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リバーシ!  作者: 大野 大樹
34/78

34.婚約者

前半は、ファー将軍目線。

「はあ、婚約者ですか」

 コテン、とラルシュ様は首を傾げた。

 金の絹糸の様な髪と、アメジストの様な瞳は幼馴染(国王)と一緒。風、水、土、火の4つも属性を持つ王家は、結構複雑な色素の目をしている。サラージ様は、火が強いから、もっと赤っぽい色をしている。

 国王譲りの目の色だけど、もっと穏やかなラルシュ様の瞳は、今は「急に何のことだろう? 」ってちょっと見開かれている。

 無理はない。

 というか、これが普通の反応だ。

 腹黒なサラージ様をみた後だと、ラルシュ様が普通のいい子に見える。

 いい子っていうか、普通の子なだけなんだけど‥。

 二三度、ぱちぱちと瞬きすると、

「わかりました。そのように記憶しておきますね」

 にこり、と微笑む。

 そして、「その話は、おしまいでいいですね」と私を見る、私が頷くのを確認すると

「じゃあ、ファー将軍、今日も稽古お願いします」

 ラルシュ様が、木刀を手に、私に向き直した。



 好きな人を、‥自分で決めることすらできない。



 王家は、‥王家の人間は、‥不幸だな。

 ファー将軍は、今朝も笑顔で自分を見送ってくれた妻の顔を想い、心が痛んだ。

 ラルシュ様はまだ7歳なのに‥。

 それを言えば、サラージ様だって、被害者だよなあ‥。



「会ったことのない婚約者‥。運命の人‥。いい人だったらいいですね」

 稽古の済んだ別れ際。ラルシュがぼそりと呟いた声に、ファー将軍はもう、今まで我慢していたであろう涙がぶわっと思わずあふれそうになった。



 本当に‥本当にいい人だったら‥いいのに‥!



「‥サラージは、自分のことがよくわかってる。幼いのに」

 泣きそうになってるファー将軍をいたわる様にラルシュが言った。

「え? 」

 ファー将軍がラルシュを振り向く。

 ラルシュはふふ、と微笑む。

「サラージは、嫌だって言わないでしょ。出来ないって言ったでしょ? 」

「‥はい」

 そう言えば、「火の属性持ちは、‥他の属性もちに比べ、穏やかな性格ではありませぬ故‥。国の災厄の機嫌を損ねかねない」って理由付きで、「出来ない」って言った。

 理由っていうか、言い訳だけど。

「でもね、‥国王だって、私が「出来ない」って思ったら、私には振らないよ。‥私にこの「仕事」を振ったのは、私ができると思ったからでしょう。‥私は、出来る。サラージは自分に向いていない仕事を、出来る人間に振っただけなんだ。サラージは正しいよ」

 穏やかに微笑む。

 ラルシュ様は、「優しい」んじゃない。

「‥ラルシュ様‥」

 優秀なんだ。

 決して、貧乏くじを引かされているわけではない。

「人一人を、一生幸せにするなんて大仕事ですねぇ。私は、いまからもっと強く、賢くならねばなりませんね」

「剣を、もっと鍛錬しましょう」

 ちょっと食い気味に、言ってしまった。‥ラルシュ様に、私にできることは、‥そのこと位です‥っ!

「そうだね」

 穏やかに、やさしく微笑むラルシュ様の強さ、

 ‥冷静さ。

 私は、ラルシュ様を心配したり、憐れんだりする‥出来る立場じゃない。

 ラルシュ様なら、大丈夫だ。

 寧ろ、婚約者(リバーシ)! ラルシュ様を不幸せにしたら許さないからな!!

「ふふ、ファー将軍は、涙もろいなあ。‥ていうか、何で泣いてらっしゃるんですか。まるで、娘をお嫁さんに出す父親の様ですよ」

「え?! 」

 ‥なんと! 勝手に涙が‥。これは、感動の涙かな。ラルシュ様があんまり立派になられたから‥。

 焦る私に、くすくすとお笑いになり

「私はね。結構運がいいんですよ。周りにいる人に、分け与えられるくらいにね」

 ラルシュ様がおっしゃられた。

「泣かせてしまったら、私もまだまだだなあって思います」



「この子の名前はヒジリです。女の子だから、女らしくおしとやかに育てたいです。‥いいわね。アンタたち、ヒジリを虐めたりヒジリにチャンバラごっこを教えてはいけませんよ」

 ヒジリママは、近所の悪戯坊主に言い聞かせた。

 悪戯坊主たちは、ヒジリママの腕に抱かれたハニーブラウンの髪の女の子を見上げて

「うん」

 としぶしぶ頷いた。

 ‥こんな田舎で、女らしくおしとやかになんて育つかよ、そももそ、ヒジリママ自体がおしとやかでも女らしくもないじゃねえか。

 しかも、子守りさせる気満々だな。面倒くさい。

 という言葉は、でも、言ったらきっと怖いので黙っておくことにした。

「見せてよ、『ヒジリ』リバーシなんだろ? 」

 その中で、唯一、子供ヒジリに興味を持ったのは、一番年下の少年だった。

 今まで自分より年下が居なかったから、「よし! 子分ができた」って思ったのだ。

 初めての、「子分」である。

「ええ」

 にこり、とヒジリママが笑う。

 覗き込んだ悪戯坊主が、偶然目をあけたヒジリと目が合った。

 瞬間、

 ゾクリ

 何とも言えない、嫌な感じがした。

 その悪戯坊主は、所謂魔力持ちだったから、ヒジリの並みより高すぎる魔力に、あてられたのだ。

「ひ! 」

 そのまま後ずさった一番年下の少年を見て、ヒジリママは「あら、魔力持ちだったのね」と小声で呟いた。

「どうしたんだよ? 」

 他の少年が、魔力持ちの少年を取り囲んで、変な顔をする。

 まだヒジリは少年たちの方をぼんやり見ているのだが、怯えているのは、さっきの少年だけの様だ。

「‥なんでも、ない」

 少年が、ごくり、と唾を飲み首を振る。

「変な奴だな」

 他の魔力の無い子供たちは訝しそうに彼の様子を見つめた。

 


 ‥こいつ、絶対、魔王だ。‥只ものじゃねえ。絶対子分とかじゃない。寧ろ‥子分にされかねない。こいつには、近づかない方がいい。



 そう思ったのはその時だけ、その後ヒジリは学校に行くまでの間、結構普通に、お裁縫の上手な近所の奥様に裁縫を習ったり、料理上手の母親に料理を習ったりして、女らしく‥というか、地味に暮らした。

 魔力持ちだからって、全員、ヒジリの魔力に当てられるってわけでもないんだ。

 相性って奴だ。

 相性が合わないと、あの少年のようになる。

 それに、赤ん坊で魔力の「隠し方」を知らない時に比べて、少し大きく成ったヒジリは魔力をそこそこ操作できた。だから大人なら、気にならない程度だろう。

 ‥気にしないでおこうと思えば、だ。だけど、感受性の強い子供なら、問題なく拾ってしまう。「まあいいか」で誤魔化されてくれない。

 それに、学校に行けば、魔力持ちの子供にも多く出会う。

 そしたら、例の彼と同じ感情を持つ人間も増える。そして、気が付けばヒジリは孤立しており、ヒジリの傍には‥

 ナツミが寄り添うようになっていた。

 ナツミの趣味は、魔道具作りとアクセサリーの制作。成績は優秀。人当たりも、丁寧でヒジリママにとっても、理想的な女友達。

 表立っては、である。

 楽しそうにナツミと遊ぶヒジリがまさか、毎日殺されかける程の魔法を親友であるナツミに試されていることは今はまだ、ヒジリママは気付いていないのだった。



 運命のあの日。



「ヒジリをお願いします! 」

 泣きながらラルシュにヒジリのことを頼むナツミ。

 はからずして、婚約者と対面したラルシュ。

 その後、誰かから逃げるように立ち去ったナツミを保護すべく、保安部隊を動員したが、ナツミはついぞ見つからなかった。

 


 現在。

 目が覚めたスリーピングビューティーは、何故か真の魔王ナツミに絶賛ロックオンされ中だ。

 最高位の武闘派(!)魔法使いで、反対勢力に属しているナツミは王国で第一級のお尋ね者だ。

 ヒジリとは幼馴染なはずなのだが‥

 何かあったんだろうか? 

 ヒジリはその理由に

「俺は、ナツミと戦う! それで、ナツミに認めてもらう。その上で、もう一回ナツミと友達になる!! 」

 どうやら、心当たりがあるようだ。

 心当たりはあるが、恐れないし、それどころか関係修復を目論んでいる。

 ‥無茶なことは止めて欲しい。

 ラルシュは、眉を寄せて心配そうな表情でヒジリを見つめた。

 ミチルは、はあ、と一つ小さくため息をつくとヒジリに

「‥友達になるの? ってか、今まで一度でも友達だったことあった? 」

 苦言を呈し、呆れた様な表情を向ける。

 止める気もない様だ。

 きっと、ミチルも「その時は、仕方ないから自分も手伝うかあ」みたいなこと思っているんだろう。

 なんだかんだ言って、ミチルは友達想いだし、‥おせっかい焼きだ。

「ツンデレってやつだよ! ナツミは素直じゃないからね! 」

 ヒジリは、結構怖いもの知らずで、周りをドキドキさせる。

 自信満々なんだけど、多分、根拠とか計画とかなくって、結構行き当たりばったり。

 ヒジリは真っ直ぐだし、単純だし、人を恨んだりする心が、ない。

「え~!? 俺は、そんな女の子嫌だなあ~」

 ミチルも私も「それって、これから先困るんじゃない? 」なんて思いつつも、「まあ、なんとか「する」か」って巻き込まれる気満々だから、‥手に負えない。

「可愛いじゃん!! 」

 知り合って、そんなに時間もたっていないのに、多分、ミチルも私もヒジリのことをヒジリの両親と同じくらい知ってるかもしれない。

 ‥ヒジリはそれっ位単純で。

 オープンなんだ。

 あ、友達と同じくらい、とは言わないよ。ある程度大きく成ったら、親より友達の方がきっとヒジリの事知ってるだろうって思うしね。恋人だったらもっと、って思うけど、ヒジリは今まで恋人を持ったことは無かったみたい。‥そもそも、恋人つくるとしたら、女の子なんだろうか、男なんだろうか?



「ラルシュはどうだ? 」

 突然、ミチルがラルシュを振り向いた。

「え? 」 

 急なことで、ラルシュは目をぱちぱちしている。

「話‥聞いてないし。‥ツンデレの女の子ってどうだって話してたんだよ」

 ミチルが不満そうな表情をラルシュに向ける。

 ‥勿論、君たちの話なんて聞いてなかったよ? ‥さっきまでの話って、私も入っている感じだったっけ??

 ヒジリがニコニコしながらラルシュを見る。

 答えを期待されてるのかな? ‥だけど、聞いてなかったから何の話かわからないよ? 

「‥ラルシュは答えない気みたいだな」

 ミチルが、にやりと笑い

「卑怯な」

 同じくにやりと笑ったヒジリと共にラルシュをくすぐる為に近づいてくる‥っ!

「あははははは。止めてよっ」

「ラルシュ様もそんなに大笑いされるんですねぇ! 」

「ラルシュは、結構笑い上戸だぞ? 」



 運命の人は、‥どうやらいい人みたいでした。

 やっぱり、私は運がいい。

 にこりと笑うラルシュだった。


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