40.どちらにしても、‥友は俺に厳しい。~正しいか正しくないかは別として~
「聖? 」
‥ん?
ああそういや、さっき吉川なんか言ってたな‥。
「あ、そういや、吉川さっきなんか言ってなかったけ? 」
「‥なんで、断られる‥嫌がられるってわかってて、聖はまた、国見に頼むんだ? 」
吉川の表情は、不機嫌そうだ。
普段から、そんなに機嫌の良さそうな顔はしていないが、別に吉川は不機嫌なわけではない。ただ、愛想がよくないだけだ。でも、今彼はガチで不機嫌なんだろう。そして、その「不機嫌」が今は俺だけに向けらてるってのは明らかで、ちょっと気が重くなる。
‥いや、ただ国見が頼みやすいから、だろ? ‥それ以外何がある‥いや、まあ‥分かってはいるんだけど‥
ああ! 分かるだろう! 察してくれ! 気まずいんだ! ‥吉川と二人っきりになると、答えを有耶無耶にしてる‥罪悪感がね‥。
そもそも、俺みたいなヘタレに、‥何かを期待しないで欲しい‥。俺は、ただ平和に暮らしたいだけなんだ。みんなお友達ってね。
‥いや、違う。別に吉川は俺を責めてなんかいない。
‥寧ろ、「何気まずくなってるんだ」って‥感じなんだよね?
分かってる。吉川は‥俺に気を遣ってくれてる。
駄目だよな、俺‥。
「寧ろ、また、だからだけど‥。この前頼んだのに、今度は別の奴って‥へんだr「俺、全然気にしねえけど」
国見が俺の言葉に被せてきた。
そんな国見をちょっと睨んで
「それにさ‥。だって、‥吉川はインドアじゃん。それも、超」
俺は続けた。
‥まるで恋人に浮気がバレた時みたいな感じ?
俺は、しどろもどろ吉川に「言い訳」した。
因みに、国見のことは、無視だ。スルーだ。
「キャッチボール位する」
俺に冷たい視線を、しかし逸らすことなく向けながら、吉川がさっきと同じくいつもより心なしか低い声で言った。
同じく国見を無視して、だ。
「無視かあ! ったく。‥じゃあ、吉川サン、聖のことよろしくっす」
国見がため息をつきながら去って行って、その後を、中川さんが吉川に軽く会釈して追う。
‥置いて行かれた。
ごめん、嘘。無視してごめん。置いてかないで‥。
「‥あの‥。吉川‥。その、この前はアリガトウ。今日も‥今も心配してくれてアリガト‥」
ぽそり、
心なしか顔が赤い。(と思う。顔が熱いからきっとそうなってるだろう)
お礼をいうのって、緊張するね‥!
「‥一体どうしたんだ? お前はこの頃‥」
ふう、とため息をついて、吉川がさっきまでの不機嫌全開モードをちょっと緩めてくれた。
「‥体力をつけたいんだ。それも、早急に」
俺は、‥吉川に「100%嘘」はつきたくないって思った。
俺は嘘が苦手だから、きっと、最初の設定覚えとくとかってのも無理だろうし。後で‥嘘だってバレたら、それこそややこしいし気まずいだろう。
不誠実で、嫌だし。
「早急? どういうことだ? 」
吉川が首を傾げた。
「‥この前、幼馴染に久し振りに会ったんだ。懐かしいって‥思ったのは、俺だけで、幼馴染は俺があんまりにも自分のすべきことをしていないことに、怒ってた」
「‥お前実は、凄い才能があるなんかの選手とかなのか? それで、「待ってても試合には出てこないしどうしてるんだ? え! 辞めたって! 何自分の可能性自分で決めつけてるんだよ!? 」とかか? 」
‥吉川、想像力豊かだな。
でも、そうだな、そういうのが一般的な発想だよね。
「俺、昔住んでたところで、虐められてて‥。ここに逃げるように越して来たんだ。で、虐められたことも忘れて暮らしてて、‥幼馴染は、「悔しくないのか」って」
虐められるってか、100%殺されそうだったってレベルだけどね。
「‥忘れて暮らすのが悪いのか? 俺はそうは思わないけど」
吉川の顔が険しい。
その「いじめっ子」に対する怒りなんだろうか、それとも「逃げてる」と怒ってきた幼馴染に対する怒りなのかは分からない。
‥吉川のことだから、両方かもしれない。
「立ち向かうことだけが、解決策じゃないと思うけど。逃げてるだけじゃ、事態は好転しないって、思えるのは強い人間だけだ。‥しかも、相手は覚えていないかもしれないしな。「解決策」を決めるのは聖で、第三者じゃないって思うけどな!」
俺のことを、自分のことの様に怒ってくれている吉川に、俺は涙が出そうになって来た。
‥吉川は本当にいい奴だ。
「‥どうやら覚えてるみたいで、しかも、まだ俺のことを狙ってる‥っつか、なんていうか‥とにかくいい状態ではないと」
「‥それは、警察に相談レベルじゃないか? 少なくとも、お前が出て行って直接対決とかいう話じゃない‥」
吉川の表情が険しい。
「それって、逃げ‥じゃん? 」
「違う。‥さっきからお前は何言ってるんだ? お前は、お前の中の真実は、今、ここにいるお前だろ? 昔のお前のことじゃない。‥何か事情があるんだろうなとは‥思うけど、だけど、‥そんなのは、正しいことじゃない。そんな、そんな奴の理屈にお前が付き合う必要はない」
‥ああ、設定が全く間違えてたなあ。
『そういう問題』じゃない。
逃げられるって選択肢はない。
「俺は‥弱いんだ。こころとかじゃなくって、‥物理的な‥喧嘩が。だから、きっと何も出来ないだろうって思うけど‥でも、身体を動かさずにいられないんだ。‥じっと座ってたら、‥考えこんじゃって‥」
‥やっぱり、100%じゃないにしろ、嘘はつくもんじゃない。
「聖」
気が付いたら、吉川に抱きしめられていた。
「一人で悩むなよ‥。俺は、そんなに頼りないのか? その幼馴染は‥聖には悪いが、‥聖にとっていい人間だとは思えない。‥でも、別にその幼馴染の全部を否定してるわけじゃない。ただ、‥そのことに関しては、聖もその幼馴染も感情的になりすぎてるんだと思う。‥仲間内の常識とかじゃなくって、冷静に考え直した方がいいと思う。‥今はその幼馴染の事、忘れて‥」
「‥俺は、‥彼女に失望されたくない‥」
‥彼女、女なのか。過激な女だな‥
聖を抱きしめたまま吉川は思った。
‥てか、つい抱きしめてしまったが、‥どうしよう‥。
誰も通らないとは思うが‥。
でも、今離すのも‥なんか‥ちょっと違うか?
「あ! ごめん! つい! 」
って、‥ラブコメか。
これは、アレだ。泣きそうな同僚を慰めてるの図、だ。
「なんすか、吉川さん、聖。ラブか? オフィスラブか? 」
「国見‥」
「いえ、これは、『部活動で泣き言をいう後輩を、熱い先輩が身体で叱咤激励』ってシュチュエーションね。昭和の男の子向けのアニメね」
「中川さん‥」
「もう、休み時間終わりますよ」
中川さんがにっこり笑って、スマホの時計を俺たちに見せた。
え!
ややこしいことになった。
‥やっぱり、嘘は言うもんじゃない。
‥俺の為に真剣に考えて、怒ってくれた吉川に失礼なことをした。
でも、頭が覚めた。
俺は‥戦うことしか考えてなかった。
ながされて、だ。
結局、「ナツミがこう言ったから」で、自分の意志じゃない。
「こうすべきだから」もあったかもしれない。
結局、俺は甘ちゃんだったんだ。
‥ナツミに怒られても仕方が無いね。
否、怒られるから、怒られないように‥って話じゃない。
俺はもっと、考えなければいけない。もっと真剣に。人に迷惑かけないとか‥大事だけど、それ以上に「どうすれば事態を最短に、安全に終わらせるか」が重要だって‥。
そうだった。
自衛は、その為の手段で、俺が「戦う」ってことが目的ではない。
俺は、戦いのプロじゃない。
ナツミに馬鹿にされたくないから? は! そんなことは‥何だっていうんだ。
俺が勝つ時は、俺が
世界の災厄
になるときじゃない?
その覚悟もないの? ってナツミは言ってるの?
そんなのは、覚悟じゃない。‥それは、ただの‥自分の力を誇示したいだけの‥ガキだ!
「あ、児嶋さん。大丈夫です。国見君にはあとで誤魔化しときますから。私は‥そういうの理解あるから平気です」
こそ、と中川さんが俺に耳打ちして来た。
「え!? 」
そういうのって‥どういうの?!
絶対聞きたくないヒジリだった。




