65.私なりに‥愛してる。
「会ったことのない婚約者‥。運命の人‥。いい人だったらいいですね」
幼い頃の思い出だ。
あの時、ファー将軍があんまり情けない顔して‥私を同情してるもんだから、‥私は‥意地悪したくなって、柄にもなくセンチメンタルなことを言ってみた。
そしたら、思った通り、ファー将軍はもっと泣きそうな顔をした。
‥あの腹黒の王(いや、王ってのはそういうもんだ。情にもろい王がいたら、それこそマズイ)の友達だのに、この人は昔から‥変わらない。単純なところがあって、感情が顔に出やすくって、涙もろい。最強の兵士で戦に出たら敵なしなのに、‥子供や女性には優しい。真面目で愚直で、誠実。国の為に私もなく働いている。理想の上司で理想の父親。きっと、奥さんにも優しいだろう。もっと幼い頃は私も「将軍がお父さんだったらよかったのに‥」ってこっそり思ったものだ。
部下に恵まれ、慕われている姿を見たら、将来はああやって慕われる大人に成ろうって思った。
でも、友達には恵まれてないなあ、とも。
あの大臣とか、王(私の父親だ)とか。
きっと、あの二人は昔からああだっただろう。‥利用されたり、損な役回りをさせられたりは‥でも、しない。それほど、馬鹿ではない。それに、彼にとって「正しくない」ことには、真っ向から対立するし反対するしね。
そういうのもなかったら、‥友達とは言えない。
そういえば、幼馴染だっけ。
上級の貴族には上級の貴族の友人。
‥貴族ってそういえば、友達も自分で選べないよね、って思う。
私にも親に紹介された『家柄・能力申し分ない』ご学友っていうのも、いた。
お互いに、中々‥忙しいから一緒に遊ぶことなんかは無かったけど、剣の指南は何度か一緒に受けた‥かな?
だけど、それも子供の時の話だ。
成長して、学園に通い始めたり、公務で出かけたり、リバーシの育成保護に携わったりすると、そこで友達が出来た。
特に、私はリバーシの育成保護に、力を入れている。決められた婚約者もリバーシだし。だけど、婚約者が決まる以前から実は(リバーシの育成保護には)関わっていた。弟もリバーシだったから、リバーシの行動みたいなものには慣れてたし、不便に思っているだろうことも想像がついた。‥飛び級で大学に行っている親戚のリバーシの話で、異界(sideB)出身のリバーシもいるって話を聞いて、「そういうのがホントにいるなら、保護しなければいけないのは、なによりもその人たちじゃないか? 」って思ったのが、‥保護育成事業を始めたきっかけだ。
それに、私はリバーシに、「自分とは違うもの」に、興味があった。
魔力がそう多くない私が魔法を使う際に、お世話になる「魔石」。その純度の高い魔力を空の魔石に注入することが出来る存在‥リバーシ。魔力が高いことが多く、そして、魔力の純度が高い。体内で魔力を作ることが出来るが、魔法は苦手で、使えてもそう大きな魔法はつかえない。
時の属性を持つ危険分子。
だけど、‥普通のリバーシはそのことを知らない。
ただ、「大きな魔法を使いうる莫大な魔力を持った」使い方を間違えると危険な存在‥とだけ。
だけど、そんな刷り込みが小さい頃からされているのも、こっちの世界で教育を受けているリバーシだけだ。
初めてミチルに会った時は、まだ私は自分が何者か分かっていなかった。
リバーシなのか‥魔法使いなのか。
王族だから、普通はその二択なんだけど、私は生まれた時に皆が首を傾げた。
‥魔力が特別高くはないから、リバーシではない気がします。‥しかし、属性は4つ。非常に魔法の才能を‥感じます。ですが、魔法が使えるかどうかは‥まだわかりません。
才能の片鱗はあるが、その開花の可能性は分からない。
そんな、微妙な判断。
兄上‥サイダール殿下は生まれた瞬間から違ったらしい。
見るからに魔法の才能があったし、魔力の吸入も自発的に出来た。
魔力の吸入というのは、魔法使いの能力の一つだ。これは、魔法使いだと認定された後に、他の魔法使いが教えてくれるものらしい。というか、魔法使いにしか、分からない感覚なのだという。‥すごくコツがいって、「実際に魔法使いじゃないと理解できない様な」ものらしいが、兄上は生まれた瞬間から自発的にしたらしい。
枕元に置かれた魔石付きの玩具‥生まれた時に母親の魔力の込められた魔石のついたぬいぐるみと、父親の魔力の込められたませきのついたぬいぐるみを枕元に置くのだ‥から、魔力を吸入したというのだ。
普通は、魔石と、良心の魔力と親しむためにおいておくだけの‥単なる玩具だ。
魔力が合わなかったら、子供がぐずる。
だから、母親の不貞があったらすぐばれるっていう‥怖い意味も持つ玩具だ。
だけど、親子であれば確実に魔力は合う。子供にとってはこれ以上にない精神安定剤なのだ。
魔力がない子供だったら、魔力酔いを起こしたり何かとダメなのだが、両親とも魔力があり、子供も確実に魔力があると分かっている王家では、当たり前のように枕元にこれは置かれていた。
一般の家庭だったら、両親ともに魔力が無かったり、魔石に込める程なかったり、そもそも(金銭的理由なんかで)ぬいぐるみなんて用意できないから、こういう風習はないと思う。(ちょっと脱線しましたね)
そして、兄上は寝ない子供だった。
リバーシの特徴と魔法使いの特徴。
それを我が子に確かにみた父王は、まだ物も言わない我が子の手に空の魔石を握らせてみた。
驚くほど、笑いも泣きもしないその乳幼児は、自分の魔力を魔石に注入し、そして、父親の手から魔力を吸収した。
まるで、遊ぶように、だ。
兄上は、生まれた瞬間から、「真ん中の人」‥王の跡を継ぐ者‥だった。
‥そんなある意味、『世界びっくり人間』みたな誕生ではなかった。
魔法のセンスがある、ちょっと優秀な子供。
その程度の印象。
そんな私の能力が判明する前に、サラージが生まれた。
彼は、生まれた瞬間からリバーシだって分かった。
日の属性を持った、火のように真っ赤な意志の強い目をした子供だった。‥今は、随分落ち着いて、違う属性の影響も出て来たから、私たちと変わらない紫寄りの瞳になっているが、生まれた時は本当に真っ赤で驚いたものだった。(今でも、怒ったりすると赤っぽく見えたりする。赤っぽく見えたり、反対に紫っぽく見えたり、サラージの目は本当に面白い)
赤の色が出るのは、王族もしくは、王に近い血族だけだ。
国民の瞳は、青だったり緑だったり黄色だったりが多い。緑が特に多い。それは、持っている属性の問題もある。水の属性持ち、風、土が多く、それらの属性持ちは、緑だとか黄色だとかの瞳の者が多い。火の属性を持つ者は、多少赤っぽい色が出ることもあるが、大概が他の風やら土やらの影響で茶色や、金茶色になる。
尊い血族だから‥
って、王族や王に近しい血族は言うけど、‥なんてことはない。
赤と青と黄色は三代勢力で、昔は三つの勢力が敵対していた。
だけど、赤がその戦いに勝った。
それだけだ。
昔は、それこそ、赤・青・黄色原色って感じの色だったらしい。
だけど、政略結婚やら、より強い魔法を‥血族を求めて‥今王族だけが赤い色が特に目立つ‥血族になった。
それだけ。
赤は、火の属性。
風と混ざれば、辺りを焦土と化し、水を滾らせ‥
国を焼け野原に変えた後、残った一族は、自らを戒め、水の一族の生き残りと手を組んで王となり新しい国を作った。
それが、この国だ。
だけど、‥それが最大勢力だっただけの話だ。
沢山の反対勢力は、そのあともずっと戦を仕掛けて来た。その反対勢力に、王になれなかった王族が混じったこともあったと聞いている。
ナツミという子は、‥その中の一つの生き残りだったのかもしれない。
ナツミという‥魔法使いの卵の女の子を見た時驚いた。
サラージより、赤が強い赤紫の瞳。
王族にしか出ないと言われている、瞳の色。
反対勢力に加担した王族の末裔‥。
聞いてはいたが、‥今まで見たことはなかったから、驚いた。
ナツミ‥赤紫の瞳をした魔法使いの子供。初めて会った私に、ナツミはヒジリを預けた。必死な顔で。
ヒジリ‥世界の災厄と呼ばれる程の魔力を持ったリバーシの子供を。
腕に預けられた瞬間、私は目を見開いたのを覚えている。‥それ程、驚いたことを‥覚えている。
手からじわじわと魔力がしみこんでくるような錯覚をした。
‥こんなことは初めてだった。
よっぽど魔力の相性がいいと、魔石を通さなくても魔力の譲渡ができるらしい。‥それは聞いたことはあったが、まさか本当にあるとは思っていなかった。
‥この子が、私の婚約者。
いい人かどうかは、分からない。
だけど、それは‥問題じゃないかもしれない。
この子がいれば、私は魔力切れを起こすことは無いかもしれない。
私は、そう魔力が高くないらしいが、魔法の才能は国で一番あるという。
魔力が少ない分、難しい魔法も沢山覚えた。
その魔法が使う為に、私は沢山の電池‥魔石を持っていた。
魔石がないと、大きな魔法を使うことは叶わなかった。
だけど、この子がいれば‥。
私は‥ラルシュという一人の人間である前に王族で、王のこと言えない位、腹黒なのかもしれない。
私は‥
私なりにヒジリを愛していける。
そう思っている。




