43.ショートカットキー
世界をつくるのは、天才ではない、秀才だと私は思う。天才なんて、そういないわ。そんな1%にも満たない奇跡的存在でないことを悔やむより、凡人であることを認めて、秀才になるべく努力をすることの尊さ‥。人生において最も素晴らしいことは、汗と涙と努力でしょ!
ナツミの持論。
もう、「口癖か」って位にそのセリフを言っていた。
そして、彼女はそれを実行して来た。
あの言葉を何度も口にしながら。‥自分に言い聞かせ、俺を諭すように。
彼女が、座右の銘であるあの言葉を、俺にも言ってきた理由‥あれこそが、彼女の優しさだった。
彼女から見て、俺は、「天才」だったことを、驕っていたのだろう。
人間驕っている間は、更なる進化の為の努力をしない。『おごれるものは ひさしからず』っていうのは、不変の原理だ。
ナツミは、俺が奢っている間に、努力する秀才に追い越されるよ、と忠告してくれていたのだろう。
そして、‥自分こそがその秀才だって言っていたんだ。
友としての忠告と、ライバルとしての宣戦布告。そして、‥純粋に『利用できる実験動物』。『純粋』はおかしいか。‥世の中に、『純粋』なんてものは、ない。
好きなのに、嫌い。
嫌い過ぎて‥離れられない。
ナツミは‥俺が、嫌いで、憎くて、‥俺の愚かさ故に、ちょっとほだされたりして‥何故だか離れられなかった。‥愚かな俺が、愚かな『他の人間に』ぎゃふんといわされ(いずれ言わされていただろう)『他の人間によって』改心させられるのも悔しかったのかもしれない。
好きだから、ではなく、それ位嫌いだったから。
嫌い過ぎて、執着してしまう。その行動は、だけど、‥好きと似ている。
好きと嫌いはそれ程紙一重なんだ。
だけど、本当の天才は、ナツミだった。
魔力量がでたらめで、思いついたスキルで出来なかったことは無かった俺は、あの時のナツミには天才って風に見えたのだろう。
だけど、スキルと魔法は違う。
スキルは、ショートカットで固定るすることが出来る、『状態異常』の進化版にしか過ぎない。
子供の頃の俺は、普通よりちょっと発想が豊かで、普通よりずっと勉強していなかった。
「でたらめなチートと、分類できる能力」
ミチルが教えてくれた、学校で学び損ねた「状態異常』理論。
俺がさぼってたってのもあるんだけど、‥虐められてたとか色々あって、インテリ眼鏡が先生だった私たちは、普通の勉強をあんまりしてきていなかった。‥いや、認める。多分、理論みたいなものは、もっと前に勉強していた。俺が‥していなかっただけだ。
ミチルは、ラルシュから教えてもらったらしい。魔法が当たり前にない世界に居たら、「何が何だかわからない」のも無理がない。むしろ、当たり前にある方が「まあ、使えればいいじゃない」に陥りやすい‥よね? そうだよね?? 俺が怠け者なんじゃないよね?? (‥いや、いいです。認めてますから‥)
ミチルは、だけど、俺の不勉強を呆れたりなじったりせず、混成丁寧に説明してくれた。
‥学校もこれ位丁寧だったら、俺聞いたと思うよ? あっちの先生って「俺天才」「教えてやるから心して聞け」って感じな人多いんだ。
「俺の、スキルを、『ヒジリに具体例を説明するために』見せるね。
スキル:最上位 詮索
中級隔離空間制作(状態異常)
上級、行動制御(状態異常)
状態異常:空間の状態異常
意識の状態異常(昏睡)
属性: 風、水
この、最上位 詮索が、でたらめなチート、他の中級、上級ってなってるのが、分類できる能力」
『詮索』のスキルを持たない俺は、ミチルが『情報開示』をしてくれないと、自分のスキルすら分からない。情報開示っていうのは、ミチルオリジナルのスキルで、第三者のステータスをスキル使用者が認めた第三者に開示できるスキルだ。
魔法に近いんだけど、魔法と違って、開示理由を明快にする等、制約がある。そして、誰にでも、誰の分でも開示できるわけではない。
「違いが分かる? 」
聞かれて、『心当たり』があったので、頷いた。
さっきのミチルの例をみて、その心当たりがあながち間違っていないと思ったのもあるし。
「俺の水は、‥でたらめなチートだよね? で、土属性の‥『金属で‥』は、分類される分。違う? 」
「正解。理解が早いね」
ふわりとミチルが柔らかい微笑みを見せてくれた。
「心当たりがあったんだ」
その微笑みの破壊力に、思わず赤面してしまい、俺は視線を外し、心なし俯く。
性別関係なく、美形の微笑って身体に悪いね‥!
国見や吉川だったらこうはならないぞ‥。
あ、でも女の子が嬉しそうににぱ~って笑ったら、ついつられて笑っちゃうかも。嬉しそうな女の子って、最強だよね‥っ。
よし、さっきまでの動悸が収まった。
「心当たり? 」
俺の心の中の戦いを知らない呑気なミチルは、何の疑問も持たず話を続けて、ちょっと首を傾げた。
「うん」
顔の熱が引いた俺は、顔をあげてミチルを見る。
「水を沸騰させたりするのは、本来水と火の力がいるって母さんから聞いて。俺は、そんな括りないなって。もっと、アバウトな感じで水なら何とでも出来るなって。だけど、金属で‥は、あの通り修行が遅々として進まない」
若干ドヤ顔で話し始めたのだが、金属で‥の部分を話し始めると、自分で言ったのだが、ちょっと心がしぼんだ。
「前に見せてもらったけど、ヒジリの水は‥魔法に近いね。でも、魔法じゃない」
俺が頷くのを確認してミチルが言葉を続けた。
「本来、リバーシっていうのは、魔法を持つ者が多いというけど、ヒジリは‥俺もだけど魔法が使えない。そして、‥敵は魔法使い。一番の問題はそこだね」
俺は今度も黙って頷いた。
‥そうなんだ。まったく、その通りなんだ。
リバーシが魔法使いであることが多い‥というか、逆に魔法が使えないヒジリの方が少数派だってことは、前に母さんに聞いた。ミチルも使えないが、それは魔法がないsideA出身だからだろう。
その代わり‥みたいなのが、俺とミチルにある魔法に近い「でたらめなチート」なんだろう。
状態異常には、核がいる。水のないところに水を出すことは出来ない。水を何もないところから作ることは出来ない。元々水がある状態から、それを増やしたり、減らしたり、凍らせたり‥する。普通の状態異常より括りなく、水を変化させることが出来る。
魔法使いは、リバーシより更に『括り』がない。正しい呪文だとかイメージだとかがあればさえ、状態異常の様に「理論」が要らない。
俺の様に状態異常しか使えない者は、沢山の理論を先に作って置いてショートカットを作って、スキル化させて、使用の際わざわざ引き出してくる必要がある。
水を「沸騰させて」さらに「温度をあげていくことによって」「蒸発させて」「気化させる」
これが、「気化」のスキルの理論だ。
スキル化しているから、わざわざ、4つの工程の理論を展開させたり、呪文として唱えたりする必要はない。
魔法は、違う。
普段から、そんな理論なしに『魔法』が使える。どんな精神状態であっても、だ。
水→消すと命令する。
それだけ。
「ともあれ。自分がもっている力を最大限に利用して戦うしかないね。ヒジリの強みはどう考えても水だ。水を中心に『金属で‥』は補助的なものと考えておいた方がいい。、‥水の攻撃魔法を極めよう」
俺は黙って頷いた。
もとよりそのつもりだ。
攻撃魔法。
魔法っていっても、実は所詮、状態異常の超進化版的なものだ。
俺のことだから、水で説明すると
水を「沸騰させて」さらに「温度をあげていくことによって」「蒸発させて」「気化させる」
さっきの「気化」のショートカットなんだけど、実はこれは生活に便利な程度にしか活用できない。
だけど、理論は一緒。その威力とか、そういったものが違うだけだ。
それだけのことなんだけど、これを攻撃のレベルにまでいつでも持っていけるかと言われると、そうではない。いつもは、所詮「雨が降って濡れたから、乾かそう」って程度の力しか出ない。「迫りくる濁流にのまれたから、一時的に大量の水を一気に気化させて(または凍らせて)窮地を脱しよう」って位の力はだせない。
つまり、‥それ程の非常時じゃないと、大きな力は出せない。
状態異常を魔法に『近い』ランク迄無理矢理進化させた、非常時限定の『魔法』。
精神的に追い込まれ、普段以上の力が働くことによってのみ、発動される『魔法』
だから、‥攻撃魔法は魔法には勝てない。
「魔法使い‥ナツミには‥、状態異常ごときでは勝てない」
でも、俺はその無敵ででたらめな魔法使いより、魔力がある。
その魔力を有効利用できるか、出来ないかってのが問題なんだ。
現地点、‥俺は、この魔力の有効利用法が分からない。
だけど、「世界の災厄」って呼ばれてるような量なんでしょ? 有効利用したら、きっとまずい。
だから、力をセーブしながら、自衛する方法を考える。
状態異常のマスターだからこそできる、防衛という戦い方。
誰も傷つけない、俺なりの戦い方。
俺の戦いに、ヒーローも勝者も要らない。
敗者もない。
俺も負けないけど、ナツミも負かさない。
綺麗ごとだとでも、何とでも言えばいい。
俺は、‥俺のリアルを曲げる気はない。その為に強くなる。イニシアティブを俺が取らないと、勝者・ 敗者が出るのを避けられない。‥どちらかが死ぬことになる。
殺さなければ、殺される。なんて、‥俺のリアルにはない。




