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リバーシ!  作者: 大野 大樹
42/78

42.凄く運動神経がないんじゃないとしたら、‥ヤバい人じゃね? って巷の噂になっています。

 金属によって、その性能が違う。

 この前たてた仮説だ。

 仮説といっても、これは恐らく間違いでは無いだろうと俺は思っている。

 だから、あとは、どの材質が、どれ程の力を止められるか‥という話だ。

 生憎、大学は経済学部で‥実験とかとは無関係に生きて来た。

 しかも、‥統計とかそういった方ではない、専攻ゼミは経済学史だ。経済学の歴史‥全くもって理系要素はない。経済理論を学ぼうと経済学部に入ったはずだのに、‥おかしいなあ。

 きちんと卒論も書いたし、単位も取ったのでそこら辺は問題はない。サークルの先輩に誘われて‥っていっても、コネがあるわけではない状態で‥この会社に入れたのも結果的には良かった。

 脱線したが、‥全く理系っぽいことは分からない。

 金属の曲げ強度だとか引っ張りの強度だとか‥そういうのもあるかもしれないが、‥分からないから仕方が無い。しかも、分かったからって言って、その「理想の金属」を手に入れようと思ったらまた一苦労だ。

 とにかく、手近にある金属を試しまくるのみ、練習するのみ。だ。それに並行して、理想の金属も探していこうと思う。

 まず、試す。

 目下の目標は、「ボールに耐えうる金属を探す」だ。

 今のところ、サンプルは『アルミ合金のプルタブ』だけ。今後、鉄やら、可能なのであれば、金だとか銀だとか、プラチナとか試してみたい。‥実験に金とかって‥ちょっと躊躇するけどな‥っ。

 その次は、指にそれを付けたとして、それは身体のどのくらいまでカバー可能なのか。

 例えば、身体全体が守られるのか? これって重要だ。

 そんなことを考えながら、今日のお昼休みも

「国見。キャッチボール! 」

 いつもの後輩を見つけて、先輩の爽やかスマイル全開で誘ってみた。

 先輩の‥がポイントだ。先輩のお願いって、基本断れないでしょ? あと、笑顔。笑顔で頼んでる人間を断るってのも、なかなか勇気いるよね! 流されるよね! 普通は!

 って思ったのに

「嫌だっ、ってんだろ! 」

 思いっきり嫌な顔全開の、後輩。

 ええ! おかしいなあ!

 ‥そっか、国見に俺は先輩認識されてない‥。というか、国見にとって、お願いをきくって対象は‥きっと男ではない。例え先輩・上司認識されてようと‥「どうでもいいもん」なのだろう。

 女の子だったら、別だろう。

「仕方ないなあ」

 って後輩に先輩面。

「任せて下さい」

 って先輩に、いい後輩の顔。

 ‥想像でき過ぎて辛い。

 女性に優しく男に冷たい徹底した男、国見。

 普段ならどうでもいいが、今回ばかりは憎いぞ!

「そこをなんとか! 」

 現在俺は、さっきまでの「先輩の威信」も何処へやら、頼み倒している。

「‥どうしたの、この頃小嶋君は‥」

 そんなに親しくない事務員さんには、その様子が珍しかったようだが、

 国見やら、中川さんにとってはそんなに珍しいものでもなかったらしい。(ってか、慣れて来た)

「くどい! 」

 国見は‥俺以上に通常運転だ。

「流石に私も引きますよ‥」

 中川さん、もうちょっと前までは、もう少し俺に対する扱い良かったですよね??



「‥‥‥」

「今日は止めるぜ! 」

 で、なんだかんだで

「一回だけ! 」

 って拝み倒して、留めに明日の昼ご飯をおごる約束までしてキャッチボールをしている。

 国見は、何だかんだでいい奴だし、結構『流されるタイプ』だ。そういうところは、(今この場合はありがたいが)先輩としては心配だ。

 ※もっとも、そんなことをヒジリに気遣われていると知ったら、国見だって「お前には言われたくない」と激怒することだろう。

 まあ、それよりは今は、実験だ。

 休み時間は有限だ。

 いつも通りグローブをはめる。勿論、その下には金属を潜ませている。

 今日の金属はちょっと大きめなボルト! (これ、なんの金属だろう。よくわからないな! )指にはめられたのが良かった。

 指以外でもいいのかな。ネックレスならもうちょっと素材もありそうなんだけど‥。でも、アクセサリーを付ける習慣が無いから、ちょっと抵抗はある。母さんもしてないし、貰ったこともない。ココで言う、婚約指輪みたいなものは、あっちにもあるんだけど‥それすらあの二人は送り合ったりしたかどうかわからない。そもそも、父さんと母さんってそうラブラブカップルじゃないよね? 

「いくぞー! 」

国見が叫ぶ。

 叫ぶっていっても、そこそこ距離があるから聞こえるように、ってだけのことで、やる気満々ってわけじゃ勿論ない。嫌そうだし、なにより面倒臭そうな顔をしている。

「こい! 」

 俺は、気合を入れて前を向く。

 自分で取るんじゃなくって、

 金属にまかせる。

 で、手をぶらんとさせたままの俺に



 バシイ! うぐお!

 今日も、ボールは直撃した。

 今日は‥鎖骨か‥。

 ‥国見が確実にキャッチしやすいボールを投げてくれてる証拠だね‥。

 因みに、このボルトもどうやらアルミだったみたいです。‥真鍮とかステンレスとかもあるらしいから、探してみようと思います‥。



 鎖骨を抑えて座り込む俺に国見が駆け寄る。

 その顔には多少の心配と、

「おい! 聖、お前ホントいい加減にしてくれ! 」

 過半数の呆れ。ってか、怒りも混じってる。

「もう一回! 」

 国見を見上げて、例の青汁のCMみたいなセリフを言ったら

「ホント勘弁してくれ~!! 」

 ‥ガチで怒られた。



 ‥児嶋くんって‥凄く運動神経がないんじゃないとしたら、‥ヤバい人じゃね?



 巷で‥ってか、今ではこの事務所どころか、(同じ会社の)他の事務所の人間も知るところになっている噂になってるようだ。

 ホント、止めて欲しい。

 吉川はため息をつきながらコーヒーを口にした。

 噂を他事務所にまで広げたのは、‥女子事務員だ。

 この前、別の事務所の女の子が書類を取りに来てたなあ‥って思ったら、これだ。そこで事務員同士が情報交換をしていた。きっとあのときだろう。

 女子のおしゃべりは、怖いね。

 そもそも、聖がわるいんだけど。

 


「児嶋さん、指輪買ったんですか? ‥怪しい~。彼女ですか? 」

 事務員の三島さんの声に、つい耳が向いてしまった。

 彼女?

 ‥いや、別に聖にも彼女位できるだろうけど‥、けどな‥。

 胸がちくっとする。

 聖の事を特別な意味で『好き』だから?

 そういう風に考えたくないって思ってたし、実際に普段はこんなこと思わない。

「いや? これ、丈夫そうでしょ? 鉄なんだ」

 聖は、ホントに何にも思わなかったんだろう。指輪の素材の話を始めた。

 その顔は、得意満面って感じだ。

 ‥よっぽど鉄が嬉しかったんだな。

 付き合いの長さから分かってしまう。

 多分、「彼女云々」の話をされた事すら気付いて‥意識してないのだろう。

 彼の頭には今「鉄! 」しかないんだ。‥普段、頭が悪いわけでもないのに‥器用じゃないんだろう。一つ、こう! って思ったら、とにかくこう。

「丈夫? ‥鉄? 」

 三島さんの顔が、思いっきり「ハテナ」になっている。

 実際俺も、意味が分からんのだが。

 ‥鉄がそんなに嬉しいのか? 今日のラッキーアイテム的なものなのか? そもそもそんなの信じてるのか?? 信じる者は救われる‥的ななんかか? ‥なんか、悩んでるなら相談してほしい‥。

「うん! あ! 国見~! キャッチボール! 」

 その(悩んでるかもしれない)聖本人は、元気いっぱいに今日も後輩の国見にキャッチボールの誘いをかけ

「ホント! 聖いい加減にしてくれ! 」

 今日も、思いっきり断られている。

 ‥国見のあの「ガチで嫌」って顔‥!

「俺がやる」

 ふう、ため息を一つついて聖からボールを奪う。

 とつぜんの俺の登場に、ポカンとした顔を一瞬して

「‥いや、ぶっちゃけもう、だれでもいいや」

 ぼそり、と呟き

「じゃあ、吉川、頼む」

 笑顔で俺を見る。

 その笑顔に‥

 え? 俺、何?? 目おかしくなった!? 

「ああ‥」

 一瞬息を呑んでしまった。



 で、ちょっと緊張したキャッチボール。

 俺が心なし緩めに投げたボールは、聖のグローブにはじかれて落ち、だのに聖は

「よっしゃあ! 止められた!! 」

 とはじけたように笑った。

 ‥止められた? 受けるじゃなくて? さっき絶対、グローブにはじかれたよね。‥あそこに転がってるってことは、当たって落ちたんだよね?? キャッチボールって受けるもんじゃない??

 しかも、見たことない様なテンションで大喜びしてるし。

「‥よっぽど嬉しかったんですね‥」

 毎日、『キャッチボール(?)』に付き合ってる中川さんも、驚いているところを見ると、これは「珍しい」ことなんだろう。

 国見は呆れてるけど。

「国見! 見たか! 俺の実力! 」

 その呆れてる国見に、聖はドヤ顔で何故かグローブを見せた。

「へえへえ」

 あの国見の顔‥。

「児嶋先輩‥」

 中川さんも呆れてるし。

 しかも、なんか聖のドヤ顔‥。

 可愛い(←さっきから俺は何なんだ)んだけど‥なんか‥

 俺は黙って足元に転がって来たボールを拾って国見に軽く投げた。

 国見が黙ってボールを受け取り、俺に頷いて見せる。

「これも受けてみろ!! 」

 国見のボールは、結構今まで見たことのない程の速さで‥

 聖に向かって行ったのだった。

 バキィ! ふごお!

「‥やっぱり、国見のボールは、鉄でも止められないな‥! 」

 鎖骨を抑えながら、何故か聖はにやり、と笑い、スポコンマンガみたいなことを言った。

 やべえ。ヤバい人かもじゃなくて、ヤバい。可愛いけどヤバい。‥しかも‥

 ‥また、鉄か!!


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