31.貧乏くじ
この国って、長男以外、結構要らないって‥そういう扱いが隠せてないんだよなあ‥。
俺たちには、この家(城)に置ける価値は無いけど、利用価値はある。
もっとも、裏切らない家臣。
それが、多分俺たちの位置づけ‥。
「西に、強大な力を持つリバーシが産まれたとの報告があった。膨大な魔力は、歴代一とのことらしい。‥敵に回っては、それこそ一大事だ。常に監視を付けて、少しでも疑わしい動きを見せたら、その時は、いや、それより‥完全に育ち切る前に殺して置いた方が‥」
隠れるように、ぼそぼそと低い話し声が聞こえた。
なんの悪だくみだ、城で悪だくみとはいい度胸だな。
とはいえ、普通の人間にはこの話し合いは聞こえないだろう。
これは、俺のスキル‥最上位 情報収集のスキルがあるからこそ聞こえるものだ。
でなければ、俺の部屋のある二階から、父親の執務室(一階)で話す声が聞こえるわけがない。
しかも、執務室には勿論の事ながら、声が漏れないように結界が張り巡らされている。
それを潜り抜けられるようになったのは、俺ほどの天才であれ、結構最近だ。
密談をしているのは、父上である国王と‥軍部のトップ、ファー将軍だった。
‥おっと、軍と父上が密談って、穏やかじゃないね。もう一人いるようだ。三人目は‥誰だろう。
内乱でも起こってるのか? そっと、聞き耳のスキルを強化する。
「そんなに危険なのか? 」
三人目は大臣の様だった。
中の様子は見えない。声だけで判断する。何とか頑張れば、三人いるとか、‥人数位は気配で分かるのだが‥流石に顔までは見えない。これも、鍛錬次第では、性別‥もしくは、身長くらいまでは分かるようになるかもしれない。
スキルの鍛錬に、ゴールは無いな。
と、スキル鍛錬オタク気味の王家の三男坊・サラージは、小さく頷いた。
密談は続いている。
「感情で魔力を使われたら、それこそ国家滅亡の可能性だってあるとのことでした‥」
ファー将軍の言葉に大臣が短く「ひっ」と声を上げた。
ファー将軍と大臣、国王は昔からの馴染み‥所謂幼馴染で仲が良く、三人だけの間だったら割とフランクに話したりするようだ。
「成長して魔法を身に着けて、その魔法を使われたら、‥それどころじゃなくて、今の感情が安定していない状態でも、魔力が爆発したら危険‥ってレベルって話か? 」
大臣がファー将軍に詰め寄った。
「そうだな」
慌てている大臣に対して、ファー将軍は、どっしりと落ち着いている。
頼れるおじさんって感じで、俺はファー将軍を尊敬している。大臣は‥でも、別に頼りないとかじゃない。確か、年もファー将軍や国王より若いし、気さくな感じで俺の相談相手にもなってくれるいい奴だ。
落ち着きも、‥おいおいついていくだろうと思う。
‥それにしても‥
大臣じゃないが、‥とんでもないな。今度生まれたリバーシ。
‥国家滅亡レベルってどんなだ。それも、気分次第でってことだよな?
‥どんなんだ。一触即発の爆弾か。
導火線に火をつけたら、どか~んか?!
絶対、一生会いたくないね。
機嫌損ねないように、相手の顔色見ながら話すとか、ホント無理。
ポーカーフェイスもまだまだだって家庭教師に呆れられてるのは、‥でも、情けないから引き続き練習しようとは思ってるけど‥でも、‥王家の客ならまだしも、ただの平民相手にヘラヘラぺこぺことか、ない。
‥まあ、俺には関係ないと素通りしようとしたら、
「ラルシュ様かサラージ様の婚約者として‥国に保護することが得策かと」
という大臣の声が聞こえた。
は? 俺か、兄上?
固まった。
俺は嫌だよ、そんな危険なゴリラみたいな奴のお守。
大臣‥俺はお前に何かしたか? 何かうらみでもあるのか?
恵まれているとはいえない境遇の俺たち(ラルシュ兄と俺)にいつも親切にしてくれてたじゃないか?
所詮、‥大臣は俺たちより国家‥父上の方が優先ってことか‥。そりゃあ、‥そうだよな。分かってるけど、ちょっと‥落ち込んだ。
まあ、今はそんな場合じゃない。
爆弾ゴリラの婚約者の話だ。
‥生れたばかりってことは、俺とは5歳差、ラルシュ兄とは7歳差か。
うん、7歳差なら、ある。
俺はまだ子供だから、婚約とか無理‥(いや、相手はもっと小さいんだけどさ‥)
ラルシュ兄は、人当たりもいいし、短気じゃないし、‥それどころか人を怒らせてるのも怒ったのも見たことないし、爆弾のお守には適任じゃないか!
「見えているぞ、サラージ。さっきまでの話聞いていたんであろう。‥サラージであったら、5歳差で」
ふう、と小さくため息をついて、父親である国王がサラージを「見た」。
おお‥見つかった。
最高位の 危険察知。いや、これは心眼‥かな? まあ、兎に角、父親に隠れて情報収集が無理なこと位‥分かってるさ。
ファー将軍も小さく頷く(ファー将軍も軍人だけあって、こういう能力に長けている)。大臣だけは、ちょっと驚いた顔をした。
大臣は、ワンフロア分突き破る程の気配察知のスキルはない。
大臣は、そのかわり、常時攻撃結界が張れるから、大臣が自分で気付かなくても、結界の方が自動的に敵意を持って近づく他人を攻撃してくれる。
ちょっと、うっかりしている大臣にはぴったりのスキルだと思う。だけど、このスキルを取得するにあたって、大臣が「自分はちょっとうっかりだ」って自分のダメさをまず認めないといけないから、‥そういう点では偉いと思う。
‥攻撃する結界の設置も骨が折れるしね。なんか、空間がどうだって説明してたけど、俺には難しくて分からなかった。大臣は体力より知力って感じなんだ。そういうところは、俺も同じだ。俺は、‥情報至上主義だけど。
そうしている間も、階下からの威圧が半端ない。
国王だろう。
この威圧。兄上二人も持っているが、‥意外にも、三人のなかでラルシュ兄が一番強い。穏やかな兄だから、本当に意外って感じがする。
‥現実逃避しててもダメらしい。
サラージは、眉をしかめて
「今そこに参りますから、お待ちください」
と、小声で呟いた。
‥俺には、父上の声が聞こえるけど、父上に俺の声が聞こえたかどうかは分からない。
俺はため息をついて、重い足取りで階段を降り、国王の前で片膝をついて頭を下げた。
跪くと、父上はまるで大男のようにも見える。
遥かに遠い、‥神にも等しい存在。
国のトップである国王に従い敬う、国家第一の臣下。国王の息子とはいえ、王位継承の無い俺たちの存在。‥俺たちの血には、国家服従の呪いが掛かっている。
国王がサラージに起立を促し、発言を認めると、サラージは小さく頷き、
「リバーシの婚約者には、ラルシュ兄がいいと思います。私は人間的にまだまだ未熟で‥しかも、私の属性は火。‥火の属性持ちは、‥他の属性もちに比べ、穏やかな性格ではありませぬ故‥。国の災厄の機嫌を損ねかねません」
国王に進言した。
父親が黙って頷く。
「国の災厄‥それは、此度生まれたリバーシのことか‥? そのような呼び方をしては、‥気の毒であろう」
「だって、そうではないですか。‥そんなのの為に、自分の人生を犠牲にとか、‥冗談じゃありません。王家に生まれた以上、国のお役に‥とは常日頃考えてはおりますが、私の性格から考えてその役目は、‥不適任かと」
「‥口ばかり立つのう‥」
はっきりと断言するサラージに、国王が苦笑する。
まだまだ子供っぽさが目立つサラージのこういう発言を、国王は心配してもいるが、また、快いとも思っている、
「しかし、サラージ様のおっしゃることは‥正しいかと」
幼い頃からサラージの一番の遊び相手になってくれていた大臣が苦笑いする
「確かに。サラージ様にはちょっと向かないかもしれませんな。サラージ様は少し、短気ですね」
こう頷いたのは、ファー将軍だ。
散々な言い様だな。
‥王家の王子だというのに、一番上では無いから、‥この扱い。
王位継承者(長男)以外は、一臣下。
今更、そんなことで怒らないし、落ち込みもしないけどね。
「では、ラルシュに任せるとしようか」
せめて、自分の立場位自分で守らないと。
より、平穏かつ、充足感と向上心の持てる境遇を自分で手に入れないと。
その為には、誰かの犠牲だって‥辞さない。
それが、自分の兄であろうとも、だ。
妹はちょっとは可愛いけどね。(もっとも、そう会ったことはない)
姉は‥そういえば、会ったことすらない。関係ないし、別にいい。
そんな話し合いと、俺の暗躍のお陰で、貧乏くじを引かされることになったラルシュ兄は、(さっきも言ったが)二つ上の俺の兄だ。王位継承者の長男・サイダラールの一つ下の弟で第二王子に当たるんだけど、まあ王位継承権が回ってくることは絶対にない。
我が国は、皆長命だし、最高の医療魔法師が付いている王家であったら、産まれてきたらさえ、寿命まで死ぬことは、ない。だから、まあ、サイ兄が、第一位の王位継承者っていわれても、そうそう継承することはないだろう。国王が元気なら継承する必要はないからね。
それ位の気長いスパンで継承されている。
魔力や、スキルの有無が寿命や老いにも影響するから、魔力が高かったり、魔法やスキルに長けた王家は総じて、皆いつまでも若いし寿命も長い。
王家は、特別なんだ。
特別と言えば、リバーシも特別だ。
リバーシの魔力と言えば、例え王家と言えども太刀打ちできない程高い。
だから、リバーシは皆寿命が長いしいつまでも若い。‥結構年齢不詳な者が多いんだ。
‥寿命から考えても、リバーシと王族の婚姻はそう珍しいことでもない。よりよい血を残せるかもしれないしね。(※実際、リバーシの子供がリバーシになることはあまりないが、それでも魔力量が多い子供になる確率は高い)
それに、リバーシはとんでもない美形も多い。それは「魔力が余ってしょうがないし、特に反乱の意思なしという態度を分かりやすく示すため」らしい。
それは、王家の様に「遺伝されていく美形」とは違う。リバーシ本人が作り上げた理想の「美しさの結晶」ならしい。
つまり、余った魔力を使って美貌をアップさせてみました。別に謀反なんて起こしませんよ。力を蓄えてませんよ。ってアピールなんだろう。と同時に、周りに「自分はこれだけ自分の理想を形にする力がある」って自分の力を示したりする。‥結局リバーシにはナルシストが多いんだ。「自分で思い通りに出来る理想の自分の顔」が自分だから、自分の顔に持てる力を使いたい‥って人間は多い。
政治より美容の方が興味あるって人間がリバーシには多いね。
まあ‥それはそうとして。
国内随一の魔力量だっていうんだから、爆弾ゴリラはきっと将来はとんでもない美形になる確率が高い。
だけど、俺も容姿はいい。だから美形に対する憧れとかはない。寧ろ「それがなに」って思う。
‥まあ、何が言いたいかって、俺には千に一つも爆弾ゴリラに惹かれる要素がないってこと。(別に俺の顔がいいって自慢してるわけでは無い)
ラルシュ兄にとっても、それは変わらないし、穏やかで優しいラルシュ兄は、女受けがすこぶるいいから、多分一生女に困ることは無いだろう(※5歳児が言う事か)
相手なんか選びたい放題ってことだ。
今回、そのラルシュ兄が婚約者を持つという話が出たら、泣く女の人も多いだろうなあ。
‥なんて考えると、ちょっと面白い。
まあ、お飾りだけの妻にして、本妻は他に持てばいいんだろうけど、ラルシュ兄はそんなことはしないんだろうな。不器用だし。真面目だし。(※5歳児が言う事か)
「ラルシュは、最上位の意識操作(状態異常)をもっておるしな。本人は無意識らしいが。‥奴は真面目じゃから、気が付いたら思い悩みそうじゃな。‥しかし、最上位の威圧(状態異常)の進化版じゃから、‥まあそう気にしないかもしれないな。わざわざ、使わないだろうが」
にやにやと「ろくでもない事」を考えている俺を置き去りにして、父上たちの話はまだ続いていて‥
そして、完全に決定事項になっていた。
「そうですね。あとは、魔道具で服従を強化させましょうか? 」
と、大臣が鬼畜発言をし
「そうだな。基本、城から出さない。誰にも会わせない‥気付かせないように監禁する方がよかろう」
ファー将軍がもっと鬼畜発言をする。
‥三人だと、ホントろくでもない話しかしないな。この人たち‥。
俺が居るの覚えてるかな‥。そもそも‥俺が5歳児なの覚えてるかな‥。




