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リバーシ!  作者: 大野 大樹
55/78

54.怒らせては、ダメな人。

 日曜日。

 その日は朝から、大雨が降っていた。昨日帰宅時には振っていなかったから、寝ている間に降り始めたのだろう。

 週末だし、と昨日は自宅に帰ることにしたのだ。スーツも2着の着回しってのもどうかと思うし。

 夕方、久し振りに家に帰って来た俺を見て、母さんは呆れた様な顔をして、そのあと、キッと目を吊り上げさせて

「あんた女の子が毎日男の人の部屋に泊まったりなんかして! 」

 って、説教を始めた。

 俺は、一瞬母さんが何を言っているのか分からなかった「無断外泊するな心配するから連絡位しろ」っていうならまだしも、男が男の家に泊まるなって怒られるとは思わなかった。

 俺は見た目はどうであれ、心は男だ。それはミチルだって知ってるし、問題はない。これは、「多分」とかじゃなく、確定だ。

 それこそ、俺にも、ミチルにも失礼だ! 

 ていうか、‥何が「女の子が」だ。母さんがそれを言うか! 今まで男として育ててきたのじゃないのか?! 理不尽さに、つい言い返したくなるが‥説教が長くなりそうなので、やめる。後ろに居る父さんも(今日は珍しく早かったようだ)腕をくんで、うんうん、と母さんに賛同してるっぽいし‥。

 それどころか、‥もしかして怒ってないか?? ‥珍しいこともあるもんだ‥。

 まあ‥やっぱり、娘の両親ってのは大変だな‥ってことかな‥。

 ふう、

 俺は小さくため息をついて

「何もないわけだし、別に心配しなくても大丈夫だよ。仕事も毎日行ってるし。さぼってなんてないし」

 仕事のことを言っているんだったら、問題なく毎日ミチルの家から行っていた。ただ、時間がもったいないんだ。俺には時間はない。ミチルに分からないことを聞くにしても、ミチルにだって時間がない。

 これだけは言っておこう、って思ったら、なんか‥ちょっと口をとんがらせて‥拗ねた様な顔をしてしまった。

 子供みたいな‥ってか、女子みたいな顔しちゃった‥。

 恥ずかしいから、視線を逸らす。

「女の子の家に泊まり込んでるんだったら‥いや、それでも俺はそういう気なんてないから安心なわけだけど‥世間的に見たら問題あるかもしれないけど‥。男同士なわけだし‥。

 ‥時間が足りないんだ。本当に‥」

 だから、効率のことを考えて、ミチルの家に泊まり込むことになってしまった。

 っていうか、

 俺は寝ないんだけどね。

 ミチルが寝てる間も、俺は一人あれこれ考えて、浮かんだ質問やらなんかを、ミチルの時間が許す限り質問していた。悔しいかな、学校に行けていない俺(※10歳以来ずっと本体は眠ったからね。こっちの仮の身体は、あっちの記憶なんてなかったし)は、スキルのことをあんまり知らないし‥こっちでのスキルの使い方やなんかはミチルの方がずっと知っている。母さんたちも知っているだろうが、やっぱり生活魔法程度しか魔力がない普通の人と、リバーシは違うし‥。そもそも、「狙われてるから、どうしても強くなりたい」なんて‥母さんたちには言えるわけない。

 そんな理由から、ミチルに教えてもらっていたに過ぎない。俺的には、初めて出来たリバーシ友達の家に入り浸ってた。って言えばいいだけの事だと思ってたのに‥白状しなきゃならなかったら‥どうしよう。

 二人に心配はさせたくない。

 そう思ってたのに、二人は「別のこと」を心配している様だ。

 ‥よくわからない。


 世間一般の『やましいこと』は俺たちには当たり前なんだけど、当てはまらない。


 ‥母さんたち、そんなこと考えたり心配したりするんだ、って思うと、‥ちょっと苦笑してしまった。

「時間がないって、あんた‥。もしかして、何か‥何か悪いことに巻き込まれてるの? この前、急に消えて‥戻って来てから様子が変よ? 」

 母さんの顔色がすっと悪くなる。

 その顔を見て、

 ‥あ、しまった失言した。

 って気付いた。

 父さんが

「何のことだ? 」

 と、母さんの後ろから出てきて俺を見る。

 さっきまでの、不機嫌そうな「娘の父親」って顔とは違う。

 怒っているのとはちがう、真剣な目をしていた。

「‥‥‥」

 久し振りに父さんと向き合うと、‥ちょっとびっくりした。今までは‥男の姿をしていた時はちょっとだけ俺より小さかった父さんが、今この身体では、10センチほども目線が上にある。

 そのことに、ちょっと驚いた。

 ‥そんな場合ではないって‥分かっているんだけど、‥驚いた。

 今日は驚くことばっかりだ。

 自分は思った以上に‥現実逃避してしまう位に‥動揺しているのだ。そのことにも、‥驚いた。

 ちょっと目を逸らして口を閉ざしたままの俺を

 だけど、父さんは見逃してはくれない様だ。

「ヒジリ‥どうなんだ? 」

 俺の目を真っ直ぐに見降ろして、父さんは怖い程真剣な顔をしている。

 依然と目を逸らしたまま‥でも、隠して置けるものでもないな‥って思った。

 小さくためいきをついて、ちょっと決心を固め

 ぼつり、

「‥反政府組織に見つかった」

 呟いた。

 正確には、ナツミに、だ。

 だけど、「ナツミに」とは言いたくなかった。この期に及んで、俺は‥ナツミのことを母さんたちに悪く言われるのは‥嫌だった。ナツミをかばったわけではない。‥ナツミに騙されたことを認めるのが嫌だったってのが‥正しいかもしれない。

 母さんにタンカ迄切った。

「ナツミは悪くない」

 って。でも結果が‥これで。

 自分の目が曇ってたって、自分で認めるのが嫌だった‥だけだ。

 ナツミをかばったわけじゃ、絶対にない。それ程は、俺は‥おめでたい性格じゃない。

 咄嗟に言ってしまったものの、口に出した瞬間

 ‥マズイ。なんか、思った以上に大きなことだ。これ。

 って思った。

 敵は‥そうだった。ナツミ一人じゃないんだ‥。

 ‥そうなんだ‥。ナツミは今は反政府組織に居るわけだから、‥ナツミに見つかったは、イコール反政府組織に見つかったことなんだ。

 幼馴染との‥仲たがいって

 そんなちっちゃなことじゃ、事態はなかったんだ‥。

 それに気づかされ、‥顔から血が引いた。

 そんな俺を見て

「‥な‥ヒジリ‥」

 母さんは、絶望的な顔をして、言葉をなくし

「‥どうして言わなかったんだ‥」

 父さんは、目を見開いて‥次の瞬間、怒りをあらわにして俺を睨んだ。

「く‥っ」

 その顔を見て、我に返った。

 ‥そうだ、気落ちしている場合じゃない。

 俺は、自分に気合をいれるためにも父さんの目を睨みえすと、

「狙われてるのは俺だ。俺だは誰も‥巻き込みたくなかったんだ。相手が、俺だけを指定して来てるのに、誰かを連れて行くのは、嫌だ。卑怯者にはなりたくない! 」

 男らしく、言い切った。

 だけど、父さんは更に目を吊り上げて

「何を言っているんだ! そんな‥己の矜持で動くような次元じゃないだろう?! 相手は、組織なんだぞ! 殺されに行く気か! お前が犠牲になれば済むって問題でもない。お前がしようとしているのは、ただの無駄死にだ! 」

 今にも、俺に掴み掛りそうな勢いだ。

 母さんは、ショックで顔色をなくしてその場に座り込み、すがる様な目で父さんと俺を見ている。

 そんな姿は、確かに目の端には入っていたが

「じゃあ、どうしろって言うんだ! 俺が出なかったら、周りの人に被害や及ぶよね?! それに、逃げ回っても、来る。仕方が無いじゃないか! 無駄死になんてしないよ! 俺は、俺が死んだって、止めるさ! 俺を情けない奴だと思わないでくれ! 俺は、人間爆弾だし、世界の災厄なんだろう?! 」

「ヒジリ‥! 」

 母さんが‥いつもは気丈な母さんが、血を吐く程叫んで、

 泣き崩れた。

 だけど、‥俺は止めるわけにはいかなかった。

「‥逃げられないなら、それに備えるのは当たり前だし、自分のタイミングで攻めていく方が優位だろ?! 」

 俺は、あえて母さんには触れず、強い口調で父さんに言った。

 ここで俺が弱気になったら、ナツミに気持ちでも負けることになるし、母さんも今以上に心配する。

 なにより‥男として恰好がわるい。

 まだ、そんな意地位はれる。

 ‥逆に、そんな意地も張れないようになったら、もう気力的にも、ヤバい。意地が張れている間は、大丈夫だ、と自分に言い聞かせる。

 父さんは、ぐっと唇を噛む。その唇が、ぎりぎりと噛みしめられているように見えた。

「‥攻めていくって‥。お前は、お前に何が出来るっていうんだ‥! 戦い方どころか、今まで、スキルのことすら忘れていたって言うのに‥! 」

 暫く俺を睨んでから、血を吐くように叫ぶ。

 その大声に、母さんがますます顔色をなくして、父さんを見上げる。

「ヒジリ‥っ! 」

 父さんの顔が怖い。‥こんなに怒った‥心配した父さんの顔を今まで見たことがない。

 俺は、父さんをもう一度睨み返した。

 息を‥乱れた息をむりやり吐きだすと‥驚く程、冷静になれた。

 否、冷静になった気になった。

 自分の総ての感覚が研ぎ澄まされたようだ。周りの音や、父さんたちの息遣いまでがはっきりと分かった。

 家の外で、雨音が一際激しい‥滝のような音をたてた。

 なんなら、嵐か? というような音。

「父さんたちは、‥ヒジリに死んでほしくなんて‥ない‥! 」

 父さんの、心臓の音が痛い程強く‥大きく聞こえた。

 生命の音。

 いきてるって音。

 sideA‥。この平和な世界に居る限り、俺は‥俺たちは誰も、そうそう生命の危機を感じたりはしない。‥まっとうに生きている限り、生命が保証される国。‥だけど、ここでもあっち(sideB)でも‥生命の危機っていうのは、実は割と身近にある。

 ‥まさか、自分にそれが迫ってこようとはね‥。

 ふう

 目を瞑り、大きく息を吐くと、

 今度は、‥何の音も聞こえなくなった。

 落ち着け。大丈夫だ‥。

 ‥熱くなっても、仕方が無いんだ。

「俺だって、死ぬ気なんてない。‥死にに行くわけじゃない。‥だから、自分なりに考えている。分かってよ‥。俺には、‥逃げ道もないし、‥本当に時間もない。本当に‥切羽詰まってるんだ‥っ」

 前を向かないと。

 今までちょっと、‥のんびりし過ぎたな。

 俺に、‥遠回りしている時間なんてないって言うのに。

 ざあざあ ざあざあ

 窓の外では雨が、まるで川みたいな勢いで窓ガラスを洗っている。

 川ってか、ちょっと濁流みたい。

 記録的大雨ってやつかな。


「‥あ、貴方‥。そんなに怒ったりしたら‥」


 母さんの震えた様な声が聞こえた。

「? そんなに怒ってなんか‥」

 母さんを振り向き、俺が首を傾げた。

 そういや、『俺が怒り過ぎると天災が起きる』んだっけ?

 ‥この雨か!?

 青くなる俺に、母さんが首を振る。

「ヒジリじゃない。‥父さん、よ」

「あ‥」

 父さんが慌てて庭に出て行って、‥立ちすくんでいる。

「‥‥‥」

 母さんも後を追って行って、庭を見る。

 それにつられて俺も庭に出て行く。

 雨の中どうしたっていうんだ?


 ‥‥‥


「え? 」

 ‥なんだこれは‥?

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