62.同じ気持ち
‥別にサラージと仲間意識を持つつもりはないが、気持ちは全く同じだ。
ナツミになんか渡すもんか。
それに‥ラルシュにも渡したくない。‥サラージなんて以ての外だ。まあ、婚約しているのはラルシュだから、ライバルはラルシュだけって思っていい。
だけど、サラージの想いは、‥少々面白くない。
素直で真っ直ぐで、‥邪まな想いなんて全然持ってないって‥清廉潔白ですよって‥自分で思ってる。でも、‥気付いてないだけでヒジリに対する好意は、第三者に筒抜けだ。きっと、ラルシュも気付いてる。でも、‥ラルシュだったら、弟のほのかな恋心を微笑ましい想いで見ているかもしれない。‥だけど、じゃあ譲るよとは言わないだろう。それは、ヒジリに対する好意ではない。そんなこと提案された時のサラージのこころを慮っているからだ。
サラージは、ラルシュに「誤解された」自分の行動を顧みて、きっと傷つく。そして、自分に「誤解された」行動があったことを、恥じるだろう。自分で自分が許せないとすら、思うだろう。
それに
恋敵に、譲るよと言われる屈辱。
そのことにも、サラージは傷つくだろう。
‥俺だって、嫌だ。
正面切って戦って奪い合ったならともかく、だ。圧倒的優位な立場にある者から「譲るよ」だったら‥絶対腹が立つし‥嫌だ。それはきっと、サラージだって同じだろうし、そんなことに気付かないラルシュでもないだろう。
‥そんな色々な感情が容易に想像できる。
だから、ラルシュはきっとそんなこと‥サラージに譲るよってこと‥を言わない。
そこに、兄弟に対する愛情はあれ、ヒジリに対する愛情はない。
否、‥サラージの気持ち云々すら関係ないかもしれない。ただ、「そういう決まりだから」。‥わが友ラルシュは、淡々と「決められた」ことをこなしていくんだろう。
でも、それは誰にとっても良くない。
ラルシュはヒジリのことを「サラージの想い人」として扱うだろう。‥たとえ、表向きはラルシュの妻だとしても、だ。‥手すら触れないかもしれない。(もともと、そういう扱いをしても誰からも責められない前提もあるしね)‥ヒジリは、ラルシュの妻というのは名ばかりで、城に幽閉されることが決まっている存在だから、だ。
「ヒジリの気持ちが分からない。‥命を粗末にするものが国民にいるなんて、‥王族として最悪だ。一人一人に向き合うことは流石に無理だとは分かってはいる。だけど、今回の場合、相手が「反政府組織」だ。国の敵に一般市民一人を差し出すなんてこと、国として出来るわけがないではないか。‥ヒジリは何もわかっていない。‥我が儘で自惚れたガキだ」
「自惚れた? 」
「そうさ。いくら世界の災厄って言われる程の魔力を持っていようとも、その使い方も分かっていない‥使いこなせてないヒジリに何ができるのさ。使いこなせてない武器程怖いものはない。‥相手に渡れば、最悪の結末を与えるって分かってて‥ああ、そうか。俺は、国としてヒジリを拘束する義務がある。理由は、国民の安全を守る為、だ」
サラージは苛立ちを隠せない顔で言った。
ミチルに横顔を向けたまま視線を真っ直ぐ窓の外に向ける。苛立ちと‥怒り、そしてすこし悲しそうな顔‥で、口をきゅっと結んでいる。
‥怒り‥、違うな、これは‥悔しさだ。
好いた相手を、自分で守る事が出来ない悔しさだ。
‥そして、自分が頼られることは絶対ないって分かっているのが悔しいんだ。
そんな表情を、隠せない‥隠さない素直さが、‥ミツルには鼻についた。
青臭い。
ホントに、ラルシュとは大違いだ。
もうちょっとは、王族としての自覚を持て。
でも、
同時に、『羨ましい』と思った。
若さと、素直さが、‥自分にはない眩しいもののようにみえた。
「素直じゃないですね。‥正直に「心配だからやめろ」って言えばいいのに‥。いいえ、‥サラージ様しかそう言える人はいない‥」
だから、ちょっと意地悪をしたくなったんだ。
「は? 」
初めてサラージがミチルを振り向く。
そのことを知っていた‥気付いていたミチルは、つ、と窓辺に移動してサラージの視線を避ける。
‥見つめ合って、青臭い会話をするなんて、ごめんだ。
「ラルシュは、国民とヒジリの命を天秤にかけたら、国民を選ばざるを得ない立場です。‥俺は彼女を止められるほど、彼女に対して発言力もないし、‥信用もされていない。‥だけど、サラージ様も王族だけど、ヒジリの義理の弟になる人だ。「国として」ではなく「弟として」ヒジリを止めることが出来る。あれで優しいところがあるヒジリだ。弟がお願いしているのを無視することはできないでしょう。‥(ショタっぽい)あざとい「お願い」得意でしょ? 」
「あざとい‥」
サラージが不満らしい声で繰り返す。
ちょっとあんまりな言い方だったかな。‥不敬罪で殺されたりしないかな。(ってか、今は肉体を伴っていないから、死なないのかな? それとも、霊体的なこの「身体」が死んだら、あっちでも「目覚めない」って感じで死んじゃうのかな? )
だが、サラージなら‥許してくれる‥気にしないんじゃないかなって気もした。
さっきも「敬語じゃなくていい」って言ってくれたし、‥何より馬鹿じゃない。
今が「そんな場合じゃない」ってことくらいわかるだろう。
サラージは俺たちと同じ、『リバーシ』だ。
気が遠くなる程の時間を持て余し、孤独を強いられた一生を過ごすことを余儀なくされている。
サラージがリバーシの事をよく知っているのを、王族故知識があるのだと思っていたが、自分の事として当たり前に知っていたのだ。‥気付いてやれなかったことが悔やまれた。
だけど、今はそれはそれ、だ。
サラージの強さと、‥賢さを信じている。(一応、敵だけど、まあそれ位はね)
「幼子ではあるまいし、そんなことが出来るか。‥だが、‥ミチルが俺にしかできないっていうんだったら、‥仕方が無い。‥努力してみる」
サラージは、本当に不本意という顔をして言い
「魔法使いの学校の件は調べておく、だが、その結果は本人に直接しか言わない。王族を利用するんだから、それ位の礼儀は払え、とヒジリに伝えて置いてくれ」
と付け加えた。
ミチルは、口の端にだけ笑いを受けべて頷いた。
サラージと組む気はないが、気持ちは同じだ。
引き留める役目は、サラージに譲る。‥俺には出来ないだろうから(決して、ヒジリに恨まれるような役割が嫌なわけではない)
言えるわけがない。手伝っているけど、‥でも、やっぱり君には無理だ。とか、‥言いたくない。
だけど、
‥言わないといけない。
最終的には、言う。
言って、それでも無理なら、泣いてすがって‥
いざとなったら、‥でも、縛り付けてでも止める気ではいるけど、‥止める手は多い方がいい。
俺は、‥ヒジリを失いたくない。




