64.昔から。
ヒジリは、昔っから、計画性なんてまるでない子だった。
だけど、それはヒジリだけじゃない。
生まれついた才能を持っている者ってのは、‥そういう計画性ってものがおろそかになりがちだって思う。それは、仲間を見てても思う。
生まれつき魔力を持っていて、魔法が使えて、そしてお金に困ったことがない魔法使い‥あたしの先輩たちは、やっぱり、何処か抜けているし、‥甘い。
だけど、‥甘いなりに「親のいいなりになるばっかりでは嫌だ」みたいな甘い考えと、否、甘いからこそそう思ったのか‥。
だけどその結果、魔法が使えなくなって、国から目を付けられて、‥帰るところもなくなって、ただ、彼らの帰るところは、ここ(反政府組織と呼ばれているならず者の集団だ)だけになってしまった。‥それは、あたしも一緒だし、今更、彼らのことを軽蔑する気なんかない。
‥甘ちゃんで、常識がなくって、理想ばっかり言ってる人たちだけど、‥今ではあたしの大切な仲間だ。他人に容易に同意を求めらる「いい人」と、仲間内にしか分からない「いい人」ってのは、明らかに違うものだけど、‥仲間にとっては同じ「いい人」だ。
脱線したが。
ヒジリの話。
ヒジリは、生まれつき魔力が多くって、経済的には豊かな家庭ではなかったけど、優しい両親に囲まれた平凡な、所謂「恵まれた子供」だった。
世界の災厄っていう二つ名は、だけど、あたしにとっては羨ましさしかなかった。だって、それ程可能性に恵まれてるんだ。‥何でもできるんだって。
‥だけど、世間では勿論そんな風には思わない。
ヒジリのこと危険で、厄介な存在だって思ってるんだろうってことは、‥あんなに能天気なヒジリでも分かっていたみたいだ。
だけど、‥ヒジリは思いの外世間の悪意に対して「丈夫」で鈍感だった。
だけど、それは特別ってわけではなく、普通の子供らしい‥そんな感じだった。
くるくる変わる表情で、瞳をキラキラさせて、毎日それなりに、楽しそうだった。
深く考えるタイプなんかじゃ、全然ない。
思いついたが吉日ってタイプだった。
目標の設定もぼーっとした曖昧なもんだったし。それに対しての、具体的な計画って、そういう発想がなかった。
だけど、持ち前の元気とパワーで何とかこなしていた。
昔から考えすぎる傾向にあったあたしには、そんなヒジリが眩しかったし、同時にハラハラした。
‥大丈夫か? こんなんで‥。今はよくっても、将来困るぞ。
って心配したし、ちょっと腹立たしくさえも、あった。
頼りなすぎる「妹」(勿論ヒジリはあたしの妹ではないが、気持ちとしてはそういう感じだった)は、可愛いが、‥ちょっと腹が立つものだ。可愛いから余計に、腹が立つんだ。‥心配だから。
それに、‥「妹」が上手くやるのは、‥「姉」としては面白くないもんですよね?
だから、失敗して「ナツミ~」って泣きついてくるヒジリが、大好きだった。
‥馬鹿な優越感だってわかっていたけれど‥。
きっと今回だって、
「ナツミを倒すために修行する」
って位の目標しか立ててなかったんだろうな。
って思ってたのに‥
‥ヒジリだって、変わるんだ‥。成長したりするんだ。
あの、数分だってじっと座ってられなかった子が、論文なんか読んだり、自分のスキルと向き合ったり、ベッドで寝たままでも出来る限りのリハビリしたり。
読んだ論文に「魔力を作る指令は、身体に霊体が入っている状態でないと細かく作用しない。入れ物である身体は、魔力のオーバーフロー防止の為、ここ5日程平均的に使用した魔力量だけしか生成しない」って書いてあったから、無理に「使用魔力」を増やすために、「電池」作ったり‥。
そう。
電池なんか、作ったってリバーシは使えない。あの時作ってた電池はヒジリの為の電池ではない。‥もとより、電池なんて使えないから。‥ヒジリはうっかりしてたみたいだけど。‥今でもちょっとそこらへん分かってないかも、だけど。
電池を使えるのは、魔法使いだけだ。
魔法使いは、魔石を見たら咄嗟に「電池」だって思う。
魔石の用途はいろいろあるけど、‥込められた属性によって相性は‥ある。(血液型の様なものだな。自分の属性にない属性の魔力はやっぱり、相性が悪いんだ)
リバーシが魔力を込めた魔石は、魔力の純度が特別高くって、魔法使いに人気なんだ。貧困層の子供が、小遣い稼ぎに一日かかって注入する位の量の魔力だって、リバーシならものの数分で貯められる。
‥ホント、生まれつきの違いってものを目の当たりにすると、何も持たない者からが‥恨みや妬みみたいな感情を持つことだって、「仕方が無いこと」ってあきらめて欲しい。
あたしだって、憎かった。
悔しかった。
‥羨ましかったし、
でも、何より誇らしかった。
ヒジリにしかできない事もあるけど、でも、あたしだってヒジリに「凄い」って思われたいって思ってた。ヒジリはいつも言ってくれた「ナツミは凄い! 」って。「ナツミ大好き! 」って。
「ナツミはあたしの一番の友達だよ」
って。
だから、あたしは頑張ったんだ。
魔法の練習だって。
‥だのに、あたしはヒジリをいっぱい傷つけたし、それにヒジリをあんな目に合わせてしまった。
ヒジリが目覚めたって気付いた。
城には、結界が張ってあるから、攻撃も詮索も効かない。だから、今まで分からなかった。でも、‥あんまり魔力の放出量が多かったから、気付いた。
あんな所にいたんだ‥って。
一番最初に思ったのは、「あそこにいては手が出せない」だった。
両親に会うために、家に帰るかもしれない、そうじゃなくても、‥あっちの世界にいたヒジリがこっちの世界にも来るようになれば、いずれは隙も見せるだろう。‥あっちの世界に帰る時が、‥唯一のチャンスだ。‥その時しか手は出せない。
兎に角、城から離さないと、って。「反政府組織」のメンバーとして、ヒジリを捕獲するって考えが、一番に浮かんだのは確かだ。‥ヒジリは、莫大なエネルギー源で我々にとっては、喉から手が出る程欲しい存在だったから。
だけど、顔を見て、ヒジリが動いて笑っているのを見た時、「感情」が沸いてきた。
冷血な違法魔法使いとして、‥邪魔にしかならない「感情」。
‥嬉しい。
ヒジリともう一度会えてうれしいっていう「人間らしい」気持ちだった。
嬉しかったのに、だのに‥
嬉しかったから‥ヒジリにまた意地悪してしまった。
ヒジリが、あたしじゃない他の誰かと笑ってたから。
悔しくって、憎らしくって、意地悪してしまった。
直ぐに反省した。
ヒジリが泣いてしまうんじゃないかって。
じゃあ、‥慰めなきゃって。
「ごめんね。ごめん、ヒジリ。嘘だよ、あたしは今でもヒジリのことだが大好きだよって」
ヒジリのことが一番大好きだよって。
だのに、ヒジリは、泣いてなかった。
泣き虫だった以前のヒジリじゃなかった。眠っていたはずのヒジリは、別の世界で「起きて」「生活」していたらしく、成長していた。
‥成長している以上に、全く変わってしまっていたヒジリ。そして、あの時の王子(←ラルシュ)と知らない男たちに囲まれて、‥でも、泣かずに前を向いてた。
‥前を向くなら、‥一人で向けよ。
強くなろうとしているヒジリ。でも、‥強くはない。
強くなるために、もう、あたしに出来ることはないの? 頼ってくれるのは、あたしじゃないの?
悔しくって、憎らしい。
‥ああ。ヒジリはなんて遠くに行ってしまったのだろう。
忘れられるくらいなら、
‥嫌われてる方が、
ずっと、自分の事を考えてくれるんじゃないかって‥
そんな考え、自分が持つとは思わなかった。




