようだけど、なあに、これ位の差は訓練その他でなんとかできる。
国民の平和と日々の生活の安定が一番大事っていって、保身にばかり力を入れている国はきっと、これら‥強すぎる光を放つ星を国民から遠ざけ、問題が無いように隠してしまうだろう。
強すぎる力は、事なかれ主義を貫く奴らには無用で厄介なものでしかないからって。
隠すって‥まさに、宝の持ち腐れだね。勿体ないよ。
僕らはそうはならない様にしないとね」
「僕らはその星とともに、新しい国を作るんだ」
そう「明日への希望」を口にするまでに「回復した」カタルを父親代わりを自負していたリーダーは喜んだ。
内容の真偽ではなく、カタルの回復を喜んだ。
「その子は男の子かな、女の子かな? 男の子だったら僕の弟にしよう。うんと可愛がってあげるんだ」
って夢を見る様に呟く。
そんな様子は、今まで見たことがない程楽しそうで、だから
「迎えに行こう。僕らの希望の星を‥」
そんなカタルの「初めてのお願い」をリーダーは断れるわけがなかったんだ。




