30.心理的な枷と肉体的な「枷」
今回、ヒジリの母視点です。
ヒジリの出生時の回想を中心に‥。
「わあ! 」
俺は、急な浮遊感を感じて、その場から、消え去った。
「ヒジリ?! 」
母さんの焦った顔が見え、
俺の身体は、そのままその場から消え去った。
「‥‥」
12時になったら、消える。あっちの身体を思い出す前の「ヒジリ」は、こっちの「霊体」だけだったんだけど、(肉体があった時と同じように)12時にはぴたりと動きを止めて寝てしまった。
多分、本体についたブレスレットから魔力が供給されるのがその時間だったんだろう。
だから、ヒジリは動きを止め、魔力の充電を行っていた。
ブレスレットを外し、あっちの身体をヒジリ自身が思い出した今。ヒジリは、12時になったら、ミチルさんと一緒にあっちに帰っているらしい。
すっと身体が消えたのを初めてみた時には、‥凄くびっくりしたし焦った。‥こっちにいるのが霊体だから、そうなるのは当たり前なんだけど、やっぱり実際に見ると驚く。ヒジリが消えてしまったって思ったわ。(例の一緒に祖国に帰った時の事だ)
あっちではスリーピングビューティーって呼ばれてるみたいだけど、12時になったら「魔法」がとけるなんて、まるで「シンデレラ」みたいね‥。
その場に残されたヒジリの母親は、ヒジリの消えた場所をぼんやり見ながら、苦笑した。
‥ヒジリの未来は、ヒジリの望み通り選ばせてあげたい。
とも、思う。
そもそも、ヒジリにあのブレスレットがつけられることがなかったら、‥こんな選択肢なかっただろう。
あっちで、ヒジリはやっぱり悩みながら、自分の将来について考えただろう。
職業やら、結婚について、だ。
あっちにだって、女子の就業の習慣はある。別に女だからといって専業主婦が多いわけではない。
でも、そうだな。こっちと違って、事務系の仕事ってのはそうない。市役所だとか、ギルドの受付、あと、城に働きに行くとかいうのはあるけど、‥ここみたいにそう事務職ってない。
機械化されてないから、書類でのやり取りってのが少ないんだ。
売る、作る、買う。
相手の顔が全く見えないなんていう状況はそうない。
インターネット取引だとか、先物取引‥そういった仕事はあっちには存在しない。
こっちは便利だけど、人との繋がりが‥「遠い」。
あっちの人間にとって、こっちは知識を得るための留学先ではあるけど、移住したい憧れの地ってわけではない。老後をこっちで住みたいって話は聞いたことがない。
魔法を少しでも持ってる人間は、単純に不便だからという理由。魔法を持っていない人間でも、こっちの空気の悪さだとか人口の多さに、そう住みたいとは思わないだろう。
私も思っていた。
だけど、ここにすんで10年近く。少しは慣れた。
人の顔も覚えたし、このごろようやく先入観なしに人と付き合えるようになった。
‥こっちの人間、表情が乏し過ぎ。(特に、この国「日本」は‥ってことなのかしら? )
表情が乏しいもあるんだけど、そもそもシャイだよね。こっちの人。付き合えばいい人って分かるんだけど、最初は遠巻きに眺められてたりして、ちょっと‥怖かったよ。
カルチャーショックだね。
そもそも、リバーシじゃなかったら、こっちに来れることなんてないんだから、‥ヒジリのお陰で貴重な体験させてもらってる。でも、リバーシじゃない自分は、この「電子機器」とやらを、魔力を動力として再現することはできない。そう、知識もないから「そうか、こういうふうにやればいいんだな」って気付くこともない。
だから、料理ならって思ったんだ。
そういえば、リバーシが料理をあっちの世界に広めたって少ない。
そんなに食に関心がある人が留学しなかったんだろうな。こっち(ミチルの言うところのSideA)からあっちにいったリバーシに、あっちの人間が求める知識でもなかったしね。
でも、勿体ない。
調味料だけじゃなくって、調理法だって、こっちの世界は凄く豊富だ。
食べただけじゃどう調理されてるのか、一体何の調味料をつかってるのかわからないものが多い。「市販品」は特にだ。
ここでも、「生産者」と「消費者」の距離が遠い。
マヨネーズは、売ってるけど「ネット」で調べてみたら、自分でも作れないものでもないことが分かって、是非あっちで作ろうと思った。
こっちは、便利だ。
お店で何でも「既製品」が買える。
服だって、安い。
豊かで、便利だ。
こんな便利なところから、なんで「ミチル」さんは、あっちに毎夜出掛けて行くんだろう。
(※魔法が使えるのが楽しいとかいうつまらない理由が一番の理由だとは、ヒジリママさんは知らない)
リバーシにしか分からない理由ってのがあるのかもしれない。
ヒジリもリバーシだ。
そうだ。だから、ヒジリの職業の選択肢は、あっちの標準的な子女とは、違う。
あの魔力を、無駄にする選択肢は国から補助金をもらっている以上、ない。
実際、ヒジリが寝かされていた時に掛かったお金も、補助金を充てた。王子様は「気にしないでもいい。私のお金から出す」と税金からお金が使われるわけではないことを言ってくれたが、‥私たちは断った。
ヒジリには、補助金が国から出ているから、それでお願いできますか、と。
ああそうか。
王子様は、自分がお金を出すのを私たちに気を遣わせないために、ヒジリに求婚したのか‥。ヒジリは将来有望で、しかも、監視が必要な危険人物だし(※魔力が高すぎて暴走すると国の災害レベルと懸念されている)
一目惚れとか、‥どう考えても、ないんだよね。
確かに、ヒジリは、それ位美しいが、王子様が一目惚れってのは、ない。多分。
でも、‥そういう未来があったならば、って思う。
ヒジリが怒ったりして、国の災害レベルの危険性が認められたなら‥ヒジリはきっと問答無用に解禁され、封印されるかもしれない。‥それならばまだしも、最悪は、討伐されるだろう。
魔物か‥。
ヒジリが産まれて、魔力の属性と魔力量の器を神官が調べてくれた時に、ヒジリがリバーシだって分かった。神官はニコニコして、
「女の子だから将来は聖女にもなれましょう」
って祝福してくれた。
「なあに、魔法は使えないようですが、土の属性がある。植物を祝福する練習を今から積めば、農耕の聖女になれるでしょう」
って。私は、特別な子供を産んだことが、本当に嬉しかった。
だけど、別の神官が、魔力の器を詳しく調べて‥、血相を変えて、部屋を飛び出した。
読んでこられたのは、‥騎士の団長様(※普段から面識がなさ過ぎて、とてつもなく偉いんだろうということは分かるのだが、一体何者かすら分からない)だかなんだか、一般人である私たちは一生会わないであろう‥軍部の偉いさんだった。
頼りになる、という以上に、厳つく厳しく‥、私は出産間もなかったのだが、思わずベッドから飛び降りて、床にひれ伏した。隣では親族もそうしていた。
「そう畏まれずともよい」
と、笑うと案外優しそうな顔をした髭の団長は言ったが、その後、彼の部下により説明された話は、私たちをもっと青ざめさせた。
曰く。
国には、リバーシの脅威の為に一部隊精鋭を揃えおり、来るべき日の為に日々の鍛錬を欠かさず行っている。
努々、「馬鹿なことを」考えぬよう。
と。
馬鹿なこと、リバーシをけし立て、国家存亡を企むやら、そういう‥大それたことを考えるな、と。
その場で、誓約書を書かされ、ヒジリに識別タグみたいな魔道具が付けられた。
リバーシの位置の大まかな把握をする為‥ここでいうGPSの様なものだ。耳の後ろにピアスみたいについてるのが、それだ。この前、ミチルさんを見た時にもついていた。
見てるから、‥下手なことはするな。
国民はそんなこと知らない。
国のそんな面を知らない。‥私たちにも、守秘義務契約をさせられた。
ヒジリにも、言ってない。
でも、私たちは、ヒジリなら心配ないって思う。
その時、かちっと時計が真上で重なる音がした。
‥え? 今、12時になった? だってさっき、ヒジリは‥っ!?
そして、次の瞬間。
ヒジリが、戻って来た。いや、‥戻されたって感じで‥。ヒジリは、そこにたたきつけられたように倒れ込んだ。
「ヒジリ!! どうしたの? 急に消えたから、驚いたわ」
思わずヒジリに走り寄った。。
「触らないで!! 俺のこと、‥今は放って置いて!! 」
「ヒジリ?! 」
酷く青い顔をして、‥
怯えてるんだって、瞬間に思った。
でも、違う。
この顔は‥。
怒ってるんだ。
‥駄目だ、ヒジリ怒っちゃ。一定以上の「怒り」に、識別タグが反応したら‥!
あの魔道具は、GPS機能だけじゃない。その一番の目的は、脳波の管理だ。
ちょっとした日常的な変化は察知しない。
ある一定以上の感情の変化‥特に怒りを察知した時、‥軍部にその警告が行く。
‥軍部が、ヒジリを敵と認識したら、ヒジリは‥!
「ヒジリ‥」
私は、息をのんだ。
いけない。‥ここで、ヒジリを触発したら‥。
でも、大丈夫だった。ヒジリはふう、と大きく息を吐きだして、‥自分の息を整えた。
「ここで、怒ったら、思うつぼだから‥。俺は、ナツミに言われたから‥怒るんじゃない‥」
ぼそり、
聞こえるか聞こえないか位の声でヒジリが呟いた。
私はヒジリの‥眼光‥否、光を失ったような視線に、思わずゾッとした。




