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リバーシ!  作者: 大野 大樹
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50.思い当たる『手がかり』②

 電車で揺られながら

 ‥あそこ(sideB)の国民はまだ知らないんだ。まだ、ヒジリとラルシュが婚約してるって知っているのは、城だけなんだ。国民公認じゃないんだ。

 ってぼんやり思った。

 ‥じゃあ、まだセーフじゃないか。

 って。

 ある日、城に連れてこられたスリーピングビューティー。

 寝てるあの子を、王様や城の人たちはは

「この子は、ラルシュの婚約者だ」

 って言った。

 ラルシュに。

「婚約者を助けて偉いぞ」

 って。

 ラルシュも何も否定しなかったから、

 ‥そうか、もうこれは‥覆せない事実なんだ。

 ってまだ幼いながら俺は思った。

 だけど、それでも恋をした。

 この子の目を覚まさせるのは、俺だって、子供ながらに思った。



 無理だって思い始めたのはいつだったかは分からないけど、‥多分、俺の方でも現実を見始めたんだと思う。

 だって、何年もずっとお姫様は目を覚まさないし、ラルシュはいい奴で、「こいつなら幸せに出来るだろう」って思えたし、

 何より、

 ‥もう、お姫様の目覚めを待つって年でもないだろ。

 って自分自身が思ったからだろう。

 手に入らない夢みたいなものより、身近にいる、「現実的」なものを探した方がずっと建設的だって自分の中で納得がいったから。

 だって、眠っているお姫様はしゃべらないし、手を握っても握り返してもくれないし、俺に微笑みかけてもくれない。

 それどころか、俺は、このお姫様の目の色が何色かすらも分からなかった。

 お人形遊びって年では、もう既になくなっていた。

 付き合ってる間に分かったんだけど、ラルシュは見た目通りの「優しい王子様」じゃなかった。可哀そうな婚約者を心配して目覚めるのを待っている‥そんな優しい王子様じゃなかった。

 多分、気にもかけてなかったと思う。

 こいつは、きっと政略結婚で「明日、見ず知らずの姫と結婚しろ」って言われても、別に何の感情も持たずに了承しそうなくらい冷めきったやつだ。それどころか、その姫が「貴方とは、所詮政略結婚で、私は他に好きな人がいるわ」と言ったとしても、笑って許すだろう。‥この笑ってっていうのが怖い。確実に、心の底では軽蔑してるのにそれを表に出さないっていうね‥。

 そんな、冷めきったやつだ。

 別に‥だからといってダメなわけではない。恋愛にクールだってだけで、ラルシュ自体は国民想いのしっかりした奴だし、弟にも優しいし、友達だと言ってくれた俺にだって優しかった。

 ‥多分、恋愛ってもんが分かっていないんだろう。

 だから、王子として自分に課せられた仕事の一つとしか考えられないんだろう。

 だけど、王子なんだし、‥そんなもんなのかもしれない。

 ‥サラージは、まだ人間味があるね。

 そういえば、‥長男とはしゃべったことがないな。見たことはある。

 ラルシュとサラージが紫っぽい目をしてるのに対して、長男(ミチルは名前も覚えていない。因みに、サイダラールという名前)は、碧眼だったな。顔もあんまり似てなかった気がする。まあねえ、王妃様も一人じゃないから、みんな母親が違うとかもあるのかもしれないねぇ。

 ‥王家ってやっぱ世界が違うって思うね。‥実際違うんだけど。世界。

 「実際違う」っていう突っ込みに、自分で考えたことなんだけど、ちょっと笑ってしまった。


 ‥実際に、国は違うんだけど、‥今現在ヒジリはこの世界に居る。‥別に返さなくっていいんじゃないかな? 

 そんな気がしてきた。



 仕事終わりを見計らって、ヒジリをヒジリの会社まで迎えに行って、当たり前の様に自分の家に連れて帰った。今は、二人で鍋を囲んでいる。

 ガラスの机の上にカセットコンロを置く際、一瞬躊躇した。

 ‥今度、天板が木のテーブルを買ってこようと思う。どうせなら、こたつにも出来るのにしたら、冬は一緒にこたつに入れるな。

 なんて思ったら、すごく楽しみになった。

 よし、今度買いに行こう。

 何となく頭を上げたら、向かいには、ヒジリがトンスイに盛った白菜をフーフーしている。机が小さいから、凄く近い。俯きがちになっているから、ミチルが自分を見ていることにも気付いていないだろう。

 スーツやカッターはしわになるから、ハンガーにかけて、部屋着になっているのが新鮮だ。お泊り様に置いてある自前のお着換えセットだ。ヒジリになって一回り小さくなったから、男物の『聖』の時のトレーナーが所謂『彼シャツ』みたいになっているのが、可笑しかった。

 土鍋もトンスイも、今日鍋をする為に駅前の大型ホームセンターで買ってきた。

 ホームセンターなんて、今まで行くこともなかったけど、こたつも売ってたし、また行こうと思う。大きなものを買うときには、トラックを貸してくれると書いてあったから、ついでにこたつ布団も買っておこうかな。

 ホームセンターって、なんだか家族向けで面白いな、って思った。

 トンスイの中身をフーフーしながらも、真面目なヒジリは、真面目な話をしている。

 今は、今朝の話の続きだ。

 sideBの成人の儀式が成人式とは違って、魔力の測定と就職活動の場って話だ。



「成程ねえ」

 ふうん、とミチルが言った。

 ‥そう言えば、ミチルもリバーシだけど、そういうことはしなかったのかな?

 ミチルに確認したら「してない」って言われた。「多分、城の人以外俺のこと知りすらしないんじゃないかな」って。

 ‥まあ、そうだわな、夜しか来ないしな。わざわざお披露目とかおかしいかな。

 って、ヒジリはあっさり納得した。

「リバーシと王族が結婚することって、割とよくあること? 」

 ミチルが冷蔵庫から持ってきたミネラルウォーターを、500mlか600mlかのペットボトル毎渡してくれたから、グラスを頼んだ。

 ああそうなんだね? 

 なんて言いながら、ミチルの分のグラスも持ってきたようだ。

「いいや? ないと思うよ。母さんたちも驚いてたから、母さんたちが知る限りでもなかったんじゃない? 」

 グラスを受け取りながら、ちょっと首を傾げてヒジリが答えた。

「特別‥ってことか」

 ミチルが頷く。

「そうだろうね」

 ヒジリも頷く。

「危険だから? 」

 ぷしっ

 ペットボトルをあけて、先にミチルのグラスに注いで、自分の分にも注いだ。

「危険だから」

 自分の席に座り直して、頷く。

 その間、女らしい仕草は、全くない。ヒジリは全然何の意識もしていない。

 普通に、男同士で鍋をつついてるって思ってる。だのに、‥やっぱりヒジリはミチルにとって女の子でしかなくって、普通に意識している。だけど、ミチルはそれを表面に出したりなんかしない。

 紳士だから、とかじゃない。

 ただ、「意識しているのがバレたら、普通に接してもらえなくなる。警戒されては困る」からだ。

 長期戦を決めたミチルには、そんな抜かりはしない。

「酷いね」

 今だって、自分の話をしているのに、まるで別の女の子の話をしている位、淡々と話すヒジリに合わせるように、ミチルも淡々と話している。

「酷いよね」

 ミチルの意見に同意したヒジリは、相変わらず他人事の様に、でもその「他人のヒジリ」に対して同情している。‥変な話だ。

「それって、誰に聞いたの? 」

 ふと、気になって聞いた。

 まさか、王様が言うわけは無いだろう、って思った。じゃあ、ラルシュだろうか? だとしたら、‥あいつ、ひどすぎるだろう。って思ったんだ。

「サラージ様。 ‥お! 」

 お玉で白菜の下にあった海老を引き当てたヒジリが一瞬、嬉しそうな顔をする。海老が好きなのだろうか? 今度は、海老の量を増やそう、とミチルはぼんやり思った。

「‥ふうん‥」「‥前例がないこと‥かあ」

 そっちの方に気を取られたから、自分で聞いたことなのについ返事がなおざりになってしまったが、そんなことはミチルもヒジリも気にしていなかった。

 しめはうどんにしようかなあ‥、おじやかなあ

 なんてミチルが思いながら聞いていると

 かたり、とトンスイの上に箸を揃えて置くと

「多分。ラルシュ様だったから‥だったのかなって‥というか‥ラルシュ様と‥サラージ様両方」

 ぼそっと、ヒジリが呟いた。

「え? 」

 箸をおいたヒジリに、ミチルがほぼ反射的に顔を挙げてヒジリを見た。

 あれ? 何の話してたっけ?

 ラルシュとサラージがどうしたっけ?

 俯いていて、ミチルを見ていなかったヒジリは、ミチルの変化には気付いていない様だった。

「ラルシュ様は‥多分‥魔法使いか‥リバーシだ。サラージ様も同様だ」

「‥え‥? 」

ミチル、ヒジリを見すぎ。


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