71.運命の子供
「ヒジリちゃんが引っ越したのって、いつ? 」
暫く考え込んでいたナラフィスさんが「そう言えば‥」と呟いた後に俺に尋ねた。
俺は「ん? 」とちょっと首を傾げてから
「うんと‥小さい頃らしいですよ。すっごい田舎に住んでたらしいけど、「こんな田舎だったら、周りの人は皆ヒジリのこと特異な目で見るかもしれない」って母さんが言ったって」
よく覚えてないんですけどね。
と付け加える。
‥自分の事だのに、曖昧ってカッコ悪いなあ。
でも、子供の頃のことどころか、‥俺あっちでの記憶があんまりないんだよな‥。
でもまあ、子供の頃の記憶って結構忘れてるもんだし、そもそも、ちょっと前まで「自分は児嶋聖という日本人男性」っていう「情報操作(?)」されてたんだからしょうがないだろう。‥その設定がここまで堅固に俺の中に浸透してるのってそういえば、可笑しなことだ。
まるで、そうしないといけないみたいに頑なに‥。
なんだろ、‥なにか引っかかる‥
「田舎‥ねえ」
ナラフィスさんは、独り言のように小声で言うと
隣にいたラルシュ様と
「『道徳教育』の後かな」
「前じゃないかな。寧ろ『道徳教育』の為の引っ越しじゃないか? 」
ぼそぼそ話し合っている。
‥『道徳教育』?
聞きなれない言葉に、首を更に傾げていると、サラージ様が
「リバーシの子供は幼い頃‥まだ初等の学校に行く前に、週の最後に教会に行く決まりになっている。そこでされる教育が『道徳教育』だ」
と、『道徳教育なるもの』の説明をしてくれた。
サラージ様は、流石と言うか‥よく周りの様子を見ている。
普段は、ちょっと『俺様』でちょいブラコンのツンデレ気味の「王子様」(←立場的なものではなく)なのに、そこら辺は流石に、ね。
因みに、王族であるサラージ様は行っていないようだ(サラージ様も自分がリバーシだってこと隠さないな‥)
よくわからなかったところもあるけど、こんな感じの内容だった気がする。
タイトル「リバーシ、教会での『道徳教育』その内容と狙い」
(内容)
神官様のありがたいお話を聞く
優しい聖女様とお話をしたり、見習の若い神官にスキルを教わったりする。
因みに教えてもらうスキルは『見習いの若い神官』によって違うが、流石教会だ。攻撃的なスキルじゃない。それこそ、ちょこっとついた傷を治す、野菜をシャキッとさせる‥って程度のスキルだ。
(協会側の狙い)
人に対する思いやりを学ばせる。
自分の危険性をなんとなく理解させる。
弱者をいたわる心を持たせるように幼い頃から説いて聞かす。
間違った力の使い方をしない様に、基本的な力の使い方を学ばせる。
‥まあ、多分そう間違えてはいないだろう。サラージ様は変に隠したような言い方や、「協会寄り」みたいな言い方しないし。
だけど‥そういうと何か思い出した気がする。
確かに、自分は教会に通っていた。
だけど、通っていたというより、遊びに行っていた。仲良くなったお兄さんがいたからだ。てっきり「偶然」仲良くなったんだと思っていたが、あのお兄さんがつまり、サラージ様のいう「見習いの若い神官」だったってことか‥。
教会の牧師さん(神官長っていうことがさっきわかった)のありがたいお話っていうのも‥、そういえば、おじいちゃん先生に色々教えてもらった気がする。(あれがそうだったのか)
「君は、リバーシで魔力の枯渇なんてことは、無縁だろう。だけど、世の中の人たちは、魔力が無い人や(魔力が)あっても君より皆ずっと少ない。それが、当たり前なんだ。
皆を自分と同じだと考えてはいけないよ。
力を使って誰かを傷つけたりしてはいけない。
力を持つ者っていうのは、それだけ責任があるんだよ」
あの当時の俺には難しかったけれども、子ども扱いすることなく、優しい穏やかな眼差しで、真剣な話をしてくれる大人が、あの時は嬉しかった。
だから
「おじいちゃん先生」「おじいちゃん先生」
って尊敬したし、懐いてた気がする。
勉強しに行っているって感覚は無かった。サラージ様の話によると、義務みたいだけど、そんな「義務感」は無かった。
教会は、ほんの小さな「村の教会」って感じで、シスターっぽい穏やかなおばあさんと、村の守り神であった『聖女様』と、何人かの見習いの若い神官と神官長である「おじいちゃん先生」がいた。
教会に遊びに行ったらまず、聖女様にご挨拶に行く。聖女様は、‥そうだな年のころだったら、20になっているかなってないかって年だっただろうか? 常世場慣れした綺麗な人だったた。
綺麗っていっても、勿論顔だけじゃない。その綺麗な顔っていっても、麗々しいっていう綺麗さじゃない。清潔な‥如何にも聖女って感じの清楚な感じだ。
立ち振る舞いだとか、優しい笑顔だとか、優しい声だとか‥そんな雰囲気も含めて凄く綺麗な人だった。
おじいちゃん先生も勿論好きだったけど、俺は聖女様が大好きだった。当時の俺は、
「将来、私も聖女様の様になりたい」
って思ったものだった。(女子だったからね)
きっと、男なら
「強くなって、聖女様を守る」
って思ったんだろう。
ロン(そういえばそういう名前だった)に会ったのもそこだった。
ロンはぱっとしない、なんとなく頼りない感じのお兄さんだった。だけど、いつも一生懸命で「なんかこいつ憎めない」そんな感じの少年だった。年は、15になるかならないか‥そう変わらない年(といっても、10近くは変わる)少年だった。
先輩たちと比べたらまだまだなんだけど、年の近い子供たちにとったら、面倒見がいい「優しく頼れるお兄ちゃん」。年が自分に一番近いこともあり、直ぐに仲良くなった。(思えば、あれも「そういう設定だった」って思うと‥嫌だな)
子供たちの愛すべき大人。(という立ち位置)
「お兄さん役」は、「頼りないけど、でも、大好き」って思わずにいられない様な青年(か、少年)で、ちょい悪ぶってるけど、教会の悪口をいうことなんて絶対ないし、凄い努力家で、実は真面目(あからさまに真面目だと子供たちも付き合いにくいので、見た目は「頑張ってるけど‥残念」っていう微妙な感じを保っている)
そういう設定。
‥完璧なる俳優だ。
勿論彼は、「設定」通りの人なんかじゃない。
リバーシを観察して、考え方、魔力の使い方に軌道修正を行い、その際、随時本部に報告相談をする、リバーシの子供たちに最も近い調整役で、ベテランだ。
多分、見かけほど若くない。
聖女様の役目は、「人に対する思いやりを学ばせる。弱者をいたわる心を養う」かな。
「う~ん成程。俺が学校に行く前には、何となくスキルが使えていたのはそのせいか。そうですよね、学校で始めてスキルを使ったりなんかしたら、力の爆発で‥大変な目にある未来しか見えない‥」
道徳教育と称された、リバーシの必須教育。それと分からない様に、教育されていた‥。
「にしても、‥幼い頃から洗脳されてる感、半端ないね」
仕方はない、‥まあ、「騙すなんて」とは思いませんよ。流石にね。仕方がないことです。リバーシの育成に関わる様にならなかったら、きっと大半の人は一生このことに気付かないんだろう。
(そういえば、あの聖女様役が、その「育成係」のリバーシってことになるのかな? ‥見習いの若い神官の方か? )案外、全員かも。
「まあ、‥それは仕方がないだろう。リバーシの必須教育ではあるが、流石に全部の村にあるわけではない。ヒジリの引っ越しも、もしかしたらその辺が関係してるのかもしれないな。‥田舎で、専門の教育係がいなかったとか」
教会は、全部の村にある。でも、特別な教育係のいる教会は、全部の村にはない。
‥悪かったな、田舎者で‥。
もっとも、引っ越す前の所とか、覚えてないんだけどね‥。
いやあ、まあ‥それにしても‥
‥‥‥
ねえ‥?
国は、リバーシの教育には力を注いでいた。
でも、同じく危険分子、「魔法使いかどうかわからないグレーな子供」についての警戒を怠り過ぎた‥。
だって、‥その時は、まだ魔法が使えるかどうかは確認されていなくても、「いずれ覚醒する」危険分子。その能力が分かっていない分、もっと危険ではないのだろうか?
確かに、魔法は使えると判断されたとしても、習わなければうまく使えない。
実際に、使えるようになった者はいない。
例はない。
だけど、あるかもしれない。
伝説級の「特別な子供」。ヒジリを鑑定した神官が言っていたという。
神官は口が堅い。
王に報告した後、神官は今まで以上に口を閉ざして、ヒジリのことを語ることはなかった。
どこかでうっかり、
情報が洩れて、
誰かがヒジリのことを知ってしまわない様に。(勿論、特に、敵である反政府組織に、だろう)
そう、もう、皆ヒジリのことでいっぱいいっぱいだったんだ。
そして、いつも以上に‥
警戒心が、一点集中していた。
伝説級の「特別な子供」が、一人ではないと、災厄の星は一つでは無かったと気付かない程‥
皆の警戒心は
ヒジリに集中していた。
災厄の星が二つ重なって輝いていたことに‥誰も気付いていなかったんだ。




