29.勝てば官軍負ければ賊軍。皆にとっての正義は‥ない。
勝てば官軍負ければ賊軍。
今、官軍は城だから、反対勢力は賊軍ってことになる。
城は、反対勢力にリバーシが渡らないように、ありとあらゆる対策を練っている。
反対勢力は、悪だから。
だけど、反対勢力だって、自分の考えを正義だと信じているわけだし、反対勢力にだっていろんな考えの人がいる。
悪だ、正義だっていう決めつけは‥でも、平和ボケした国(SideA)に住む、俺たちにはきっと分からないんじゃないかなあって‥思う。
否。今そんな気がした。‥してた。
「ヒジリ。久し振りね」
にこりと笑う、
相変わらず超絶可愛い幼馴染を久し振りに見た、今、
そして、どうやら彼女が反対勢力に属しているらしいという事を知った、今。
反対勢力ってだけで、正義じゃない『悪』だって、決めつけられるのか、決めつける必要があるのか、って。
政党があるみたいに、ただ、考え方が違う人々を認める必要は‥でもあるんじゃないかって。
「ナツミ! 」
ああ、ナツミにあったら何ていおうって思ってたっけ?
「ナツミ‥俺‥いや、わたし‥」
俺は、‥ないな。だって、ここでは女の姿なわけだし。
「ん? 」
優しくナツミが微笑む。
ナツミは、‥大人っぽくなった。
肩までに切りそろえられた髪の毛は、機能的で、あそこでの俺みたいに「如何にも非戦闘員」って感じじゃない。ナツミのズボンタイプの機能的な服は、如何にも「戦えそう」なスタイルだ。
でも、‥ここどこだろう。
ナツミの恰好は、‥あっちの女の子の標準的な服装のシンプルなワンピースじゃなかったけど、所謂『sideA』って服でもなかった。
たぶん、sideBなのだろう。
「どうした? ヒジリ。怖いの? 私の事? 」
ナツミの顔を見たまま黙ってしまっていた俺を、ナツミが心配そうな顔で覗き込んできた。
「違うよ!! そんなわけない‥」
慌てて否定する。
俺は‥
ヒジリに会えたら、言おうって
「あの時はよくもやったな! でも、‥もう大丈夫だから安心して」って言ってやりたい。
もう一回友達になろうって
「あの時は‥よくもやったな‥」
俺は、おずおずと、口を開いた。正直、どんな顔して幼馴染を見ればいいかなんて、分かんなかった。
ちょっと、恥ずかしい。
でも、‥嬉しい。
嬉しいけど、そんな顔見せるの、ちょっと悔しい?
だから、顔をちょっと伏せた。
耳がとてつもなく熱いから、きっと真っ赤な顔してるだろう。
「うん。どの時かな? ‥子供の時のこと? 」
だのに、聞こえて来る幼馴染の声は、全然、平然としてて、なんか
余裕綽綽って感じ。
‥悔しい。
「違う‥あの時‥」
悔しくってちょっと、怒ったような声だしちゃったかも。‥今まで男として暮らして来たら、‥ナツミを驚かしてないかな。‥怯えさせたくないよ‥。
ちらり、と視線を上げる。
ナツミは、コテンと首を傾げている。
‥よかった。怯えてないみたい。
それに、‥可愛い。
「ヒジリは、私の事怒ってるの? 怒ることなんて、出来ないでしょ」
と、そこで、くすりと笑った。
‥ナツミ?
そこで、ナツミを纏う雰囲気っていうのかな、オーラみたいなものが変わった気がした。
ちょっと、周りの空気が冷えたって感じ‥
俺は、顔をあげてナツミを見た。
ナツミの表情は変わっていない。
コテン、と首を傾げた、相変わらず可愛い顔。
だのに
「だって、ヒジリは‥あんなに魔力があるくせに、臆病なんだもの。ああ、意気地なしよね。‥違うわね。守られてるから、危機感が無かったのよ。‥私が本気で殺すとは思ってなかったのよね。‥幸せな子」
ナツミの声が少し、低くなってる。
「‥ナツミ‥? 」
「それとも馬鹿にしていたのかしら、私の事。私如きの魔法じゃ自分は殺せないって。思い上がりもはだはだしいわ。生まれつき魔力が高いだけの女が‥」
「ちが‥違う、ナツミ‥」
あの言葉の後に、俺は、なんてつなげたかったっけ? 。「でも‥
‥もう大丈夫だから安心して」
何が大丈夫?
俺は、‥思いあがっていた‥。
「自分が偉い様な‥選ばれた様な気にならないで‥!? ねえ、‥今度は、平和ボケ? 全然、殺気も感じられないわ。あの頃には、あった緊張感すらなくなってる。ブレスレットが取れた気配がしたから、会ってみようって思ったら、‥何、貴方は‥どうしちゃったの? 組織に関する敵意だとか、‥復習してやろうって‥そんな気持ちにすらならないの? 馬鹿にしてるの? 私の事みたいに」
「ちが‥ナツミ‥何を言ってるの? ‥分からないよ‥」
「分からない? 分かろうとしてないの間違いじゃない? 普通、‥命を狙われたんなら、必死になって力をつけて、やられないように‥やられる前にやろうって思うんじゃないの? 王子に助けられて、‥逃げきれたら、何とかなるならそれで‥って思う? 普通‥。誰かに迷惑かけるって‥気付かない? 思わない? 」
馬鹿に仕切った、目。
俺をあざけり、呆れかえった、顔。
友達になろう?
俺は、今まで何を思っていたんだろう。‥
ナツミは今まで、‥一度も俺のことを友達だなんて‥
いや、ラルシュに俺を預けた時は、‥友達だと思っていてくれたのかもしれない。
だけど、再会した俺が‥全然、平和ボケしてて
きっと、ナツミは呆れた。
俺が‥ナツミを失望させた。‥俺が‥。
「私を‥元のところに返してくれない? 私の事腰抜けだって中傷するなら、‥誘拐なんて卑怯なこと、止めてくれないかな。そういうことしといて、よくそんな偉そうなこといえたもんだね」
俺は、震えそうになる声を励まして、なるべく平静な口調で言った。
怖くて震えてるんじゃない。
これは、怒りで震えているんだ。
ナツミにじゃない。
甘ちゃんで、‥厚顔無恥な自分に対して、だ。
真っ直ぐにナツミを見る俺の視線に、‥もうナツミを懐かしいとか思う気持ちは‥きっとなかった。
人は、薄情だ。
あんなに、会いたい。謝りたいって言ってたのに、自分に敵意を隠すことなく向けられ‥嘲笑されて‥、今はただ、怒りしか感じていない。
俺は、なんて‥思いあがった人間なんだろう。
ナツミの事、俺は、馬鹿にしていたんだ。‥可哀そうなナツミって‥同類みたいに感じて、でも、それでも、俺の方が魔力が強い、もともと持ってるもんが違うって‥。憐れんで‥?
俺は、‥汚い。
お城の奥で、姫様みたいに守られてきた、自分が、兎に角恥ずかしい。
ラルシュに
両親にただ、謝りたい。
まず、俺のこと、殴りたい。
「あら、お姫様。そんな正義は、私たちには、在りませんわ。卑怯だとか、‥それがなんだっていうのかしら? 」
ナツミが相変わらず口元に嘲笑を浮かべて、言う。
「姫?! 馬鹿にしてるのか?! 」
俺は、ナツミを睨み付けた。
ナツミは益々面白そうに、笑う。
「お城の貴方を、見たわ。一度、窓辺に出てきたことがあったでしょ? 結界が張られててもちろん入れないんだけど、窓辺は‥それでも見える。外からね。あの時の貴方、今の恰好と違って、まるで‥お姫様みたいだった。髪の毛が長くって、ふわふわしてて、真っ白な肌で、手なんて、華奢で、細くって‥」
「止めろ! 」
「あら、褒めてるのよ。‥本当に綺麗だった。‥何にも、役に立たない誰かに守ってもらうしかないお人形そのものだった」
「止めろ!! 」
俺は、二度目はもっと強い口調で叫び、
ナツミが俺にかけていた術を引きちぎった。
スキル 何でも水に変えるチートなスキル!!
いつのまにか俺に絡まりついていた、つたみたいなやつが全部、水になってばしゃりと落ちた。俺は、それをそのままにしないで。
「水の龍! 」
そのまま、状態異常させた。
混合スキルの応用。
状態異常と攻撃魔法の混合だ。
水の龍は、ナツミに走って行って、彼女に絡まる。
そして、絡まり切ったところで
「氷結! 」
俺は、水の龍を氷に変える。
「ほら、やっぱり戦う気なんて、無い」
氷の龍に巻き付かれたミチルがにやり、と笑う。
あざける様に、‥でも
その顔は、そのまま
俺に対する憎悪に変わって‥
「ヒジリ、貴方のことは直ぐにでも殺せる。だけど、今殺しても仕方ないし、利用するだけしなきゃ意味が無いから、今は逃がしてあげる。私の思い出の中にいた、あの正義ぶったお優しいだけの顔が、今の顔にすり替えられただけでも、収穫だったかしらね! 」
氷が割れて、
俺は、元居た場所にはじき返された。
「ヒジリ!! どうしたの? 急に消えたから、驚いたわ」
母さんが驚いた顔で、俺に走り寄る。
「触らないで!! 俺のこと、‥今は放って置いて!! 」
「ヒジリ?! 」
俺は‥つ!




